Custom Search

Language

Contents

アンケート

本サイトをおとずれた理由

本サイトをおとずれた理由は何ですか?

  •  プログラム概要閲覧
  •  研究会情報
  •  プログラムメンバー
  •  フィールドステーション
  •  報告閲覧
  •  プログラム成果閲覧
  •  写真閲覧
  •  公募
  •  その他
このアンケートにはさらにもう 2 件、質問があります。
結果
他のアンケートを見る | 96 voters | 0 コメント

ログイン

ログイン

「成果の発信に向けて―第3巻と第5巻の研究成果より」[第43回パラダイム研究会] (パラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

第43回パラダイム研究会「成果の発信に向けて―第3巻と第5巻の研究成果より」
日 時:2011年11月28日(月) 16:00-
場 所:稲盛記念館3F小会議室Ⅰ

 

 

報告1

「生存基盤指数とそのインプリケーション」
佐藤孝宏・和田泰三

 

報告2

「グローバル・ヘルスの展開とケアの倫理」
西真如

 

「留学生による研究成果報告会」[第42回パラダイム研究会] (パラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

 

ASAFAS/CSEASでは、アジア・アフリカ諸国の人材育成を促進する目的で、地域研究の博士号取得を目指す海外の若手研究者を受け入れるプログラムを実施しています。今回のパラダイム研究会では、博士論文を執筆中の3人の留学生に、研究の進捗について報告してもらいます。

 

3名はそれぞれ、「バングラディシュにおける洪水と河川浸食への対処」、「泥炭湿地林の保全と、地域住民の生計に対する環境サービス」、「農業開発を目的としたイスラム金融」という非常に興味深いテーマを追っておられます。博士論文に取り組んでいる院生の皆さんにとっても参考になると思いますので、奮ってご参加いただきますようお願いします。

 

 

第42回パラダイム研究会「留学生による研究成果報告会」
日時:2011年10月17日(月) 16:00-
会場:稲盛記念館3F中会議室

 

1. 報告 (16:00-) 

Mohammad Najmul Islam
"Coping Strategies from Flood and River Erosion Hazard Risks on Char
(Island) Livelihood within the Padma Riverine Area in Bangladesh"
コメント:河野泰之(京都大学東南アジア研究所教授)

 

Haris psf Gunawan
"Peatswamp Forest and Restoration Experiments to Promote the Local
Community Livelihood and Ecosystem Services Functions in Riau
Biosphere Reserve, Indonesia"
コメント:小林繁男(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科教授)

 

Hakimi Shafiai
"Islamic Finance for Agricultural Development: Theoretical and
Practical Considerations, With a Special Reference to Activation of
Idle Land in Malaysia"
コメント:小杉泰(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科教授)


2. 総合討論 (16:45-)

 

「生存基盤の歴史的原点を問う」[第41回パラダイム研究会] (パラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

第41回パラダイム研究会を実施します。今回は、「生存基盤の歴史的原点を問う」として、非常に長いタイムスケール(地球環境史/生命の歴史/人類史)のもとで、人類の生存について考える内容となっています。大学院生・若手研究者にとっても、ふだんフィールドで接している人たちの「生存基盤」について、より大きな視野から捉え直す機会になるかと思います。

 

研究会では、「生存基盤論講座」(GCOE最終成果出版)の第1巻1編を執筆される脇村先生、斎藤先生、松林先生からそれぞれご報告を頂いたうえで、杉原先生、田辺先生にコメントをお願いしています。

 

第41回パラダイム研究会「生存基盤の歴史的原点を問う―第1巻第1編の成果の検討」
日時:2011年9月12日(月) 16:45-
会場:稲盛記念館3F中会議室

 

プログラム

 

1. 第1編の成果 (16:45-17:30)
「地球環境史における生存基盤と熱帯(第2章)」
脇村孝平(大阪市立大学教授)
「人類史における最初の人口転換(第3章)」
斎藤修(一橋大学経済研究所客員教授)
「人間の生存基盤と疾病(第4章)」
松林公蔵(京都大学東南アジア研究所教授)

 

2. コメント (17:30-18:00)
杉原薫(京都大学東南アジア研究所教授)
田辺明生(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授)

 

3. 総合討論 (18:00-)

 

 

【活動の記録】
 今回のパラダイム研究会では、叢書第1巻第1編の内容について意見交換を行った。第1巻第1編の目的は、生存基盤の歴史的形成を検討することで、「生産」の人類史から「生存」の人類史に向けて、その展望を示すことにある。
 まず、脇村孝平氏(大阪市立大学)は、かつて人類の「故郷」として捉えられていた熱帯が、なぜ生存にとって不利な場所と見なされるようになったのかについて、「ミクロ寄生(microparasite)」をキー概念に考察した。つぎに、斎藤修氏(一橋大学)は、近年の考古学および古病理学の成果を踏まえたうえで、人類史最初の人口転換の過程が中産中死から多産多死への転換過程であったことを示した。最後に、松林公蔵氏(京都大学)は、進化と適応をキー概念に、人間の疾病に焦点をあてて、地球圏・生命圏・人間圏の相互作用をダイナミックに検討した。
 上記の報告に対して杉原薫氏(京都大学)は、熱帯におけるミクロ寄生の克服方法とは何か、非感染症疾患と高齢社会とのかかわりとは何かなどの質問を行った。また、もう一人のコメンテータである田辺明生氏(京都大学)は、二足歩行や農業革命の意義について質問を行うとともに、生存基盤の「歴史」からみた生存基盤とは何かなど、きわめて重要な問題をあらためて提起した。
 

(佐藤史郎)

「大学院教育の取り組みと成果」[第40回パラダイム研究会] (パラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日時:2011年7月11日(月)16:00-18:10
場所:稲盛財団記念館中会議室

 

16:00-16:15 「大学院教育の取り組みと成果」
伊谷樹一(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
西真如(京都大学東南アジア研究所)

 

16:15-17:30 「研究報告」
「近現代イスラーム世界におけるパン・イスラーム主義運動と持続型生存基盤の構築」
平野淳一(千葉大学)

 

「タンザニアのサンダウェ社会におけるニセゴマ利用とその社会的意義」
八塚春名(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

 

「木材からみる持続的な生態資源利用―インドネシア・フィリピンの事例から」
鈴木遥(京都大学東南アジア研究所)

 

17:30-17:50 「大学院教育改革支援プログラムの取り組みと成果」
金子守恵(京都大学人間・環境学研究科)

 

17:50-18:10
総合討論

 

=====================
ASAFASにおける大学院教育の取り組みと成果について報告します。GCOEプログラムの支援を受けてフィールド調査を実施し、博士論文を提出した若手研究者の方々の研究報告もおこないます。加えて、大学院改革プログラムの成果について、同プログラムの実施に深く関わってこられた金子守恵さんに報告いただき、大学院改革とGCOEの両プログラムの実施によって、どのような教育上の相乗効果があったのか、検討する機会にさせて頂きたいと考えています。  

「地球圏の論理と生存基盤の持続」[第39回パラダイム研究会] (パラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日時:2011年6月20日(月)16:00-18:30
場所:稲盛財団記念館中会議室

 

今回は、過去の経験や現在の科学知によっては制御できない種類の「地球圏的な力」を前にしたとき、生存基盤の持続はどのように可能なのかという問題について、考える機会にしたいと思います。

地球圏的な力は、我々の生存基盤を一瞬で奪い去ると同時に、永続的な生存基盤を与える源泉でもあります。当日は下記プログラムの通り、地球圏と生存基盤の関わりについて問題提起を行い、その上で「インド洋津波後の復興」と「太陽エネルギーに依拠したエネルギーシフト」の話題を中心に、議論を行いたいと考えています。

 

16:00-16:15 問題提起 「地球圏の論理と生存基盤の持続」
杉原薫(京都大学東南アジア研究所)

16:15-16:25 問題提起 「人間圏の攪乱要因としての地球圏の力をどう見るか」
和田泰三(京都大学東南アジア研究所)

16:25-16:55 報告 「生存基盤として見た社会的流動性の高さ―インド洋津波後のアチェの事例から」
西芳実(京都大学地域研究統合情報センター)

16:55-17:25 報告 「太陽エネルギーに依拠したグローバルなエネルギーシフトの可能性」
篠原真毅(京都大学生存圏研究所)

17:25-17:45 コメント
清水展(京都大学東南アジア研究所)
木村周平(富士常葉大学環境防災研究科)

17:45-18:30 総合討論

 

【活動の記録】
今回のパラダイム研究会の目的は、われわれ人間が制御することができない地球圏の力に対して、いかにして生存基盤を確保するか、その方途を模索する点にあった。まず、杉原薫氏(京都大学東南アジア研究所)は、本研究会の問題提起として、生存基盤の一次的確保、二次的確保、三次的確保の概念をそれぞれ説明した。そのうえで、生存基盤持続型の発展径路を構想するためには、生存基盤確保型の発展径路を復権させると同時に、そこに先端技術や効率的な制度を吸収する方向性を出す必要性を指摘した。つぎに、和田泰三氏(京都大学東南アジア研究所)は、30年間の平均人口10万人あたりの地震、津波、火山による死者数のデータを用いることで、地球圏による人間圏への撹乱状況を説明するとともに、生存基盤指数を構築する際の今後の課題を指摘した。つづいて、西芳実氏(京都大学地域研究統合情報センター)は、2004年のスマトラ沖地震・津波の最大の被災地であったインドネシアのアチェ地方を事例に、創造的復興をどのように捉えるべきかについて、主として流動性と柔軟性をキーワードに検討を試みた。最後に、篠原真毅氏(京都大学生存圏研究所)は、太陽エネルギーに依拠したグローバルなエネルギーシフトの可能性を考察するために、宇宙太陽発電所(SPS)を取り上げて、その特徴と研究状況について報告した。また、科学者と社会の関係についても報告した。
以上の報告に対して、清水展氏(京都大学東南アジア研究所)は、西報告に対して創造的復興と権力の空間との関係などについて、篠原報告については長期的視野に立ったうえでの科学技術に対する評価などについて、それぞれ質問を行った。また、木村周平氏(富士常葉大学環境防災研究科)は、被災の記憶とローカルをベースとするネットワークの強弱、社会の科学者に対する不信と科学者による社会への不信などについて質問した。フロアーからは、インドネシア国軍の対応、宇宙に関するガバナンス、技術・制度・知識のインターフェースなど多くの質問がなされ、終了予定時間を大幅に越えて、議論は大いに盛り上がった。

(佐藤史郎)

「最終成果出版に向けて:第6巻の構想」[第38回パラダイム研究会] (パラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日時:2011年5月16日(月)16:30-18:30
場所:稲盛財団記念館小会議室Ⅰ

 

 

(趣旨)
第6巻は『持続型生存基盤論ハンドブック』と題されており、G-COEの研究成果を次世代教育に結びつけることを目的としています。全体は、第1編「既存の学問から持続型生存基盤論へ」、第2編「持続型生存基盤論の眺望」、第3編「持続型生存基盤論グロッサリー」から成り立っています。今回はこの内、とくに第2編に焦点を合わせて、内容・形式の両面にわたって検討を加えます。G-COEの進捗状況に鑑みて、付け加えるべき項目がないのかといったことも合わせて考えたいと思います。なお、当日はアジア・アフリカ地域研究研究科・グローバル地域研究専攻・持続型生存基盤論講座の学生の参加も予定しており、教育現場からのフィードバックも期待したいと考えています。

 

(プログラム)
16:30-16:45:全体構想
「第6巻全体の構想」
東長靖(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授)

 

16:45-17:15:第2編の構想(各10分)
「第2編の構想:地表から生存圏へ」
石坂晋哉(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科客員研究員)
「第2編の構想:生産から生存へ」
西真如(京都大学東南アジア研究所特定助教)
「第2編の構想:熱帯から温帯へ」
佐藤孝宏(京都大学東南アジア研究所特定助教)

 

17:15-18:15:個別項目の検討(各20分)
「個別項目の検討(1):地表から生存圏へ」
河野泰之(京都大学東南アジア研究所教授)、コメント:石坂晋哉
「個別項目の検討(2):コモンズ」
生方史数(岡山大学環境学研究科准教授)、コメント:西真如
「個別項目の検討(3):発展径路」
杉原薫(京都大学東南アジア研究所教授)、コメント:佐藤孝宏

 

18:15-18:30:総合討論

 

【活動の記録】
2010年11月(昨年度)から、最終成果刊行物に向けて、これまで5回の研究会を行ってきたが、今回の研究会は、その最終となる第6巻『持続型生存基盤論ハンドブック』に関する議論となる。第6巻は他巻とやや趣旨が異なり、G-COEの研究成果を次世代教育に結びつけることを目的としている。全体は、第1編「既存の学問から持続型生存基盤論へ」、第2編「持続型生存基盤論の眺望」、第3編「持続型生存基盤論グロッサリー」から成り立っている。

今回の研究会においては、まず、編者の東長靖氏より、第6巻全体の構想が説明された。その後、特に第2編に焦点を合わせて、構想の発表ののち、具体的な個別項目を取り上げて、活発な議論がなされた。全体を通して、各編の内容・形式の両面にわたって、確認と検討・議論が行われた。議論においては、各編について、いくつかの重要な新たな項目の追加や変更の提案がなされた。
 

 

(文責 舟橋健太)

[第37回パラダイム研究会] (パラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日時:2011年4月18日(月)16:00-18:00
場所:稲盛財団記念館中会議室

16:00-17:00
佐藤史郎(東南アジア研究所・特定研究員)
「非西洋的国際関係論の再検討―アジア・アフリカ地域の視点から」
コメンテーター:峯陽一(同志社大学グローバル・スタディーズ研究科教授)

 

17:00-18:00
濵元聡子(東南アジア研究所・研究員(科学研究))
「〈被災地〉から〈かかわる場〉へ― 生存基盤が支える個人とコミュニティの復興再生の研究」
コメンテーター:清水展(京都大学東南アジア研究所教授)
 

【活動の記録】
今回のパラダイム研究会は、次世代研究イニシアティブ報告会との共催により行われた。内容は、これまでのパラダイム研究会であまり議論が行われてこなかった、国際関係理論と震災からの復興支援に関する報告の2つである。
第1の報告では、現在の国際関係理論が西洋の知的ヘゲモニーに立脚しているとの認識から、アジア・アフリカの視点から既存理論の相対化を図ろうと報告者 が試みている、非西洋的国際関係理論の構築に関する研究の紹介が行われた。コメンテーターからは、主権国家システム生成の歴史を地域間で比較する必要性 や、国際関係理論に「多様性」の概念を導入するための非ヘゲモニー的な視点の導入などについて意見がなされた。その後のフロアを交えた議論では、理論的研 究と現実空間の関係、ASEAN型のネットワークを基軸とした国際関係理論の可能性など、地域研究と国際関係論の連携に向けた様々な議論が行われた。
第2の報告では、震災復興プロセスにおける外部支援者と被災コミュニティの「かかわり」を、いかにして被災者の生存基盤につなげてゆくかについて、イン ドネシアにおける3つの震災復興支援での経験をもとにした提案がなされた。その後の議論では、発表者が得た知見を東日本大震災やインドネシア全体にどのよ うにフィードバックしてゆくべきか、震災多発地域において「地震」がどのようにローカルな知に組み込まれているのかといった議論や、コミュニティの外部と の関わりを肯定的にとらえようとする新たな復興再生アプローチに関する意見などが出された。
対象としている領域空間には差異があるものの、両発表とも関係性に関する既存の認識枠組みを相対化しようと試みた意欲的な発表といえよう。持続型生存基盤パラダイムを形成するうえで、上記のような視点をいかに包摂してゆくべきか、引き続き議論を行ってゆく必要がある。
 

(佐藤孝弘)

「最終成果出版に向けて:第5巻の構想」[第36回研究会 パラダイム研究会共催] (第2パラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日 時:2011年3月28(月) 2011年3月14日(月)   16:00 ~ 18:00
(※日程が変更されました)

場 所:京都大学東南アジア研究所  稲盛財団記念館3階 小会議室I

 

 

報告者:
16:00 報告1「第5巻の趣旨と構成」
佐藤孝宏(G-COE)
16:10 報告2 「第1編 既存指標の生成過程とその批判的継承(主章である第1章に関して)」
峯陽一(同志社大学)
16:30 報告3 「人間圏の指標化とその限界(第2編および第3編の内容について)
和田泰三(G-COE)
16:50 報告4 「地球圏・生命圏の指標化とその限界(第2編および第3編の内容について)」
佐藤孝宏(G-COE)
17:10~ 総合討論
司会:佐藤史郎(G-COE)

 

 

趣旨
生存圏の構成要素である地球圏・生命圏・人間圏は、その歴史的生成過程において「循環」「多様性」「自我と共感能力」という固有の論理を発展させてきた。生存基盤持続型の発展を実現するには、これまでの人間中心的な価値観から、3つの圏に固有の論理に配慮した価値観への転換が必要である。第5巻では、GNPや人間開発指数といったこれまでの開発指標におけるイデオロギーを批判的に継承したうえで、「持続型生存基盤パラダイム」を具現化する生存基盤指数を提案するとともに、その限界についても明示することで、これからの世界のあるべき姿を提示・検討する。


 
 
  私たちは、2010年11月から、最終成果刊行物に向けて、これまで4回連続で研究会を行ってきた。今回の研究会は、その最後にあたるもので、第5巻『生存基盤指数からみる世界』について議論を行った。
  まず、佐藤孝宏氏(G-COE助教)は、第5巻の趣旨と構成を説明した。つぎに、峯陽一氏(同志社大学教授)は、既存の指数の展開を批判的に振り返ったうえで、生存基盤指数の意義について報告を行った。そして、和田泰三氏(G-COE研究員)は人間圏に、佐藤孝宏氏は地球圏と生命圏に焦点を当てて、それぞれの指標化とその限界について報告を試みた。
  以上について、多くの重要な質問がなされたものの、とりわけ重要であったのは、人間圏の量的指標となる「人口」の評価軸をめぐる議論であった。また、国レベルの尺度についても議論が集中するなど、生存基盤指数の今後の課題が明らかとなった。

 

 

 

「最終成果出版に向けて:第5巻の構想」[第36回研究会、第2パラダイム研究会共催] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日 時:2011年3月28(月) 2011年3月14日(月)   16:00 ~ 18:00
(※日程が変更されました)

場 所:京都大学東南アジア研究所  稲盛財団記念館3階 小会議室I

 

 

報告者:
16:00 報告1「第5巻の趣旨と構成」
佐藤孝宏(G-COE)
16:10 報告2 「第1編 既存指標の生成過程とその批判的継承(主章である第1章に関して)」
峯陽一(同志社大学)
16:30 報告3 「人間圏の指標化とその限界(第2編および第3編の内容について)
和田泰三(G-COE)
16:50 報告4 「地球圏・生命圏の指標化とその限界(第2編および第3編の内容について)」
佐藤孝宏(G-COE)
17:10~ 総合討論
司会:佐藤史郎(G-COE)

 

 

趣旨
生存圏の構成要素である地球圏・生命圏・人間圏は、その歴史的生成過程において「循環」「多様性」「自我と共感能力」という固有の論理を発展させてきた。生存基盤持続型の発展を実現するには、これまでの人間中心的な価値観から、3つの圏に固有の論理に配慮した価値観への転換が必要である。第5巻では、GNPや人間開発指数といったこれまでの開発指標におけるイデオロギーを批判的に継承したうえで、「持続型生存基盤パラダイム」を具現化する生存基盤指数を提案するとともに、その限界についても明示することで、これからの世界のあるべき姿を提示・検討する。


 
 
 

 私たちは、2010年11月から、最終成果刊行物に向けて、これまで4回連続で研究会を行ってきた。今回の研究会は、その最後にあたるもので、第5巻『生存基盤指数からみる世界』について議論を行った。

 まず、佐藤孝宏氏(G-COE助教)は、第5巻の趣旨と構成を説明した。つぎに、峯陽一氏(同志社大学教授)は、既存の指数の展開を批判的に振り返ったうえで、生存基盤指数の意義について報告を行った。そして、和田泰三氏(G-COE研究員)は人間圏に、佐藤孝宏氏は地球圏と生命圏に焦点を当てて、それぞれの指標化とその限界について報告を試みた。

 以上について、多くの重要な質問がなされたものの、とりわけ重要であったのは、人間圏の量的指標となる「人口」の評価軸をめぐる議論であった。また、国レベルの尺度についても議論が集中するなど、生存基盤指数の今後の課題が明らかとなった。

 

 

 

[第9回研究会] (第2パラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2011年2月28日(月)  16:00 ~ 18:00
場 所:稲盛財団記念館3F 中会議室

 

 

 

「最終成果出版に向けて:第2巻の構想」[第35回研究会] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2011年2月16日(水) 2011年2月21日(月) 18:00-20:00
(※日程が変更されました)

場 所:京都大学東南アジア研究所  稲盛財団記念館3階小会議室Ⅰ

 

第35回パラダイム研究会は、これまでの研究会に引き続き、
最終成果である叢書の刊行に向けた議論を行います。

今回は、第2巻の全体像と各編の内容について、報告していただきます。 

報告者:
柳澤雅之(京都大学地域研究統合情報センター准教授)
河野泰之(京都大学東南アジア研究所教授)
神崎護(京都大学大学院農学研究科准教授)

 

趣旨
生命圏の空間的多様性や歴史的変動の中で、人間は生命圏に適応し人間圏を形成してきた。その適応の過程には、多様性や循環といった生命圏の論理の中に人間の活動の歴史が刻印され新たな生命圏が絶え間なく生成されるプロセスと、地域社会が人類の知的財産としての技術と制度を介し、人間圏の論理の中に生命圏を内在化させてきたプロセスの双方を見出すことができる。本巻では、熱帯の地域社会の事例を題材に、生命圏と人間圏の新たな関係性について検討する。

 

18:00 報告1「全体の構成」
柳澤雅之(京都大学地域研究統合情報センター)

18:15 報告2「地域社会がつくる生命圏の成り立ちと変容」
柳澤雅之

18:30 報告3「農村社会の発展径路」
河野泰之(京都大学東南アジア研究所)

18:45 報告4「生命圏と人間圏をつなぐ技術」
神崎護(京都大学大学院農学研究科)

19:00 総合討論

 

[第8回研究会] (第2パラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2011年1月31日(月)  16:00 ~ 18:00
場 所:稲盛財団記念館3F 中会議室

 

[第34回研究会] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2011年1月24日(火)  16:00 ~ 18:00 (日付が変更になりました)
場 所:京都大学東南アジア研究所  稲盛財団記念館3階小会議室Ⅱ

 

【要旨】
最終成果出版に向け、第4巻の構想について検討します。第4巻は、リアウでの事例研究にもとづき、熱帯から見た生存基盤持続型の発展が、具体的な地域社会においてどのような姿を取りうるのか、地球圏・生命圏・人間圏の視点を融合した立場から論じます。当日はイニシアティブ3からの報告と他イニシアティブからのコメントに続いて総合討論を行い、第4巻と他の巻との連携・役割分担についても議論します。

 

【報告者】
水野広祐(京都大学東南アジア研究所教授)
川井秀一(京都大学生存圏研究所教授)
藤田素子(京都大学東南アジア研究所特定研究員)

 

【活動の記録】
今回の研究会は、最終成果出版に向けて、第4巻の構想について検討を行った。まず、水野広祐氏(東南アジア研究所教授)は、第4巻の構想と他巻とのつながりについて説明した。つぎに、川井秀一氏(生存圏研究所教授)は、リアウ地域社会における生存基盤について検討した。また、生物多様性班からは藤田素子氏(G-COE研究員)と鮫島弘光氏(東南アジア研究所研究員)が、バイオマス社会班からは渡辺一生氏(G-COE研究員)が、そして社会経済班からは水野広祐氏が、それぞれ各班のこれまでの調査と今後の展望を報告した。討論では、「バイオマス社会とは何か」について、議論が集中した。(文責:佐藤史郎)

「持続可能な発展(SD)指標のレビューとSD指標の枠組み試案」[第7回研究会] (第2パラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2010年12月22日(水)  17:00 ~ 19:00(時間変更)
場 所:稲盛財団記念館3F 小会議室II


発表者:橋本征二 (国立環境学研究所)
コメンテータ 湯本貴和 (総合地球環境学研究所)

 

*時間帯が「16:00~18:00」から「17:00~19:00」に変更しております。ご注意ください。


*橋本先生のご報告の前に、佐藤孝宏氏と和田泰三氏による生存基盤指数に関するレビュー報告が行われます。

[第33回研究会] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日 時:2010年11月15日(月)   11月12日(金)  16:00 16:30~ 18:30
場 所:京都大学東南アジア研究所  稲盛財団記念館3階中会議室    小会議室Ⅱ 

 

■趣旨
最終成果出版に向け、第1巻の構想を討議します。第1巻では、熱帯を中心とした環境・技術・制度の長期的なダイナミズムを俯瞰し、熱帯から見た生存基盤のありようを、世界の歴史と現在の中に位置づけます。

杉原先生には、第1巻の全体構想と第2編、第3編の狙いについて報告を頂きます。第2編では、生存基盤の観点から科学技術の役割を検討するために、経済史、医学、農学、工学の立場からの知見を紹介します。また第3編では、制度とそれを支える思想、価値観の長期的変化を熱帯の側から論じます。

脇村先生には、第1編の構想をお話し頂きます。第1編は、地球環境史のパースペクティブから熱帯の位置を論じる内容で、森林、人口、疫病、水資源といった問題を地球規模で捉えることを通して、熱帯の生存基盤の脆弱性とレジリエンスを描き出します。

峯先生には、第4編の構想をお話し頂きます。第4編は、歴史を踏まえつつ世界の同時代的な課題の中で熱帯の位置を論じます。国際関係と人の移動、土地と労働、ケアの制度と開発といった問題に焦点をあててゆきます。

 

発表者:
杉原薫(京都大学東南アジア研究所教授)
脇村孝平(大阪市立大学大学院経済学研究科教授)
峯陽一(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授)
 

16:30-17:00
報告1:「第1巻の全体構想と第2編、第3編のねらいについて」
杉原薫(京都大学東南アジア研究所教授)

17:00-17:20
報告2:「地球環境史における生存基盤と熱帯」
脇村孝平(大阪市立大学大学院経済学研究科教授)

17:20-17:40
報告3:「熱帯の生存基盤と世界」
峯陽一(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授)

17:40-18:30
コメントと総合討論

コメンテーター:
柳澤雅之(京都大学地域研究統合情報センター准教授)
水野広祐(京都大学東南アジア研究所教授)
速水洋子(京都大学東南アジア研究所教授)

 第1巻の目的(抄):
第1巻は、持続型生存基盤論のベースとなる長期の歴史的パースペクティブを示すとともに、それにもとづく地域社会の生存基盤の新しい理解を提示する。関心の焦点は熱帯地域にあるが、グローバルなパースペクティブや日本、東アジアの経験との対比、歴史学、経済学、政治学、開発研究、医学、農学、工学などとの交錯を意識的に前面に出し、関連分野との対話を目指す。(中略)人間社会の作り出した技術や制度は、つねに環境との「対話」を求められる。実際、人間の作り出した技術や制度は、各地域の環境が要請するニーズやその変化の方向との短期的・長期的な折り合いをつけることを重要な課題としてきた。産業革命以降、資本主義が作り出した市場経済、私的所有権制度、国民国家システにとっても、その世界的普及に際して最大の課題となったのはこの点である。環境への適応の失敗はただちに資本主義の失敗となり、あるいは地域社会のニーズに答えられない政治への没落につながってきた。本巻はそのような歴史意識と危機感を共有しつつ、しかしできるだけ広い視野から、そうした課題への展望を出そうと試みる。 

 

【活動の記録】
今回のパラダイム研究会では、最終成果出版に向け、第1巻の構想を討議した。第1巻では、熱帯を中心とした環境・技術・制度の長期的なダイナミズムを俯瞰し、熱帯から見た生存基盤のありようを、世界の歴史と現在の中に位置づけるものである。まず杉原薫氏より、過日に行われた京大学術出版会との会合の報告があったのち、第1巻の全体構想と第2編、第3編の課題についての報告があった。第1巻では、6巻全体を通じて中心となる以下の4つのキー概念を提示し、議論の礎石をつくるものとされた。4つは、それぞれ、(1)長期の発展径路(時間軸で見たパラダイム)、(2)環境、技術、制度の三つの相互関係、(3)温帯、世界全体との関係で見た熱帯、(4)生存基盤の確保と持続、である。のち、それぞれの概念について、詳細な説明がなされた。その後、脇村孝平氏より、第1編となる「地球環境史における生存基盤と熱帯」に関する報告があった。ここでは、第1編を構成する4つの論文について説明がなされ、特に「湿潤熱帯、半乾燥熱帯、乾燥亜熱帯、亜熱帯」それぞれについて仔細な検討がなされた。最後に、峯陽一氏より、第4編の主テーマとなる「熱帯の生存基盤と世界」に関する報告が行われた。峯氏からは、熱帯生存基盤と現代世界の課題について、特に「土地と人間の安全保障」を事例に報告がなされた。以上の報告を受け、第2巻、第3巻、第4巻の責任編者となる柳澤氏、水野氏、速水氏から、それぞれ、自らの巻と第1巻との関係から、特に6巻本全体のイントロの役を担う第1巻という位置づけから、より深化が求められる議論のポイントに関してコメントがなされた。

(文責 舟橋健太)

「3つの圏の論理と生存基盤指数への展開」[第32回研究会] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日 時:2010年10月18日(月)   11月1日(月)  16:00 ~ 18:00
場 所:京都大学東南アジア研究所  稲盛財団記念館3階大会議室 → 中会議室

 プログラム:
16:00-16:10
報告1:「3つの圏の論理と生存基盤指数への展開」
佐藤孝宏(GCOE助教)

16:10-16:45
報告2:「生存基盤持続型社会に向けた人間圏の再構築:生のつながりからケアまで」
速水洋子(京都大学東南アジア研究所教授)

16:45-17:00
報告3:「ケアの実践と社会のレジリエンス」
西真如(GCOE助教)

17:00-17:15
「コメント」
杉原薫 (京都大学東南アジア研究所教授)

17:15-18:00
総合討論

 

【活動の記録】
今回からのパラダイム研究会の目的は、最終成果刊行物に向けた議論を行うことにある今後、11月から4月にかけて、6回連続で研究会を行う予定となってい る。まず、佐藤孝宏氏(GCOE助教)から、今回からの研究会の共通目標と議論の内容に関する説明がなされた。つぎに、第4巻の編集責任者である速水洋子 氏(京都大学東南アジア研究所教授)は、これまでのイニシアティブ4の研究活動を振り返ったうえで、第4巻の構想(生存基盤の定義と展開、主要なメッセー ジ、各編の議論の照準と巻全体の構想とのつながり、他巻とのつながり)について報告を行った。最後に、西真如氏(GCOE助教)は、エチオピアのHIV感 染率とレジリエンス(resilience、困難な状況に適応する能力)との関係を検討し、ケアの公共圏的展開を試みた。以上について、コメンテータの杉 原薫氏(京都大学東南アジア研究所教授)は、速水報告に対しては「親密圏化した公共圏」をどう考えるかなどの質問を行い、また、西報告については生存と生 産の視点からケアに関する質問を行った。そして、フロアーからは、新しい親密圏はどういう点で新しいのか、親密圏と公共圏の混在と分離をどのように捉える かなど、今後の研究展開にとって重要な質問が多くなされた。
 

 

(文責 佐藤史郎)

[第6回研究会] (第2パラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2010年10月25日(月)  16:00 ~ 18:00
場 所:稲盛財団記念館3F 中会議室

 

[第5回研究会] (第2パラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2010年10月2日(土)  13:30 ~    (9月27日(月)より変更)
場 所:稲盛財団記念館3F 中会議室


[第31回研究会] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2010年9月28日(火)  16:00 ~ 18:00 (9月13日(月)から変更)
場 所:京都大学東南アジア研究所  稲盛財団記念館3階大会議室

(第2パラダイム研究会との共催)

 

発表者:Nathan Badenoch (京都大学東南アジア研究所)
 

題目:One less butterfly, one less language - who cares? Considering biocultural diversity and the future of governance
 

【Abstract】
At the global level, there is significant overlap between the “hot spots” of diversity in natural and human systems. Biocultural diversity studies has emerged as an area of synthesis between natural and social scientists, who have begun to look at the distribution, composition,and threats to the world’s diversity. In addition to providing a new conceptual framework that could build bridges to policy makers, an index of biocultural diversity has also been developed. This talk will provide a general introduction to this interesting field of study, discuss the development of the indicator, and offer some points for consideration within the framework of governance paradigm research.

 

 英語ページに活動の報告が記載されています。

English page
/en/article.php/20100913

「熱帯半乾燥地における生存基盤」[第30回研究会] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日 時:2010年7月12日(月)  17:00 ~ 19:00
場 所:京都大学東南アジア研究所  稲盛財団記念館3階大会議室

 

テーマ: 「熱帯半乾燥地における生存基盤」
 

報告者:
1. 舟橋和夫 (龍谷大学社会学部)
2. 伊谷樹一 (ASAFASアフリカ専攻)
 

要約:
Reesらによって開発されたエコロジカルフットプリント分析を国・地域に適用する場合、対象空間における生物生産力と生物由来資源消費の収支により、生態学的な持続性を評価する。ここでいう生物生産力は、太陽エネルギーや水資源といった、地球圏由来の物質により規定される純一次生産量に、さまざまな「技術」的要因を加えたものと考えることができる。  水という制限要因が農業の集約化を妨げる熱帯半乾燥地においては、人々はその生存を確保するために様々な形での「環境」への適応をせまられる。タンザニアと東北タイという二つの事例を比較検討することを通じて、熱帯半乾燥地における生存基盤の指数化に関する議論を行いたい。

 

【活動の記録】
舟橋教授より、東北タイのドンデーン村における生業活動の展開について報告を頂いた。ドンデーン村の周辺は、年変動が極端に大きく、短期間に集中的な降雨 があることで知られている。同村の人びとは、豊富な未開拓地が存在した1960年代頃までは、開拓移住によって「良田」を確保し、そこで多様な品種を栽培 することで、米の収穫量の増大と不安定性の軽減を図ってきた。これに対して未開拓地が消滅した1970年代以降は、都市への出稼ぎ労働によって現金収入の 安定が図られるようになった。この過程で、稲作はより高投入・高収量を指向するようになり、灌漑の導入が旱魃の被害を減らしたものの、洪水に対する脆弱性 は増大した。また同村の人びとの価値観がストック(良田)重視からフロー(現金収入)重視へと変化したのみならず、相続慣行や社会保障、ジェンダー関係に も変化が見られた。

 続いて伊谷准教授より、タンザニアの幾つかの地域の事例をもとに、降雨の不安定な地域における多様な作物と農法の展開について報告を頂いた。これ ら地域の人びとは、トウモロコシ、シコクビエ、イネなど多様な作物を組み合わせることで、不規則な降雨に対処している。またそこでは、焼畑の一種であるチ テメネ農法や、土壌侵食を防止し、有機肥料の確保するためのマテンゴ・ピット農法、有機物の分解を促すマウンド農法など、さまざまな農法が展開されてい る。アフリカの農業は、在来農業から近代農業へ、粗放的な農法から集約的な農法へと直線的に変化してゆくのではなく、人びとは生態的・社会的な状況に応じ て、「集約化」の程度が異なる様々な農法を創出し、それを幾つも組み合わせて展開することにより、生計の維持を図っている。

 これら報告を受けてフロアからは、伊谷准教授の提示した事例は、生命圏的な多様性をさらに多様化させる農法の展開という意味で、いわば「生命圏的 農業」と呼べるのではないか、これに対して舟橋教授の示したドンデーン村の事例は、安定性を追求する「地球圏的農業」であると言えるのではないかという指 摘があった。また経済学の文脈では通常、労働集約か土地集約かという判断をするのだが、アフリカにおける在来農業の集約化は、そうした判断基準だけでは理 解できないような、特定の環境制約に対する適応の過程を含んでいるのはないかというコメントがあった。

(文責 西 真如)

[第4回研究会] (第2パラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2010年7月11日(日) 13:00 〜18:00
場 所:東棟1階 106号室

 

[第3回研究会] (第2パラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2010年6月28日(月)  16:00 ~ 18:00
場 所:稲盛財団記念館3F 中会議室

1. タイトル: ケアの公共圏的展開
  報告者:西 真如(GCOE)
 

2. タイトル:人間圏における「軍事支出」指標の意味合い-ACDAとSIPRIのデータを中心に-
報告者:中西宏晃 (ASAFAS)、佐藤史郎 (GCOE)
 ・SIPRI Military Expenditure database 
http://www.sipri.org/research/armaments/milex/resultoutput)
 

3. タイトル:ジェンダー関連指標に関するレビュー
  報告者:牧田幸文(龍谷大学)
  ・Gender-related Development Index (GDI)およびGender Empowerment Measure (GEM) 
   http://hdr.undp.org/en/reports/global/hdr1995/
  ・Global Gender Gap Index(GGGI)  
   http://www.weforum.org/en/Communities/Women%20Leaders%20and%20Gender%20Parity/GenderGapNetwork/index.htm
 

4. タイトル:Legatum Properity Indexと社会関係資本
  報告者:佐藤奈穂(CSEAS)
  ・Legatum Prosperity Index
      http://www.prosperity.com/default.aspx 
     ・World Value Survey
      http://www.worldvaluessurvey.org/
     ・Gallup World Poll
      http://www.gallup.com/poll/world.aspx
 

「インドネシア共同調査報告会」[第29回研究会] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

【活動の記録】

日 時:2010年6月21日(月)  16:00 ~ 18:00(その後懇親会あり)
場 所:京都大学東南アジア研究所  稲盛財団記念館3階大会議室 中会議室へ変更
http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/about/access_ja.html

 
16:00-16:10 全体報告(水野広祐)
16:10-16:40 バイオマスチーム(川井秀一・渡辺一生)
16:40-17:10 多様性チーム(鮫島弘光・藤田素子)
17:10-17:40 社会チーム(水野広祐・増田和也)
17:40-18:30 全体ディスカッション

【活動の記録】
5月末から6月初旬インドネシアのリアウでに行った調査と調査チームの概要について代表の水野教授から説明があった。調査は大きく以下の3つの研究チー ム、(1)バイオマス生産・炭素フロー・水の管理に関する研究を行う「バイオマスチーム」、(2)生物多様性の保護に関する研究を行う「生物多様性チー ム」、(3)泥炭地と周辺に居住する人々について社会経済的視点で研究を行う「社会チーム」、によって行われる。今回の調査では、シナルマス社、 LIPI、林業省、リアウ大学、NGOなどと対談し、8月から本格的な調査に入ることを確認し、今後の調査では3チームの協力体制を確立した上で、持続的 な泥炭地の管理モデルを確立する足がかりを目指す。
 

各チームの代表者から行われた調査報告は以下に記す。
 

(1)バイオマスチーム
渡辺一生研究員より、今回の調査を取り巻く社会的な背景(地球温暖化問題とREDD Plus)、それに必要な要素研究、今回の調査との関連性について説明があった。バイオマスチームの調査目的は、土壌・植生・大気間の炭素や水、エネル ギーの収支をフィールド調査とリモートセンシングの技術で分析し、泥炭地のバイオマス利用を持続可能にする方法を見出すことにある。今回の調査にて、植生 の種類と特性(樹高など)と水質のデータを集めた地点ならびに移動ルートについて、地図上に示しながら報告があった。また、川合教授からは、本調査に関連 するJST、JST-JICA、SCFへの申請状況や予算獲得状況に関する報告があった。
 

(2)生物多様性チーム
研究の目的、現状、今後の方針について鮫島弘光研究員と藤田素子研究員から報告があった。生物多様性チームは、森林や泥炭地の破壊による生物多様性への影 響を明らかにし、影響を低減できる解決法を見出すことを目的にしている。森林や泥炭地破壊の状態、プランテーションを管理するシナルマス社の(現状では少 々貧弱な)生物多様性のモニタリング方法についての説明があり、その後、今後の調査についての説明があった。すなわち、赤外線カメラを設置して生物の種類 と数を測定するRCT法、録音した鳥類の鳴き声から種類と数を特定する方法を用いて、シナルマス社との協力の下、調査を行っていく予定である。
 

(3)社会チーム
増田和也研究員より調査地、問題点、調査方針について説明があった。調査対象は、海岸地域で古くから伝統的な生活を営む人々の住む①Tanjung Leban、それから、内陸地域に移住してきた人々の住む②Air Rajaの2つの村である。問題点としては、①では、伝統的なゴム栽培から経済性の高いアブラヤシに取って替っていくこと、②では人口の増加に伴い、泥炭 地への耕地拡大が進むことなどがある。問題解決には、泥炭地の問題とアブラヤシ栽培の拡大の関連性を明らかにし、政府、村、シナルマス間の泥炭地問題に関 する考えの違いを調査する必要がある。
 

発表後には質疑応答が活発に行われた。いくつかの議題を以下に箇条書きにする。
●NGOが調査データを公表するとデータが会社にうまく利用される場合がある、と心配しているが、それを防ぐためには会社からお金をもらわない、雑誌に投 稿する際に提言しない、等の方法がある。また、NGOもうまく利用すれば、気にする必要はないとの意見もある。
●持続性を測るには天然林との比較が必要ではないか?
●協力体制を作るには、各組織の顔となる人と話し合う必要がある。これまでの関係ではなく、実際に話を通せる立場にある人が必要である。
 

(文責者 定道 有頂)

[第2回研究会] (第2パラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2010年5月31日(月)  16:00 ~ 18:00
場 所:稲盛記念館3階 小会議室Ⅰ

発表者

1.木村周平 (富士常葉大学)
Thirty years of Natural Disasters 1974-2003:The numbers
http://www.cred.be/sites/default/files/ADSR_2008.pdf
http://www.emdat.be/old/Documents/Publications/publication_2004_emdat.pdf

2. 生方史数 (岡山大学)
Environmental Performance Index
http://sedac.ciesin.columbia.edu/es/esi/

3.佐藤史郎 (京大G-COE)
Governance matters VIII: Aggregate and Individual Governance
Indicators, 1996-2008
http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=1424591
 

 

 

「『地球圏・生命圏・人間圏』書評会」[第28回研究会] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

【活動の記録】

日 時:2010年5月17日(月)  16:00 ~ 18:00
場 所:京都大学東南アジア研究所  稲盛財団記念館3階大会議室
http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/about/access_ja.html

評者:
谷誠(京都大学大学院農学研究科)
森林水文学、地域環境科学。森林における水循環と地域環境との関係を、葉、単木、群落、斜面、小流域、山岳といった様々な空間的スケールにおいて解明する研究に取り組む。論文に、「水の循環における森林の役割」(太田誠一編『森林の再発見』京都大学学術出版会、2007年、133-183頁)など。

池谷和信(国立民族学博物館)
文化人類学、人文地理学。熱帯の狩猟採集文化に加えて、家畜飼育文化の変容に関する比較研究、地球環境史の構築に関する研究といった、幅広い研究テーマに取り組む。編著書に、『地球環境史からの問い-ヒトと自然の共生とは何か』(岩波書店、2009 年)など。

 

【活動の記録】
谷氏より、本書は比較対立軸を設定し、もうひとつの社会のあり方を分析する論考(第1,2,3,13章)、また現代の危機から脱するための模索(第 10,12章)、人間の自然への依存性の再認識(第4,5,6,7章)といった興味深い内容からなると述べた上で、次の指摘があった。第一に、資源を提供 し、環境を保全する生命圏のホメオタシスを解明するために、流域生態系の物質循環研究が、もっと全面にでる必要がある。第二に、歴史の一回性という問題 は、現代の社会に対して有効なオルタナティブを提示することを困難にしている。しかし2050年に想定される人間社会は厳しく、民主主義的な長期計画とい う、人類が未経験の問題に取り組む必要がある。池谷氏より、本書はアジア熱帯地域を中心にして生存基盤の多様なかたちを歴史的・地域的に提示することか ら、温帯中心の学問のあり方を批判検討して、21世紀における持続的な生存基盤を学際的に構築する試みであり、その進展を期待していると述べた上で、次の 指摘があった。第一に、国内外において数多くの類似の研究テーマが遂行されているが、その中での本書の位置づけを明確にする必要がある。第二に、熱帯とい う概念は農学や生態学、医学といった異なる研究分野で意味が異なる場合があり、じゅうぶんな検討を要する。また、学際的な統合と地域比較を一層推し進める 必要がある。たとえば第4章で示されている森林伐採と水循環の問題、感慨と都市化の問題については、他の章でももっと検討されてよい問題である。加えて、 地域を越えた比較の枠組みづくりを推し進める必要がある。牧畜を含めた生業の問題、グローバル化の問題などは、アジアとアフリカに共通するところも多い問 題である。これに対して、編著者より次のような応答があった。杉原氏は、本書はパラダイムシフトつまり分析枠組みのシフトを目指している点で新しい試みで あり、その点はお認め頂けたと思うと述べた。また河野氏は、次のように述べた。GCOEでは、これまでの地域研究とは違う方向性、つまり地域の特性を追求 するというより、例えば熱帯というような大きな枠組みにおいて、これまでの視座を鍛え直したいと考えている。また長期的な計画への関与という問題について は、自然科学においても重要な問題であると思う。川井氏は、本書は幅広い内容を扱うものであり、確かに未整理の問題も残されているが、人間圏を中心におい てそこから生命圏、地球圏を見るという視点は一貫したものであると述べた。田辺氏は、本書はすべての地域を網羅し比較するようなものではないが、温帯から 熱帯へ、生存から生産へという視点では一貫した内容となるよう努力してきたと述べた。

(文責 西 真如)

 

 「第2パラダイム研究会の趣旨と生存基盤指数」[第1回研究会] (第2パラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2010年4月26日(月)  16:00 ~ 18:00
場 所:稲盛財団記念館3F 中会議室

発表者: 
佐藤孝宏 「第2パラダイム研究会の趣旨と生存基盤指数」
和田泰三 「生存基盤指数をどのように構築するか? Disability Adusted Life Expectancy(DALE)と生活機能評価の視点から」
西真如 「生存基盤指数の可能性:個々人の潜在能力から人格間の関係性へ」

コメンテータ 杉原薫

【要旨】

「第2パラダイム研究会の趣旨と生存基盤指数」

 これまで、UNDP(1990)によって提案された人間開発指数をたたき台としながら、本プログラムにおける「地球圏・生命圏・人間圏」という分析枠組みを踏まえ、
生存基盤指数の開発を進めてきた。2年後の指標完成に向けて、「生産から生存へ」「温帯から熱帯へ」といったキーワードをどのように取り込みながら、
指標の開発を進めてゆけばよいのか。本日より始まる第2パラダイム研究会の趣旨と、研究会を通じた生存基盤指数の開発について説明を行う。

 

「生存基盤指数をどのように構築するか?Disability Adusted Life Expectancy(DALE)と生活機能評価の視点から」

 おもに人間開発指数とエコロジカルフットプリントを基本とした改変をするなかで生存基盤指数の構築を試み、生存基盤持続型パラダイム形成に資する視点を重視してきた。
しかしながら生存基盤指数関連要素として可能性のある既存のグローバルデータや、これまで地域研究者が収集してきたローカルデータ双方を概観し、統合する努力はまだ乏しい。
また指数の基本的定義の合意形成も未だ発展途上といえる。本GCOEプログラム後半戦にはいったいま、人間圏関連指数としてとりあげてきた健康指数(DALE)と地域在住者を
対象に評価してきた生活機能評価の視点から今後の生存基盤指数の構築にむけた話題提供をする。

 

「生存基盤指数の可能性:個々人の潜在能力から人格間の関係性へ」

私たちが生存という問題について考えるとき、ひとつの方法はそれを個人(に備わった能力や属性)と(個々人の生存を保障する)制度に関する問題として理解することである。
しかし、このような理解においては、具体的な他者との関係が、どのように私たちの生存と人 格を支えているかという問題について、じゅうぶんに把握することができない。
本報告では、「個人」と「人格(間の関係性)」とを区別する人類学上の議論、および親密圏的な問題を公共圏に持ち込もうとする政治哲学の議論を踏まえつつ、
他者の生存と人格に対する配慮という視点から、生存基盤指数の可能性について考えたい。従来の人間開発指数 は、個々人の潜在能力を制度へのアクセスという観点から
測ろうとするものであったが、生存基盤指数においてはこの発想を転換して、人格間の関係性に付与された価値を、何らかの方法で「測る」必要があるように思われる。
 

 

「持続型生存基盤パラダイムの構築に向けて」[第27回研究会](G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2010年4月19日(月)  16:00 ~ 18:00
場 所:京都大学東南アジア研究所  稲盛財団記念館3階大会議室

【概要】
グローバルCOEプログラム「生存基盤持続型の発展を目指す地域研究拠点」が 開始して3年が経過した。今回のパラダイム研究会では、これまでの各種研究会や 国際会議での議論などを通じて蓄積されてきた「持続型生存基盤パラダイム」の 関する知見を、各研究イニシアティブの代表者から発信するとともに、プロジェクト 終了までの残り2年間を見据えた方向性を具体的に提示し、プロジェクト全体の 今後の研究活動を幅広く議論する場としたい。
 

各発表10分程度
1. 杉原 薫 「持続型生存基盤論研究の課題と方法:最終成果に向けて」
2. 藤田幸一(イニシアティブ1)
3. 柳沢雅之(イニシアティブ2)「地域研究から見る生態史」
4. 水野広祐(イニシアティブ3)
5. 速水洋子(イニシアティブ4)「親密圏からの人間圏再構築」
6. 佐藤孝宏(第2パラダイム研究会)「第2パラダイム研究会と生存基盤指数の構築」
7. ディスカッション
 

司会 西真如 (G-COE)
 

「南アジアの発展経路」[第26回研究会] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2010年3月23日(火)  16:30-18:30 (その後懇親会あり)
場 所:京都大学東南アジア研究所  稲盛財団記念館3階大会議室

NIHUプログラム「現代インド地域研究」と共催です。

報告1「南アジア地域における農業の発展経路―生態・社会・技術」
講師:脇村孝平(大阪市立大学)
 

報告2「南アジアの発展経路と社会的分業」
講師:田辺明生(京都大学)
 

コメンテーター:大島真理夫先生(大阪市立大学)
 

【趣旨】
南アジア地域における生存基盤を考える上では、生態条件や人口動態、社会構造を踏まえた持続的な食料生産(および配分)の展開について理解することが不可欠である。またそのためには、農業生産を規定する技術、土地、労働といった諸要素を、地域特有の半乾燥性あるいは不安定な降雨といった気象条件や、非農業就労者を含む社会構造、および社会的に共有される価値といった問題と結びつけながら、歴史的に分析してゆく必要がある。今回の研究会では、脇村先生の近著(脇村孝平「インド史における土地希少化―勤勉革命は起こったのか?―」大島真理夫編『土地希少化と勤勉革命の比較史』ミネルヴァ書房、2009年12月)をめぐる南アジア地域研究者の議論を共有することをとおして、19世紀から20世紀のインド社会における農業集約化の問題を議論したい。また、日本史家として世界史を構想されている大島氏をお迎えして、以上の議論を、近現代世界における農業社会の発展といった、より広い文脈で考える契機とするとともに、アジア・アフリカの他地域の農業社会の理解や生存基盤持続型の技術開発の前提となる社会的条件についての関心にもつなげてゆきたい。

「東アジアモンスーン地域における生存基盤の展開―持続的農業の視点から」[第25回研究会] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2010年2月15日(月)  16:00~18:00
場 所:京都大学東南アジア研究所  稲盛財団記念館3階大会議室
 

趣旨:
東南アジア地域における持続的な生存基盤のすがた・かたちを、どのように描けばよいのだろうか。農業は、人間の生存を支える営みであると同時に、生命圏の再生産の営みとともにあゆむ産業である。持続的な農業の展開は、持続的な生存基盤を確保する上で本質的な重要性を持っている。東アジアモンスーン地域の温帯圏および熱帯圏において歴史的に展開してきた持続的農業を中心に、一方では森林資源の利用や水循環、他方では地域における人々の生活という観点から、幅広い議論を行いたい。
 

講師:田中耕司先生(京都大学地域研究統合情報センター)
「東アジアモンスーン地域における生存基盤の展開―持続的農業の視点から」
コメンテーター:渡辺隆司先生(京都大学生存圏研究所)
 

講演要旨:
東アジアモンスーン地域は、豊かな土壌と降雨とに支えられた高い一次生産力を有する地域である。この地域の温帯圏においては、高度な灌漑システムに支えられた水稲栽培を基本として、生産性の高い多毛作農業が展開してきた。また熱帯圏の在来農業は、近代農法に比べて「粗放的」と見なされることもあるが、すぐれた環境適応性、高いエネルギー利用効率(産出/投入比)によって、人々の生存を持続的に支えてきた。加えて熱帯圏では、世界市場への包摂とともにプランテーション農業が急速に拡大し、その一方で、樹木作物をとりこんだ住民による立体的土地利用も盛んに行われている。
これらの農業の営みにおける持続性を考える上で重要なのは、「時間」の概念である。農業における「時間」は通常、1作あるいは1年周期の作付けと、そこから得られる生産効率の問題として論じられる。しかし農業の持続性を検討しようとするとき、土地利用の帰結としての農業景観の形成、地域に根ざした農業体系の歴史的な展開といった、より長い「時間」の概念を視野に入れる必要がある。
 

「熱帯森林生命圏と人間圏・地球圏の繋がり」[第24回研究会] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日 時:2010年1月18日(月)  16:00~18:00
場 所:京都大学東南アジア研究所  稲盛財団記念館3階大会議室

 http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/about/access_ja.html

講師:川井秀一(京大生存研)
 「熱帯森林生命圏と人間圏・地球圏の繋がり」
コメンテーター:生方史数(岡山大)、甲山治(京大東南ア研)

インドネシアを含む低緯度地域は、中・高緯度地域に比べ太陽の放射エネルギーが4倍程度大きいことに加え、日照・気温・降水量等の強度が全球で最も大きいことから、植物バイオマスの生産にとって好ましい環境を持つ地域である。しかしながら、これらの地域における動植物の分布は、上述したものに加え土壌や地形条件等も含めた複数の要因によって規定されるため、生態環境としては地域内でも大きな差異が認められる。

インドネシアにおける産業造林政策は、カリマンタン島およびスマトラ島を中心に1980年代から推進されてきた。単一樹種による一斉大規模造林が一般的であった産業造林も、在来優先樹種の植林が2000年以降になって進められるなど、地域生命圏の論理に配慮した開発も行われるようになってきている。生物生産性の高いインドネシアの森林を利用するにあたり、地域固有のどのような環境特性や地域社会の特性に配慮することが、持続的な熱帯林生命圏の創出につながるのか?生命圏のみならず、地球圏および人間圏からみたインドネシアの森林についても議論を広げつつ、熱帯生存圏におけるInter-spheric relationshipsについて幅広く議論を行いたい。

川井先生には、熱帯人工林のあり方と意義について、現場(MHP,Riau,西カリマンタンの人工林)の現状と課題を紹介していただくとともに、森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減(REDD)の取り組みなど、グローバルな文脈にも言及していただく予定である。

キーワード:熱帯 産業造林 持続性 循環 炭素排出権 Carbon Offset Carbon Footprint HWP REDD 生態系 生物多様性

 

 

【活動の記録】

報告者の川井先生からは、イニシアティブ3および生存圏研究所で調査対象とされてきた、インドネシアの4つのフィールド(Riau Biosphere、 MHP、PT Wana Subur Lestari、Alas Kusma)における産業造林の現状説明に加え、各地域での木材生産の持続性にかかわる環境要因と技術的な取り組みについて解説していただき、森林生命圏の持続性を主として「生産」という側面から論じていただいた。甲山先生は、PT Wana Subur Lestariを対象に進めている各種観測データ分析の経過を紹介され、泥炭湿地林における持続性評価で考慮すべき点を指摘された。また、生方先生は、生命圏と人間圏の関係性について、2つの圏が持つ相異なる論理とその相異性ゆえに生じる認識の違いについて整理するとともに、そもそも「森林」とは何を指すのか、「天然林」と「人工林」の違いとはどのようなものか、森林以外の他の生命圏の位置づけなど幅広い論点を提出された。
 

これらの発表を受けて、天然林/人工林といった人為攪乱の有無による森林の分類よりも、生物多様性・炭素固定・物質循環といった機能をより重視した視点から森林をとらえるべきとする意見や、森林の持つ文化的・生態的・経済的価値から評価を行うべきとする意見や、産業林は遷移と人為攪乱のバランスの上に成立しているという意見など、森林生命圏のとらえ方に関する議論に加え、閾値を利用した持続性評価の方法など、インドネシアの森林生命圏をパラダイム形成の具体的な場として考えた場合に、検討すべき課題が多岐にわたって提出された。今後は、イニシアティブ2、3を中心にこれらの議論をさらに進め、森林に関するより広いインプリケーションを提示できるよう努力してゆく必要がある。 
 

                        (文責 佐藤孝宏)

「地域に根差した持続型発展」[第23回研究会] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日  時:2009年11月9日(月) 16:30~18:30 (その後懇親会あり)
場  所:京都大学 東南アジア研究所 稲盛記念館3F大会議室
http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/about/access_ja.html

講師:
山本博之(京大地域研)
「社会的流動性から見た生存基盤――島嶼部東南アジアの災害対応から考える」

西真如(京大東南ア研)
「感染症と共存する社会のための技術・制度・関係性」

コメンテーター:峯陽一(大阪大GLOCOL)

20世紀社会においては、個人あるいは集団の安全保障の担い手は国家であるとされてきた。しかし「持続型発展」という問題を、人々の生存を脅かすリスクとの関わりから考えるとき、国家を中心とした枠組みに加え、グローバルなレベルの制度・技術や運動、および地域のレベルでの社会関係という3つをいかに接合するか、ということが重要なポイントとなる。今回は、「地域」に焦点を当てて、地域社会がHIVと災害復興という、突発的でありつつ慢性化した問題にいかに対応したのかということから、グローバルでかつ「地域」に根差した持続型発展とは何かを考えたい。

 それぞれの地域社会は疫病や自然災害など様々な問題を経験するなかで、災害に対処し、あるいは脅威と共存するための知識を蓄積してきた。また地域社会は、人びとが大きな被害をこうむってしまった場合に、再度生活のあり方を構想しなおしていく基盤を提供してもいる。そうした地域社会のレジリエンスを支えるものは何か。またそれを維持していくにはなにが必要なのか。こうした問題について議論することが今回のパラダイム研究会の目的である。

[講演要旨]

山本博之(京大地域研)
「社会的流動性から見た生存基盤――島嶼部東南アジアの災害対応から考える」

2004年12月のスマトラ沖地震津波で大規模な支援事業が展開されたアチェをはじめ、インドネシア各地の災害被災地で、緊急・復興支援に携わった実務家たちが感じた戸惑いをしばしば表明している。この戸惑いは、社会を固定的に捉えて被災前の状態に戻そうとする支援者と、社会的流動性が高く、被災を社会変革の契機と捉えようとする被災者との間の認識の違いに由来すると見ることができる。島嶼部東南アジアの災害対応の事例をもとに、社会的流動性が高い社会における生存基盤について考えてみたい。

西真如(京大東南ア研)
「感染症と共存する社会のための技術・制度・関係性」

感染症は人類にとって重大な脅威のひとつであり、私たちが持続的な社会を構築する上で、感染症を引き起こすウイルスとの共存は避けがたい課題である。本報告では、HIVとともに生きる社会を構築するために必要な要素について、(1)個々の人間がHIVとともに生きることを可能にする医療技術の開発、(2)人びとに治療アクセスを保障するためのグローバルおよびナショナルな制度の形成、および(3)HIVの影響を受けた人びとが、互いの健康に配慮しつつ持続的な関係を結んでゆくためのローカルな経験の蓄積の三点に整理して考察を試みたい。

 

【活動の記録】

最初の発表者である山本博之氏は、インドネシアを事例に、流動性が高い社会における災害の現れ方と復興支援のあり方について発表した。
 

まず山本はインドネシアで地震が震災になったのは、以前は木や竹でできていた家屋がレンガ積みに変わった1980年代以降のことだと指摘し、災害において問題なのはハザードそのものというよりも、社会がうまくバランスを保てなくなることにあるのだと主張した。次に、インドネシア社会を社会的流動性の高い、つまり人の出入りが激しく、知識や経験が場に蓄積しにくい社会であると位置付けた。そして人道支援団体による復興支援がうまくいかないのは、こうした社会的流動性の高さを十分理解していないからだとした。そしてその事例として、以下の2つを取り上げた。まず、2004年末のインド洋地震津波の被災地であるアチェにおいて、空き家になっている復興住宅が多数存在すること。山本氏はローカルな連絡事務所としてのposkoなどを取り上げながら、人々の被災後の生活再建のあり方が「元通りに戻る」ことを目指さず、今までとは異なる方向へ動きつつあることを指摘し、「元通り」を前提とした復興支援の問題点を指摘した。次に、2007年スマトラ沖地震の被災地ベンクルで、支援物資のコメを撒く人、支援者の車を止める人を取り上げ、そこでは問題は失われたものを取り戻すことではなく、むしろ被災前から抱えているであり、彼らの一見不可解に見える行動はそうした問題を、災害をきっかけにアクセス可能になった外部にアピールしているのだと主張した。  以上の議論をもとに、山本氏は流動性をいかに捉えるべきか、という問題を投げかけた。
 

 二番目の発表者である西真如氏は、エチオピアを事例にHIV/AIDSという感染症と共存する社会を築くための技術・制度・関係性(relatedness)のあり方について発表した。まず西氏はHIV/AIDSに対するABCアプローチ(Abstain, Be faithful, use Condom)、および世界基金による治療薬の提供を取り上げ、それぞれの問題点を指摘し、地域社会の関与が必要であると主張した。その上で、エチオピアのグラゲ県の現地調査に基づき、ウイルスと共存する社会のあり方に向けて、感染者/非感染者の差異を受容する関係性を創り出すこと、世帯ごとの個別の状況に対応するための保険医療制度におけるヘルスワーカーの存在を生かすこと、の2点を指摘した。そして、科学技術、社会制度、関係性という三つの局面を結びつけることが必要であると指摘した。
 

 これに対し、峯陽一氏は、レジリエンスという概念を示し、今日の二つの発表と人間の安全保障の考え方との関係づけを行った。そのうえで、山本氏の発表が示した流動的な社会の災害を飲み込んでしまう「強さ」というメッセージをふまえ、今回取り上げられた社会が被災前どのようにバランスが崩れていたのか、被災後どういう方向に変わろうとしているのか、について質問した。また西氏に対しては、ABCアプローチがうまくいったウガンダの例を示しつつ、人々の関係性を支える道徳について質問し、また地域社会の重要性は理解したうえで、しかし一番重要になるのはナショナルなレベルでのガバナンスをどうデザインするかにあるのでは、と指摘した。フロアからは流動的・ネットワーク型の社会におけるresilienceとはいかなるものかという質問や、二つの発表における地球圏・生命圏・人間圏の相互関係はいかなるものだったのか、さらに人間圏のなかでも親密圏はいかなる役割を果たしたか、という質問が出た。加えて、重要なのは公共圏でも私的領域でない、共同性の領域であるのではないか、という指摘もなされた。

(木村周平)

 

“Biosphere Reserves in Indonesia” [ 特別パラダイム研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2009年10月19日(月) 14:30-15:30
場 所:京都大学 東南アジア研究所 稲盛記念館3F大会議室
http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/about/access_ja.html

講師:Endang Sukara (LIPIインドネシア科学院次官)

タイトル:Biosphere Reserves in Indonesia

内容:
インドネシアに存在する7つのBiosphere Reserves 全般について解説する。特にユネスコ登録の効果と問題点についてアナリシスを行う。ユネスコ登録の意義を問いたい。

「人間の安全保障と開発―国際規範の指標化は可能か?」[第22回研究会] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日  時:10月19日(月) 16:00-18:00 (その後懇親会あり)
場  所:京都大学 東南アジア研究所 稲盛記念館3F大会議室
http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/about/access_ja.html

災害や紛争の脅威からすべての個人・あらゆる集団の生存を保障するという理念を掲げ、「人間の安全保障」はメインストリームの国際規範としての地位を確立しつつあるように思われる。今回のパラダイム研究会では、「人間の安全保障」が守ろうとする人間の「中枢」部分とは何か、また「人間の安全保障」の指標化は可能かという問題について、峯陽一先生(開発経済学、アフリカ研究)にお話しを頂き、その上で、本GCOEプログラムの「生存基盤」および「生存基盤指数」との比較を念頭におきつつ議論したい。

講師:峯陽一(大阪大学グローバルコラボレーションセンター)
「人間の安全保障と開発―国際規範の指標化は可能か?」

コメンテーター:
佐藤孝宏・和田泰三 (京都大学東南アジア研究所)
生方史数(岡山大学)

講演要旨:人間開発(HumanDevelopment)は、経済成長至上主義に対する理念的カウンターバランスとして登場し、1990年から刊行されているUNDP(国連開発計画)のHDR(人間開発報告書)を通じて、国際規範としての地位を確立した。人間開発の概念は、インド出身の経済学者アマルティア・センのケイパビリティ理論に立脚するものである。人間開発を実践に適用するために、UNDPはHDI(人間開発指数)を開発したが、センは指数化に当初は反対だったという。1994年のHDRでは、新たに人間の安全保障(HumanSecurity)の概念が提唱された。2003年の「緒方・セン報告書」において、センは、人間の安全保障を危機論(ないし、リスク論)にひきつけて理解する視点を提示している。経済開発と社会開発を統合した人間開発に対して、人間の安全保障は、人間開発を政治と人文学の領域に拡張するものだと解釈することができるかもしれない。しかし、人間の安全保障を計測する指数は、いまだに登場していない。この20年間の国連を舞台とするヒューマン・ノルム(人間性にかかわる規範)の展開を跡づけながら、人間の安全保障の考え方の強さと弱さ、そして指数化の力と限界について、問題提起したい。

【活動の記録】
報告者の峯先生から、過去20-30年の間に国際規範として確立された「人間開発(Human Development)と、新たな国際規範として展開されつつである「人間の安全保障(Human Security)について、その発展の背景や経緯、理念と解釈、そして指標化の可能性と問題点について詳細・丁寧に報告された。本プログラムが目指している持続型生存基盤と生存基盤指数にとってきわめて示唆的なものであった。
 

「人権」、「人間開発」、そして「人間の安全保障」はともに、過去20-30年の間に国連を舞台につくられ、展開された国際規範であり、政治的な意味合いがつよい概念である。「人間開発」は、世銀やIMF主導の経済発展に伴うさまざまな社会問題(失業、貧富格差、医療保険)に対する批判と、より「人間的な開発」に対する期待から、経済学者アマルティア・センのケイパビリティ理論から発展した概念である。人間開発を評価するツールとして開発された人間開発指数は、単純化すぎると批判される一方、従来の経済発展しか評価しない経済指数(一人あたりのGDP)に対して、生存指数と教育指数を加えることで、経済成長至上主義への反撃として重要な意味をもつ。「人間の安全保障」は冷戦の終焉やグローバリゼーションが進行するなかで、従来の軍事や公安を中心とした国家の安全保障(National Security)とは違って、一人ひとりの人間をさまざまなリスクと恐怖(貧困、伝染病、災害、紛争など)から守る新しい概念である。人間開発は右上がりの進歩的な発展経路を示しているのに対して、人間の安全保障は脅威による一時的な後退局面を想定した鋸型である。そのため、早期予防をはじめ、慢性的な脅威と急激なリスクの両方に注目すること、ダウンサイドリスク(突然襲ってくる危険)による被害をいかに乗り切るかが重要な課題としている。緒方・セン報告書は人間の安全保障によって守るべき人間の中枢部分については、生存、生活、尊厳というようなコア領域を提示したが、個人・地域・価値の違いをみとめ、より具体的な要素について明記しなかった。人間の安全保障の指標化について、主体をどうカテゴリー化するか、指標化の目標は何か、そして地域性と共通性の問題などが挙げられた。
 

以上の報告に対して、コメンテーターの和田氏は、個人の年齢や社会・経済状況によって安全保障の本質が異なることを指摘し、途上国において個人にとって重要なInformal care (家族や地域でささえられる介護)やinformal safety netが安全保障の中でどう反映できるかについて質問した。佐藤氏は生存基盤指数の指標化におけるさまざまな試みを説明し、人間の安全保障と「サステナビリティ」との関係、「かけがえのない中枢」(Vital Core)と生存基盤の関係について質疑した。生方氏は人間開発・人間の安全保障と生存基盤との接点についてリスクに注目する可能性をコメントした。これらの質疑に対して報告者は、指標をより現実に近づくために社会・経済状況を配慮する必要性、Informalな部分の重要性と定性的なものを指標化する難しさ、物的な評価基準を入れる必要性、国でないカテゴリー化の可能性、そして人間の安全保障はゼロサム的な状況を想定し、生存基盤はより長いタイムスパンを考えているという時間スケールの違いについて返答があった。また、フロアからも多くの質問とコメントがなされ、指標化ではなく類型化の可能性や、人間の再生産と親密圏に注目する必要性や、新しい概念と実践の関係など、多方面から有意義な議論が行なわれた。
 

(文責: 孫暁剛)

「インドネシアにおける赤道大気研究」[第21回研究会] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2009年9月7日(月)  17:00~18:30
場 所:京都大学東南アジア研究所  稲盛財団記念館3階大会議室
http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/about/access_ja.html

講師:津田敏隆(京都大学 生存圏研究所)
「インドネシアにおける赤道大気研究」

コメンテーター: 甲山治 (京都大学 東南アジア研究所)

われわれが住んでいる地上付近から離れた高度100km付近の大気現象は、われわれの生活と無関係に見えるが、エルニーニョや地球温暖化の影響が及んでおり、その研究が大変重要となっている。また、赤道域の大気現象は地球環境の多くに関係し、影響を及ぼす最も重要な地点となっている。しかし、地域研究の視点で見た場合、熱帯域と分類はしても赤道域という分類はあまりなじみがない。赤道域の高度100km付近の大気現象が熱帯域の環境や生態、人々の生活にどのように関係しているのか、本GCOEで取り組むべき重要な課題である。「赤道大気」とはGeosphereに分類すべきか、Biosphereに分類すべきか? 赤道大気研究がもたらす地球環境に対する新しい知見は地域研究にどのような波及効果を及ぼすのか? 本講演では赤道大気研究の最新状況を中心にし話題提供いただき、グローバルと地域との関連を議論する。

「健全な生態系とは何か?生物多様性条約は何を守るのか」[第20回研究会] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日時 7月13日(月) 15:00-17:30 (その後懇親会あり)  ←通常よりも早い15時開始
場所 京都大学 東南アジア研究所 稲盛記念館3F大会議室
http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/about/access_ja.html

講師:松田裕之(横浜国立大学・環境情報研究院)
「健全な生態系とは何か?生物多様性条約は何を守るのか」
コメンテーター: 山尾政博(広島大学)
 

環境問題はグローバルな問題であると同時に,ローカルな問題でもある.なかでも生物多様性は政治的な側面が強い反面,地域の人々の生活に密接に関連する.程度の差こそあれ,人間は生態系の恩恵に頼らなければ,生存できないからである.しかし,人間による干渉が強すぎる場合,生態系が元の恩恵を授けなくなることがある.このような生存基盤の崩壊を,どうやって防ぎ,持続的な発展を行うのか.今回は松田裕之氏を招き,氏が取り組んでこられた水産資源の持続的利用における生態系管理などの具体的事例を織り交ぜながら,健全な生態系とはどういうものか,COP10に向けた最新の動向を含めて解説していただく.特にこれまで,生態学的な資源モデルでうまく扱えなかった生き物の不確実性を組み込んだ順応的生態系管理について,その目指す方向性や,政治的・国際的な側面と地域レベルでのギャップをどう埋めていくのかについて議論したい.
 

[講演要旨]
2010年秋、名古屋で生物多様性条約締約国会議(CBD/COP10)が開かれる。気候変動枠組み条約において、温室効果ガス6%削減が日本に課せられた京都議定書に次ぎ、「生物多様性を守る」ための数値目標の合意に向けた動きがある。日本は議長国として、それをまとめる重責を今回も担う。しかし、それが守る対象、評価基準、行動規範については、気候変動問題以上に混迷を深めている。日本は議長国を買って出ながら、長期的視点がかけている点も変わらない。
 

本講演では、COP10で議論される候補として、①Ecological Footprint、②生物多様性指標、③生態系サービスの3つの指標を取り上げる。
 

 

【活動の記録】

今回のパラダイム研究会では,講演者の松田教授は多彩なデータから,どのように生態系を守り利用すべきかについての報告を行った.生態系の保全は生存基盤の持続に直接的に関係する重要なテーマであるが,特に科学的なデータを元に社会の合意形成をする際に,情報の確からしさをどう判断し政策の決断につなげたらよいか,といった点を含めて解説され,非常に分かりやすい発表であった.

例えばおおかたの水産学者は,限られた海域のデータから漁獲量は減少していると判断するのに対し,氏は東南アジアなどのデータでは逆に漁獲量が増えていることに注目し,より広い視野で見ることの重要性や,齢構成を考慮した漁業を行うことで持続可能であると主張した.また知床世界遺産の経験を例にあげ,特に沿岸域の持続的な漁業には,漁民による自主規制が非常に有効であることを示した.

次に氏は生物多様性に話題を移し,COP10に向けた取り組みの問題点として,明確なインセンティブが作られにくい生物多様性というテーマのもつ特性が,その注目度の低さの一因であるとした.そこで,生態系を守る取り組みに資金を援助するなどの制度を,Ecological Footprintを活用して提案する可能性や,生物多様性自体の取引を行う取り組みについても紹介された.一方で,生物多様性の比較的豊かな日本の森林では,生産性という面からは生態系サービスが低下することなどを示し,生物多様性とその他の恩恵が必ずしも線形関係にないことなども強調された.このような状況のなかで,不正確な情報に基づいてどのようなインセンティブを打ち出していくかが重要であることが伝えられた.

コメンテータの山尾教授は,東南アジアの漁村経済の専門の立場から,フィールドからの視点を持つことと,地域の生計戦略とのギャップ,そしてアンダーユースという考え方の持つ危険性の3点についてコメントした.まず,国と地方との政策ギャップが大きくなり,権限だけを与えられた地方が右往左往している東南アジアの現状を報告し,破綻した地域主義の代わりに中間組織的なものを媒介としてはどうか,との提案をされた.次に生物多様性が貧困を生みだす可能性を指摘し,資源利用に関しては地域のみでなく家計レベルも含め,多角化した戦略をとる必要があると述べた.最後に,日本における中山間地のアンダーユース(過少利用)によって生物多様性が低下する可能性が指摘されていることを受け,その思想が農林水産業の持続なのか否か,何を主張していくのかを明確にするべきであると指摘した.
 
これらの発表を受け,フロアからは十数人による活発な意見交換が行われた.温帯では二次的な自然が生物の生息地であるが,熱帯にはまだ本来の一次的な自然が残っているために,絶滅危惧種の取り扱いに関する違いが生じることや,面積当たりの種数が圧倒的に多い熱帯では,なぜそれだけの多様性が保全されねばならないかを生態系サービスで説明することが難しい,といった意見がでた.それに対して松田氏は二次的な自然であっても生息できる種が多いことが持続可能な管理を行っている指標になりうるという見方を示した.また南北での生物多様性に関する取り組みに差が生じるといった意見に対しても,氏は日本の森林生態系を守るためには東南アジアではなく日本の森林・林業を考える必要があると主張した.さらに,FSCの視点からは,熱帯の森林はほとんどがHCVF(High Conservation Value Forests)になり,生産林を必要とする住民には不利になるという点も指摘された.また生物多様性の数値目標の必要性に関しても疑問の声が上がったが,松田氏は励みになるという意義を認めたうえで,グローバルスタンダードよりも個別に対応する必要性を提示した.特に生物多様性のクレジット取引が考慮され始めている状況に憂慮し,ここにも南北問題が隠されていることを述べた.最後に,水産資源の変動を追うモニタリングの難しさゆえに乱獲が起こる事態が,なぜ日本の沿岸漁業で起こってしまうかという疑問に対しては,沿岸漁業と沖合漁業とのシステムの違いから説明できるとした.
 

(文責 藤田素子)

「トランスサイエンスとは何か:STS的視角から」[第19回研究会] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録

日 時:2009年6月15日(月)  16:30~18:30(その後懇親会あり)
場 所:京都大学 宇治キャンパス 生存圏研究所 木質ホール
http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/access.html
(キャパス内地図 4番)

講師:小林傳司(大阪大学 コミュニケーションデザイン・センター ) 
内容:トランスサイエンスとは何か:STS的視角から
コメンテーター: 生方史数(京都大学東南アジア研究所 ), 篠原真毅(京都大学生存圏研究所)

現代、科学技術の発展は目覚ましく、グローバル化もあって、その地域社会への影響はますます大きくなっている。それに対し、従来の地域研究においては、科学技術は、外部からもちこまれた、いわば「所与」のものとされ、分析対象からはずされるか、あるいは社会をかき乱す悪者として論じられることが多かった。しかし、環境問題等のさまざまな解決困難な問題を抱えた現代社会において、生存基盤持続型の地域研究を推し進めるためには、そうした姿勢は再考されなければならない。そして、在来の知にひそむ英知との「接合」についても、より本格的な議論が進むことが期待される。
今回のパラダイム研究会ではSTS(科学技術社会論)の立場からの発表をもとに、科学技術の研究や応用と社会との関係についてより深く理解し、そのうえで両者が共存・協働していくことについて考えたい。


[講演要旨]
STS(Science, Technology and Society)は日本では、科学技術社会論と訳されているが、1970年頃から胎動が始まった新たな研究領域である。その研究対象は科学技術と社会の界面に発生する諸問題を、学際的にそして実践的関与の市政も伴いつつ、研究することを目指している。科学技術を対象とするという意味で、科学技術研究そのものではなく、メタ的にかかわるという点で、科学哲学や科学史、科学社会学との親近性がある。同時に、現代的諸問題に関して、可能であれば処方箋的な成果を挙げることも目指そうとする点で、政策学的側面も併せ持っている。
本発表では、なぜ、1970年頃にこのような学問領域が立ち上がっていったのかを概説し、これもまた1970年頃に生まれた「トランスサイエンス」という考え方を紹介する。とりわけ注目したいのは、科学技術がもつ社会的意味の大きな変容が1970年頃に生じていたにもかかわらず、それが十分意識化されず、1990年代まで持ち越されたという点を示したい。その上で、科学技術と社会の関係にまつわる現代的問題に関して、STS的アプローチの特色を述べたい。

【活動の記録】

発表者はまず、自己紹介も交えながら科学論(文学者と物理学者の間の断絶を論じるC. P. スノウの『二つの文化』、科学者共同体の規範と構造を論じるマートンの科学社会学、そしてクーンの『科学革命の構造』など)の概説を行い、クーンが本来は「パラダイム転換」よりも「通常科学」と彼が呼ぶ状況の知識生産の効率性を重視していたにもかかわらず、1960から70年代の時代状況によって前者が注目を浴びた、という解釈を示した。

この1970年代に高まった科学批判は、日本においては大学から離れ、在野に向かう傾向があったが、欧米では大学内に残り、制度化していった。それが「科学技術の社会的側面についての人文・社会科学的な研究・教育」としてのSTSである。このSTSについて、発表者は自身の『科学見直し叢書』の刊行やコンセンサス会議の実践などについて紹介した。
 

そのうえで、「科学に問うことはできるが、科学が答えることができない問題群」としての「トランス・サイエンス」という概念を説明した。たとえば原子力発電所において、複数の箇所が同時に故障する確率はきわめて低いということは科学者間でも合意は得られるだろうが、それをどう評価すべきかは判断が難しい。あるいは、BSEに関連したアメリカからの牛肉輸入再開の判断も、科学と政治の入り混じった問題である。こうした事例のように、近年特にシステムの不確実性が高く、社会的な利害関係が複雑で大きい領域が広がっており(これをSHEE Sciences: The Sciences of Safety, Health and Environment plus Ethicsと呼ぶ)、社会と科学技術のよりよい相互理解と協働の必要になっている、と発表者は主張した。

以上の説明は発表者の実体験も交えた分かりやすいもので、また文系理系の双方に対する行き届いた配慮もあって、多くの聴衆の関心を惹きつけた。また発表者は、人文社会系と理工系の垣根を取り払う「文理融合」は不可能であるが、しかし両者の間の壁が「ベルリンの壁」になってはならず、ドアを開けて出入りできるような関係であるべきだ、という主張も示した。

これに対し、コメンテーターの生方氏は、アジア・アフリカ地域における科学と社会のあり方について、ユーカリ普及についての論争の事例も交えながら質問した。いわゆる途上国では欧米以上に科学と社会のギャップが大きい。科学を支える制度は弱いが、一方で科学以外の知は厚い。そのギャップを考える際には何に注目していったらよいのか、という問いを示した。

もうひとりのコメンテーターの篠原氏は、「科学技術」ではなく、「科学・技術」というように区別するべきでは、と指摘したうえで、問題を科学と技術と社会と人間の四者の関わりとして置きなおした。さらに、人間のなかの変わりやすい部分ではなく、より本性的な変わりにくい部分に注目する必要を指摘し、事例として科学的な知の発見と実用化の間のタイムラグを挙げて、これをどう捉えるべきかという問いを示した。

以上のコメントに対し発表者は、科学を母国語で行える国が少ないという点を指摘し、アジア・アフリカ地域に対する日本の位置、知的責任を考えるべきだと述べた。加えて、アジア・アフリカ地域に関しては、適正技術の問題も重要であり、本来はローカルナリッジを組み込んだものにしていかなければならないが、なかなかそれが実現されていない。STSはその掘り起こしを進めようとしているが、それだけでなく、ローカルナリッジを追及するための科学も必要だろう。

また科学技術においては、「unknown unknown」、つまり何が分かっていないかがわかっていない、というのが一番問題であり、それについて合意形成はきわめて難しい。だから本質的には政治的な解決しかないだろうが、むしろ、科学の失敗がなくならないという理解を共有し、合理的に失敗するための合意が必要なのではないか、と述べた。 

それから篠原氏のいうタイムラグに関しては、基礎→応用というプロセスを単線として考えるのではなく、どういう形でイノベーションがなされるかを考えるほうがいいのでは、と述べた。さらに、「人間の変わらない部分」についても、そうだったはずの脳や心も科学技術が入ってきているという事実を指摘し、状況が複雑であると述べた。

フロアとの質疑応答においては、文系のタコつぼ化の進行についての指摘や、文系/理系のなかでの多様性、両者の対称性の難しさ(経済政策などの文系の失敗に対する責任は問われない仕組みになっていること)などが議論された。また、文理をつなぐことを阻害している要因として、評価システムの違いが挙げられ、そうした努力が“おまけ”のような扱いになり、“本業”で評価されにくいことが指摘された。加えて、STSの視角について、生態環境を考慮することと、企業や市場も視野に含める必要があるのでは、という指摘もあった。

今回の研究会は、本プログラムの根幹である文系と理系の相互理解を進める上できわめて有意義な議論がなされたように思われる。ただ一方で、両者の間を埋める万能の解決策もないことが明らかになった。今後は今回の議論を踏まえながら、具体的な研究実践を通じて、文理をつなぐ努力がなされていくべきであろう。
 

(文責 木村周平)

「インドネシアの泥炭-森林における火災と炭素管理」 [ 特別パラダイム研究会・イニシアティブ3 共同研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日 時:2009年6月12日(金) 10:00-12:00 (その後、夕刻に京都市内で懇親会あり)
場 所:稲森財団記念館3階小会議室II

講演者:大崎 満(北海道大学)
講演題目:インドネシアの泥炭-森林における火災と炭素管理

コメンテータ:甲山治(京都大学 東南アジア研究所)


研究内容:
JST/JICA地球規模課題対応国際科学技術協力事業により、インドネシアの泥炭・森林における火災と炭素管理のプロジェクトについて研究を紹介していただきます。熱帯泥炭の保全・修復により地球規模での温暖化抑制についての話をして頂くとともに、北海道大学サスティナビリティ学教育研究センターの活動についても紹介していただきます。

 

【活動の記録】

1.泥炭湿地林の炭素管理について
 

地球上で大規模な森林が残っている地域は、インドネシア、ブラジルのアマゾン流域および中央アフリカの3か所であり、これらの熱帯の森林が有する泥炭は83.8 Gtと見積もられる。このうちの約50%をインドネシアが占めており、インドネシアの泥炭湿地林を保全・修復することの重要性が挙げられる。インドネシアの泥炭湿地林火災で放出されるcarbonは、エルニーニョのあった1997,1998,2002では1.6 Gt/yearと推定されている。日本のcarbon emission、 0.3 Gt/yearに比較し、熱帯泥炭湿地林の保全・修復がいかに温室効果ガスの削減に寄与することかが理解される。
 

北海道大学JST-JICA 地球規模課題対応国際科学技術協力事業プロジェクト(2009-2014)のプログラム「インドネシアの泥炭-森林における火災と炭素管理」では、インドネシアカリマンタン中央部セガンガウ国立公園に隣接するメガライスプロジェクト地域をフィールドとして研究が進められている。泥炭湿地火災は、地下水分量と関係しており、火災を防ぐために地下水位(water table)をコントロールすること(地下水位50 cmが目安とされている)の重要性が指摘された。このプロジェクトでは、(1)サテライトセンシングによる地下水位の計測、(2)カーボンアセスメント(計測器を3か所に設置)、(3)バイオマスと泥炭の相関性の評価等行い、これらのデータを基に泥炭のマネージメントを行っていくことが目的である。また、自然環境を守りながら人々の生活が成り立つような社会システムの管理の在り方をも考えていかなればならない。
 

また、CO2を削減するための制度として、クリーン開発メカニズム(CDM)やレッド(REDD)がある。このREDD制度に泥炭湿地を加えたいと考えている。本プロジェクトのもうひとつ大切な目的は教育である。研究を通して、ローカルな文化・知識を礎に環境倫理を考えられる、サスティナブルソサイティを築けるリーダーを養成する。
 

2.根圏の栄養生態について
 

泥炭湿地の土壌は、硫酸酸性のためpH 3という極度な酸性であること、また、土壌養分が溶脱し、ポトゾル化して貧栄養状態となっている。このような土壌にも耐えられる樹種として、メラルーカ、ソレアやゼロトンなどが植林されている。これらの樹種は、有機酸を分泌してアルミニウムをキレートし、アルミニウム毒性を下げて自身の生育を可能にしていると考えられる。根圏を制御できる樹木が泥炭湿地で生育でき、森林の再生に利用可能である。 泥炭の表層から1 m の層は、微生物が豊富であり、この層が樹木の生育に必要である。
 

コメント(甲山):
(1) 熱帯の降水量の多さが泥炭湿地の形成に関与している。
(2) 現在の植林地が放棄された場合、どのようなリハビリテーションが有効であるかとの質問に対して、現在、オイルパームプランテーションが存在するが、オイルパームの付加価値を安定させる社会システムの構築が必要である(大崎)。
(3) 元の状態,もしくは別の局所解に達するまでの要するタイムスケールに関する質問に対して、水分蒸発量などを計測し、シミュレーションすることが可能である(大崎)。
(4) CO2収支,微生物,植物に関する質問に対して、モニタータワーによる観測を2002年から開始している。このデータをFFPRI FluxNet(森林―大気間の水蒸気、CO2、エネルギー輸送に関する森林総合研究所のフラックス観測ネットワーク)に載せる予定である(大崎)。
 

                            (文責 海田るみ)

「東京の都市再生:歴史とエコロジーの視点から」[第18回研究会] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2009年5月18日(月)  16:00~18:00
場 所:京都大学東南アジア研究所  稲盛財団記念館3階大会議室

講師: 
陣内秀信(法政大学デザイン工学部) 
「東京の都市再生:歴史とエコロジーの視点から」

コメンテーター: 
藤井滋穂(京都大学地球環境学堂・グローバルCOE「アジア・メガシティの人間安全保障工学拠点」) 
岩城孝信(法政大学)

現在、世界人口の約半数が都市で暮らすといわれ、都市の重要性はますます高まっている。
都市は従来、農村との対比において、人工的な空間と見なされる傾向にあったが、その成立や発展、あるいは衰退がつねにその自然的あるいは社会的環境と深いかかわりにあるということは見逃されてはならない。特に18世紀の西欧における都市人口の拡大は、産業革命のエンジンとなったが、それは同時に様々な問題(環境破壊や生活・労働条件の悪化など)を伴っていた。そうした諸問題は近年に至るまで発展の副産物として看過されてきたが、グローバル化が進む現在、そうした環境や資源の問題が地域的な問題ではすまされないことがますます明確になっている。
つまり、都市の環境とのつながりの再生なしに、持続的な生存基盤はあり得ないのである。今回は東京やその他の都市に焦点を当てながら、以上のような問題について議論したい。

[講演要旨]
東京の都市再生-歴史とエコロジーの視点から

今日、我が国も人口減少と経済非成長という成熟段階に入り、改めて魅力的な都市生活と住空間を問い直す必要がある。個性ある真に豊かな都市をつくるには、エコロジーと歴史の視点に立って、その場所の特性を生かし、質の高い環境づくりを実現することが求められる。巨大な現代都市、東京を対象に、歴史とエコロジ?の視点からこの都市の特徴を読み解きながら、再生へのイメージを論じてみたい。
東京の前身、江戸は水と緑を都市環境に巧みに取り込み、世界の都市の中でも特異な存在であったといえよう。その独自の性格は、今もなお、東京中心部の空間構造の深層に受け継がれ、この現代都市を個性づける重要な要素となっている。起伏の変化、地質、植物の分布、水の流れ、湧水、空気の流れ等を考えながら、柔軟な方法で都市空間がつくられた。東京はまさにエコ・シティだったと言うこともできる。そのため、変化に富んだ個性豊かな都市風景が生まれた。東京の郊外、田園部に目を向けると、今なおその性格をより強くとどめる。
近代の都市開発はそうした既存の都市の歴史的、自然的な資産を活かすことに無頓着だった。しかし近年、市民、住民の間には、既存の都市がもつ魅力を引き出し、水辺や緑地を再生するための活動が大きく広がっている。今日、政府・財界の推進する経済浮揚のための高層ビル群の建設を中心とした従来型の大規模開発、都市再生ではなく、地形や自然条件を活かし、水辺空間と緑地を保全・再生しながら、持続可能で質の高い生活環境を生み出す方策が求められる。こうした方向での都市再生の在り方を考えてみたい。

【活動の記録】

今回のパラダイム研究会では、報告者の陣内教授は自分の研究経歴を振り返りながら、水の都市としての東京の再生について報告を行った。都市について考えることは生存基盤の持続性にアプローチするうえで欠かすことのできないテーマだが、都市が周囲の環境、とりわけ水との関わりのなかで歴史的に形成してきた秩序に目を向ける今回の報告は、本プログラムにとってきわめて示唆的なものであった。
 

従来の都市工学の研究はスクラップ・アンド・ビルドの再開発が中心的なテーマであり、既存の都市のあり方について考察することが少なかった。報告者はそれへの反発からイタリアへ留学し、ヴェネツィアという都市の読み方を学んだあと、下谷について研究を行い、既存の都市空間が独特の秩序をもって形成されており、それが時代を越えて持続していることを明らかにした。報告者は続いて、江戸=東京について、山の手から下町にかけて古地図を利用しつつ丹念に実地調査を進め、それが水の都市、エコ・シティという性格を持っていたことを明らかにした。そこには例えば、道路は尾根を通り、武家屋敷が高台に、ローカルなコミュニティは谷道を軸にできているなどの、地勢とうまく適合した有機的な構造が見られる。報告者はそれを「都市の形態学」とも呼んだが、そうした大まかなパターンは現在に至るまで受け継がれており、大きな通りのパターンはほとんど江戸と変わっていない。こうしたことに人々の関心が集まるようになったのは、1970年代から80年代になって、イギリス経由でアメニティや生活環境というコンセプトが紹介されてからのことである。
 

江戸期の舟運、漁業、あるいは儀礼などを通じた住民と水との豊かな関わりは、明治期に入って近代的な橋やプロムナードなどが作られ、モダンな空間となっても意味づけを変えつつ維持されていたが、高度経済成長期に失われてしまった。しかし、70年代ごろから水辺を占めていた工場が出ていき、水が戻り、魚が戻り、人が戻って、ウォーターフロントの再生が進んでいる。

以上のような、都市がもっている自然環境との関わりを取り戻し、それを維持しながら、そのうえに様々な意味を積み重ねていくということについて、報告者は東京の様々な地区(佃島、深川、世田谷、大宮八幡、日野など)の事例を紹介しながら説明した。

これに対し、岩城氏はタイのバンコクを事例に、地図(古地図やGIS)、現地調査(聞き取りと実測)、そして文献資料を組み合わせた研究手法について紹介し、長いタイムスパンでの変化を追うことで現在時点における問題がより明確になることを示した。

また藤井氏は、京都大学グローバルCOE「アジア・メガシティの人間安全保障工学拠点」の活動を紹介しつつ、都市基盤の作られる年代で、水を得る、出す方法、システムが異なるため、アジアのそれぞれの都市の条件に応じた水の水道を得る、下水を処理するシステムを考える必要があることを主張した。

総合討論では、水と共に生きる都市の共通性について、環境との共生における商工業活動のポジティブな側面について、あるいはエコ・シティとしての江戸を形成した要因は何か(①地勢、地理などの生態学的な条件、②そこに住んだ人の世界観、③都市計画のうち、どれか?)、などの質問が出て、有意義な意見交換が行われた。
 

(木村周平)

「生存基盤持続型発展を目指した研究 活動報告」 [ 第17回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日 時:2009年4月20日(月)  16:00~18:00
場 所:京都大学東南アジア研究所  稲盛財団記念館3階大会議室

趣旨:
我々のグローバルCOEが開始して2年弱がたつが、その間、新しい地域研究のパラダイムを構築すべく、本パラダイム研究会を開催してきた。その間、「文理融合」「視点のズームイン・ズームアウト」「圏間の融合」「生産から生存へ」「ネットワーク化」「Humanosphere」等のキーワードが生まれ、新しいパラダイムの萌芽が見えるようになってきた。今回のパラダイム研究会では各イニシアチブでの成果と方向性をフレッシュな視点で報告し、生まれかけている新しいパラダイムに関して議論を始めたい。
 

講師:
1. 京都大学東南アジア研研究所 藤田幸一先生
「農業社会から工業社会へ、それからどこへ」(仮題)
2. 京都大学東南アジア研究所 藤田素子さん
「都市環境における鳥と人との相互作用系」
3. 京都大学生存圏研究所 林隆久先生
「リアウにおけるG-COE再構築」
4. 京都大学東南アジア研究所 速水洋子先生
「人間圏における生のつながり:生存基盤としての再生産再考」
 

[講演要旨]
「都市環境における鳥と人との相互作用系」(藤田素子さん)
ヒトが作り出した都市環境には,様々な生物が適応している.そのような鳥類の代表であるカラスは,ゴミを食べることで個体数を増やしてきた.しかし,そのゴミ由来の窒素・リンが糞の形で,ねぐらである都市の林に運搬されることが分かってきた.つまり,意図せずして,森林生態系は富栄養化しているのかもしれない.ヒトの起こした環境の変化に適応した生物と,それに伴い変化する生態系機能についての事例を紹介する.
 

「人間圏における生のつながり:生存基盤としての再生産再考」(速水洋子先生)
イニシアテイブ4のキーワードとなっている連鎖的生命は、人間圏と生命圏をつなぐ生命観として田辺リーダーが提唱したものである。今回は特に人間圏の側からこの問題を考えるために再生産の概念を再考する。
 

【研究会の趣旨】
 我々のグローバルCOEが開始して2年弱がたつが、その間、新しい地域研究のパラダイムを構築すべく、本パラダイム研究会を開催してきた。その間、「文理融合」「視点のズームイン・ズームアウト」「圏間の融合」「生産から生存へ」「ネットワーク化」「Humanosphere」等のキーワードが生まれ、新しいパラダイムの萌芽が見えるようになってきた。今回のパラダイム研究会では各イニシアチブでの成果と方向性をフレッシュな視点で報告し、生まれかけている新しいパラダイムに関して議論を始めたい。

 



 

【活動の記録】

 藤田(幸)報告では、農業社会から工業社会へ移行するきっかけとして、人口増加などによる資源制約を挙げる貧困プッシュ説に着目することで、アジアの現代社会は部分的に工業社会に取り込まれた故に苦しんでいるという見方を提示した。しかし、もはや農業社会には後戻りできないため、工業化やその成否を左右する農業生産性の向上といった開発路線が安易に否定されるべきではないとし、その意味で「生産から生存へ」という本GCOEが掲げるコンセプトには違和感があることを指摘した。藤田(素)報告では、人間圏と生命圏の相互作用が予期せぬところで起こっている例として、都市環境における鳥と人の相互関係が示された。都市化によって、鳥類相の多様性は減少するものの、一部の鳥は都市生態系に適応し、都市に持ち込まれた系外の物質を利用することを通して生態系機能にも影響を与えていることを例証した。林報告では、インドネシア、スマトラ島リアウにおける共同研究サイトが紹介され、今後進めるプロジェクトの枠組みと進捗状況が報告された。共同研究の例として、報告者自身による糖化されやすい樹木の実験による開発と自然林での探索という実験とフィールドの融合研究が紹介された。速水報告では、家族、労働力、社会システムの再生産を「生のつながり」として捉えることで、生産中心のシステムに従属することを余儀なくされた再生産領域を見直し、より自由な生のあり方を模索する報告者の視点が語られた。ヨーロッパにおける「近代家族」の生成と東南アジアの「家族」を対比させ、後者の中に、生物学的なつながりに限定されない、価値付けを含む生の継承の根幹となる関係性の再生産を見いだしていることが報告された。
 

 

議論
 以上のような報告に対し、多くの質問やコメントがなされ、活発な議論が行われた。まず、工業化に関しての質問として、貧困プッシュ説のような説明は、工業化の要因としては一面的ではないかといった指摘や、部分的な工業化が問題だということと、でも工業化は必要だということが矛盾しており、「生産から生存へ」というキーワードは、この矛盾をどう解決するかを考える際に重要なのではないかといった意見があった。都市と生態系に関しては、生産と生態系維持のバランスをどこでとるかが重要であること、生態的な見地からどう都市がデザインできるかを考える必要があることなどが指摘された。家族と再生産に関しては、私的な領域を超えた公的な意味での再生産とは何かという質問や、再生産を文化や意味体系として強調しすぎると、生存基盤の考察をそれらに限定してしまう危険性があるのではないかといった指摘があった。
 

これらの議論を通して、これまでの各イニシアティブの活動と、新たな活動との橋渡しをすることができ、特に「生産から生存へ」というキーワードについて議論を深めることができた。
 

(文責 生方史数)

「エコ・コモンズの可能性―持続と破綻のはざま」 [ 第16回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日 時:2009年2月16日(月)  16:30~18:30(その後懇親会あり)
場 所:京都大学 東南アジア研究所 稲盛記念館3F中会議室
http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/about/access_ja.html

講師:秋道智彌 (総合地球環境学研究所)
エコ・コモンズの可能性―持続と破綻のはざま
Exploring the Plausibility of the Eco-commons: Continuity andDisruption of the Human Ecosystem
コメンテーター:池谷和信(国立民族学博物館)
河野泰之(京大東南アジア研究所)


[講演要旨]
地域の生態資源を適切に管理し、利用していくための方策や制度を考えていく場合、人間社会の統合、公正性、安定性の維持などとともに、環境条件の時間的な変化・変動、生態系サービスの多様度などを苦慮した共有的な慣行ないし共有制度をエコ・コモンズ(eco-commons)と呼ぼう。 この方策の有効性を検証するため、まず環境要因に注目して、(1)モンスーン気候下における水位変動、(2)マングローブ沼沢地の干満差、(3)焼畑における休閑地の遷移、(4)高度回遊性の資源(渡り鳥、鯨類)の移動と人間の利用上の問題点について検討する。 つぎに、生態資源へのアクセス権の類型を、オープン・アクセス、リミテッド・エントリー、サンクチュアリに分け、それぞれの類型における資源の利用と分配が公正性、社会的な相克と統合などの点で果たす役割について考察する。これには、東南アジア、中国、ソロモン諸島などの例を挙げて検討したい。 最後にエコ・コモンズの実現を促進ないし抑制する要因を吟味するさいに、人間-環境間の相互作用環を時間的な動態として分析する生態史(eco-history)のアプローチの重要性を指摘したい。

 


 

【活動の記録】

発表者の秋道智彌氏からは、エコ・コモンズという概念を軸に、多岐にわたるトピックが提示された。エコ・コモンズとは、通常のコモンズから視野を広げ、人間社会の利用や管理に関する制度的な問題と生態環境の両方を同じ土俵で考えるものである。その視点からは、ある空間あるいは地域において存在するモノや動植物を取り巻いて展開する、きわめて複雑な関係性やフローのネットワーク、およびその歴史的変遷が捉えられる。

事例において取り上げられたものの一つが、ラオスの南部における洪水である。分析にはその問題に合わせたスコープ、解像度が必要になるが、ここでは20年ほどの時間におけるローカルおよびグローバルな政策変化とその水系における動植物の生態をめぐる複雑な因果関係(ダムからの放水と川べりの野菜栽培、メコンオオナマズと水草、河川の水量の関係…)と、それにかかわる現地の民俗知識(例えば「水が減るとアリが魚を食べる。水位が上がると、魚がアリを食べる」)が論じられた。

続いてコモンズとしての魚類の管理が議論された。そこではアクセス権の類型を、オープン・アクセス、リミテッド・エントリー、サンクチュアリの三つに分け、その間の変遷がメコン川における魚類保全区の事例を通じて論じられた(上からの保全による管理の失敗から、村落の公益事業や弱者救済のためのみ一時的に開放する動きへ)。

発表は、秋道氏のこれまでの研究を通じて得られた現地についての深い理解にもとづくものであり、個々の事例の背景となる全体像を把握することは容易ではなかったが、そこには資源の利用の持続性と枯渇のあいだ、あるいは世界的な趨勢とローカルのやり方のあいだで生きる現地の人びとの具体的な実践から考える、という姿勢が貫かれていたといえる。

これに対して、コメンテーターの池谷和信氏は、『「秋道学」を越えられるか?』と題して、秋道氏の研究の意義を、個別の民族誌から地域を比較する枠組みの提示、人類学を越えた近隣分野の共通の論点の提示、国際的な論議との連動、国内の研究との往復運動、というように整理しつつ、そのうえで問題点として、21世紀の情勢に対応するためにコモンズ論に必要なことは何かについて論じた。そこで問いとして示されたのは、自然保全区をめぐる自然生態から政治の議論へというフレームワークの変化をどう捉えるか、都市の問題(特にゴミなど)や移動民のコモンズをどう組み込むか、ということである。

もうひとりのコメンテーターである河野泰行氏は、東南アジア研究所が目指そうとしている地球共生パラダイムと秋道氏の構想するエコ・コモンズ論の近接性について触れ、その上で2つの問いを示した。ひとつは、エコ・コモンズを支える構造とは何か(ローカルなのかグローバルなのか、あるいはどちらでもないのか)ということであり、もうひとつは、渡り鳥の感染症などのように、従来の意味での「地域」を越える問題に注目することで、エコ・コモンズの概念をもっと拡大できるか、ということである。

またフロアからは、杉原薫氏から「所有」や「交易」の定義をめぐる質問に加え、エコ・コモンズの枠組みからはGeosphereとBiosphereの違いはどのように見えるのか、という問いが出された。荒木茂氏からは、ここで問題にしているのが地球規模のことなのか地域なのか、どう考えるべきか、という問いと、魚類の資源管理の3つのモデルの遷移が時間的なものか空間的なものか、という問いが出た。また清水展氏からは、エコ・コモンズを生存基盤として捉えることから見える展望の可能性についての意見が出た。

今回はやや議論の時間に制限があったため、議論を十分に尽くすことはできなかったが、地域研究の向かう先として、ローカルとグローバル、また社会と生態の両方を視野に入れた研究のあり方が明確になった。秋道氏の研究はそうした方向に向けたひとつの具体的なあり方を示している。こうした議論をどのようにしてそれぞれが積み重ねてきた研究に生かすことができるかを考えていくことで、G-COEが目指す新たなパラダイムがより具体的なものになってくるはずである。

(木村周平)

「アグロフォレストリーと土地利用持続性」 [ 特別セミナー:パラダイム・イニシアティブ2 合同研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ



日 時:2009年2月9日(月)  14:30~17:00
場 所:京都大学東南アジア研究所  稲盛財団記念館3階大会議室

京都大学G-COE 生存基盤持続型の発展を目指す地域研究拠点

アグロフォレストリー研究の世界的な権威,P.K. Ramachandran Nair教授の来日に際し,アグロフォレストリーによる持続的土地利用実現の可能性について講演をしていただくことになりました.生物多様性保全,二酸化炭素排出規制,食料と生物資源をめぐる争奪など,簡単には調和点を見出せない諸問題がひしめくこの地球上で,限られた土地をいかに利用していくのか?アグロフォレストリーを題材に,この問題に関する活発な議論の場を提供できれば幸いです.

招待講演者:P. K. Ramachandran Nair (Florida University)
タイトル:Land-Use System Sustainability: Business as Usual? (土地利用の持続性-ビジネス・アズ・ユージャル)

コメンテーター:竹田晋也 (京都大学アジアアフリカ地域研究研究科)
Oekan Soekotjo Abdoellah (東南アジア研究所)

 

演者紹介:
Prof. Dr. P.K. Ramachandran Nair
フロリダ大学 亜熱帯アグロフォレストリーセンター長 インド生まれ.国際アグロフォレストリーセンター(旧称ICRAF)に勤務後,フロリダ大学へ.国際誌Agroforestry
Systemsのチーフエディターや,Advances in
Agroforestryのエディターを歴任.アグロフォレストリー研究のパイオニアとして国際的に高い評価を受け,数々の賞を受賞するとともに,京都大学(2002年授与)など4つの名誉博士号を授与されている.京都大学には,2000年,農学研究科の招へい教授としても滞在.

詳細についてのご質問はオーガナイザーまで
篠原(生存研)
神崎(農学研究科)
 

【活動の記録】

Nair氏は複合的な土地利用としてのアグロフォレストリーが持つ潜在的な能力,耕地の劣化を防ぎ,炭素蓄積量を増やし,あるいは作物生産の持続性を保障するといった能力をこの講演の中で具体的に示そうとした.作物と樹木の組み合わせのもたらす相乗的な効果を数多くの具体例をあげて紹介してくれた.さらにアグロフォレストリー農地のもつ環境サービスの一例として,炭素隔離能力についての彼らの最近の研究成果を紹介してくれた.彼は,アグロフォレストリーのような複合的な土地利用が,生産者ならびに環境に多くの利益をもたらすということが,ここ30年ほどの間に徐々に浸透してきたことを指摘した.世界が今日直面している食料安全保障や土壌浸食,砂漠化といった問題に対処するためにも,作物と樹木を組み合わせることによる効果をもっと利用すべき時だと強調した.また,農業と林業は別々に扱われてきた.しかし,この二つは実際の土地利用の中では不可分に織りあわされており,多くの共通の目的を有していると主張した.アグロフォレストリーや他の複合的土地利用システムの原理を,実際の土地利用に取り入れる方策を見出すべき時にあり,ビジネス・アズ・ユージャル,既存の枠組みはもはや選択すべき道ではないと結論した.
 

この後,二人のコメンテーターがアグロフォレストリーの別の側面を指摘した.竹田はラオスの焼畑停止政策の中で最近導入されたラックカイガラムシ養殖と組み合わされたアグロフォレストリーを紹介した.彼はこのシステムが成功裏に定着した背景には,中国でのラックの需要増大が背景にあり,経済的な背景がアグロフォレストリーの定着に必須の条件であることを指摘した.
 

Oekan氏は,インドネシアの伝統的なホームガーデンが直面する問題を報告した.農業の商業化は,ジャワ島のホームガーデンのような伝統的な複合的な土地利用を,商品作物の単純な耕地へと置き換えつつあることを紹介し,伝統的な農耕システムが主に経済的な理由により,その存続が危機に瀕しているという現実を強調した.
 

会場からは,アグロフォレストリーの生産性や経済性に対する正の効果が一般化できるのだろうかという疑問が提示された.また,マクロ経済的な分析が必要だという意見も提示された.
 

1970年代から,アグロフォレストリーのポジティブな点は多くの研究者によって指摘されてきながら,熱帯の景観の主要な要素とはなりえていない.しかし,Nairが指摘したように,ビジネス・アズ・ユージャルな農業は,気候変動と持続性といった問題が重要性を増す中で,もはや唯一の選択肢ではあり得ない.第2回の世界アグロフォレストリー会議が今年8月にナイロビで開催される.さらなる複合的な土地利用の発展による持続性確保が期待される.
 

(神崎 護・佐々木綾子)

「アンデス文明における権力の盛衰」 [ 第15回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日 時:2009年1月19日(月) 16:00~18:30  (その後懇親会あり)
場 所:京都大学稲盛財団記念館 3階 大会議室

講師:関雄二(国立民族学博物館 先端人類科学研究部教授)
コメンテーター: 永渕康之(名古屋工業大学 大学院工学研究科教授)


関先生は昨年、考古学においてきわめて権威ある濱田青陵賞を受賞された文化人類学者で、アンデス地域においてインカ帝国以前の「形成期」と呼ばれる時代がご専門です。
近著に『古代アンデス権力の考古学』(2006年、京大出版)や『文明の創造力』
(共著、1998年、角川書店)などがあります。その一部や関連資料のコピーを東南研東棟1階GCOE研究員室に置いておきますので、どうぞ事前にお読みください。


発表趣旨:(発表者による)

人類学に考古学的研究方法が適用できるとすれば、その最大の利点は、比較的長い時間軸を設定した上で、文化の変化を見ていくことが出来る点であり、事実、この考え方に沿って文化変化理論、社会進化論などの面で多くの貢献がなされてきた。たとえば、私が研究の対象としてきた中央アンデス地域に関して言うならば、インカ帝国に代表されるような複雑な社会組織や権力がどのような過程を経て成立し、他地域の文明形成、国家形成とどのように異なるのかという問題意識を抱えながら展開してきた。今回の発表では、こうした複合社会の成立過程を権力に焦点を当てながら解明する試みの一端を披露したい。  国家形成の過程や特徴を論じる際に、古代社会の権力に様相に着目し、これを支える経済、軍事、イデオロギーという3つの基盤的要素(権力資源)を使って説明する方法が、近年の欧米考古学で注目を浴びている。この場合、権力とは、リーダーや支配者が他の人々に行使する支配力と仮に定義しておく。
権力資源の一つ目の経済は、生態環境を基盤にできあがっている。たとえば人間の手で加工されて生まれる生産物や技術、あるいは交換へといった対象へのアクセスを排他的、限定的にすることは、権力の基盤となる。単純な原理だが、人間が生きていくために必須な食糧などがこれに含まれることを考えれば、その効果が絶大であることに気づく。 これに対して、軍事は強制的な権力行使を発揮するものといえ、権力の拡大にとっては重要な要素である。しかし、同じ武力が謀反、造反などに向けられる可能性も高く、権力基盤としてはやや不安定である。
最後のイデオロギーは、信仰、行為、儀礼、物質文化の特定のパターンを通じて、どのように社会や政治組織が成立しているのか、権利や義務がなぜ存在するのかといった社会秩序のコードを示すものと位置づけられる。権力構造を確立し、規則の行使を制度化する基盤であり根拠を示すものと言えよう。しかし、その実態は、不可視的な要素が強く、またさまざまな社会組織、集団が独自に内容を持ちうる点で、権力基盤としては脆弱である。
以上の権力基盤は、どれが重要であるとは一概に言えず、単独では用はなさない。密接に絡み合い、相互依存的な関係を持つ。いずれにせよ、個々のリーダーの政治的な成功、すなわち権力の獲得は、これら権力基盤へのアクセスをいかに限定し、独占していくかにかかっている。しかも、こうした権力基盤が互いに組み込まれ、統御されていく様相は、文化、あるいは国家によって異なる。
以上の枠組みをもって、近年、発表者が携わる南米ペルー北高地の発掘調査データを解析していきたい。対象となるワカロマ遺跡やクントゥル・ワシ遺跡は、いずれもアンデス考古学上、形成期(前2500年~西暦紀元前後)と呼ばれる時代に属し、巨大な祭祀建造物を核としている。国家が成立する前の時代である。また比較の視座を確保するために、ペルー北海岸で成立したアンデス史上最初の国家社会とされるモチェにも言及する。
 

 

【活動の記録】

本研究会ではこれまでのパラダイム研究会の主要な舞台であったアジア・アフリカ地域から離れ、アンデス地域における「形成期」と呼ばれる時代に関する考古学的な研究成果が報告された。
報告者である関教授(国立民族学博物館)は、40年にわたる日本の調査の成果を踏まえ、権力という問題に焦点を当て、経済・軍事・イデオロギーという権力資源のコントロールの変遷という側面からこの問題にアプローチした。土器片や頭蓋骨の形、灌漑水路跡、基壇の築かれ方、器に残るデンプン粒などの多様なものを通じて、こうした権力資源がどのように生産され、流通したのかを可視化し、読み解いていく考古学的思考は、現代の社会について「権力」や「国家」などの抽象的で不可視なものを分析する人文・社会科学者に大いに刺激を与えた。加えて、図像や武具の分析、同位体分析やコラーゲン分析などを利用するその手法は、まさに文理融合的であり、GCOEの目指すところにとっても示唆的であった。
質疑応答においては、まずコメンテーターの永渕教授(名古屋工業大学)から、東南アジアにおける王権論と関係づけつつ、本報告の根本を捉えた質問が示された。それは、(1)事例としての諸社会の提示の仕方に含まれる進化論的パースペクティブについて、(2)権力という問題を経済・軍事・イデオロギーの3つのカテゴリーから論じることについて、(3)権力というものについて(権力というものは必ず存在しなければならないのか)、および(4)長距離交易と交換という問題について、である。またフロアからは、当時の社会におけるミクロ・ガバナンスのメカニズムについて、および遠隔地交易を何が支えていたのかについて、また神殿の規模を拡大する基盤と経済の関わりについてなど、多くの質問が出た。これに対して関は、考古学においては実証的な分析が求められるため、すべての質問に答えられるわけではないとしながら、それぞれの質問について、具体的な調査成果にもとづいて回答した。またその回答のなかでは、権力が巨大な祭祀施設を生み出す要因になったのではなく、祭祀施設を作り出すという実践を通じて、結果的に権力が生み出されたのではないか、という仮説も提示された。
関も報告の冒頭でふれたように、アンデスは5大文明のひとつであり、そこでは他の文明同様、ローカルな生態環境との関わりで社会が作り出され、それが多様な環境へと広がっていくというプロセスが見られる。本報告でその一端が示されたアンデス文明の発展のあり方には、西洋型ではない、別の発展のあり方について考えるための示唆が含まれている。

 

(木村周平)

「生存圏科学とバイオ材料」 [ 第14回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日 時:2008年12月15日(月) 16:00~18:30 (その後懇親会あり)
場  所:京都大学 東南アジア研究所 稲盛記念館3F大会議室
http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/about/access_ja.html

講師: 矢野浩之(京都大学生存圏研究所)
生存圏科学とバイオ材料 -未来の車は植物から創る -

コメンテーター:阿部健一(総合地球環境学研究所 )

植物が陸上に上がったのは約5億年前のことであるが、その後、決して快適とは言えない地球環境の中で進化を遂げ、今では、地球上のバイオマスの約95%を占めるに至っている。樹木は生存圏における環境浄化や炭素固定において重要な役割を果たすと共に、そこから得られる木材には、21世紀における持続的な資源、エネルギーの供給源として大きな期待が寄せられている。食料用のみならず様々な資源材料として赤道域におけるバイオマス資源の重要性は年々増しており、アジア・アフリカ地域を考える際に切り離して考えることは出来ない。しかし、栽培により循環可能な資源であるバイオマスも無節操に利用するだけでは、近年の森林資源の荒廃や食料価格高騰等の問題が引き起こされたことからも分かるように逆に我々の生存圏を脅かすことになりかねず、地域研究からの最適(と思われる)提案を積極的に行っていかなくてはならない。本講演では講演者が研究を牽引しているナノファイバーを木材から取りだし、鋼鉄の様に強い植物材料やガラスのように熱膨張が小さく、しかし、プラスチックのように曲げられる透明材料の開発成果の最新状況を示し、将来の生存圏のあり方の一つを示す。これに対し、社会・制度・文化・経済等、アジア・アフリカ地域から見たバイオマス資源のあり方について議論を深めたい。




 

【活動の記録】

発表者からは、木という素材の可能性と、単にそれを利用するのではなく、木の声を聞き、木の思いを生かすという日本型の科学(Jサイエンス)への熱い思いが語られた。
人口が増大し、それに伴い消費が拡大している現在、石油資源に依存した社会のあり方を見直し、太陽エネルギーに依拠した社会を構築していく必要がある。そのためにはバイオマス、特にその90%以上を占める木質バイオマスを利用することが第一である。
木は軽くて強い。実験したところ、パルプの繊維一本で1.7ギガパスカルの負荷に耐えることがわかった。加えて、法隆寺五重塔の心柱を使った実験では、2000年経ってもほとんど強度が変わっていないことも明らかになった。さらに熱膨張率も小さい。パルプは幅10ナノメートルの細い糸(ナノファイバー)が集まってできているが、これまではそれを十分に利用することができなかった。しかしここ10年ほどのナノテクノロジーの発達によって、ナノファイバーをモノづくりのマテリアルにするという道が開かれた。
その具体例としては、植物でつくる自動車(軽量化により炭酸ガスの排出を減らす効果も期待できる)、ナタデココでつくる自由に曲げられるテレビ、あるいはコンピュータの基盤などがある。こうした技術はいずれも、99%あるいはそれ以上を木(生き物)が作り上げたものなのであり、言ってみれば木の思いに、人が入り込んでいき、それを受け止めて材料を創る、ということである。こうしたすべての生物を尊敬し、その力を借りるという科学のあり方(Jサイエンス)は世界に向けて発信されるべきものである。

これに対しコメンテーターは、生態人類学者T. Ingoldを援用し、彼のいう「Sphere的世界観(人間が環境に埋め込まれ(embedded)、一体化している状況)と「Globe的世界観(環境から離床し(disembedded)、客観的に眺めたり介入したりする状況)の区別から、発表者、さらにはGCOEが目指すところはどこにあるのか、考えないといけないのは自動車社会の在り方を変えることではないのか、と問いかけた。加えて、バイオマス資源をエネルギーとして利用する際の問題点(超低密度の分散型のエネルギーであることや泥炭湿地からバイオエタノールを得るときに放出されるCO2など)が指摘された。さらに、持続可能性に代わって地球研が追求する「未来可能性(futurability)」、それに向けたreproductive consilience(統攝、E. O. Wilsonの概念)の観点が示された。
 
フロアからは、実際の技術が伴う問題(大企業だけでなく現地の住民にとっても有益な利用法とは、コストダウンが引き起こす消費の拡大という問題をどう防ぐか)などの問題が提起されたり、biosphereの論理をどう学ぶべきかについての見解が求められたりしたが、「植物の思いを生かす」という姿勢に対しては賞賛の声が挙がっていた。
 
この研究会においてはGCOEが目指す科学・技術のあり方の方向性が垣間見えたように思われるが、それは理系・文系双方の研究者の歩み寄りによる部分が大きい。今後、さらなる展開が期待される。

 (文責 木村周平)

「モンスーンアジアの気候生態史観」 [ 第13回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2008年11月17日(月) 16:00~18:00(19:00から懇親会を予定)
場 所:京都大学吉田地区 総合研究2号館 AA447
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/campus/map6r_y.htm

講師 名古屋大学 地球水循環研究センター 安成哲三
同    地球生命圏研究機構

「モンスーンは森を創り、森はモンスーンを維持する
そして人は森もモンスーンも変えていく?
-ユーラシア大陸における気候・生態系相互作用とその変化-」

コメンテーター:聖泉大学(京都大学名誉教授) 高谷好一
コメンテーター:総合地球環境学研究所 酒井章子

これまでに開催されたパラダイム研究会は以下を参照にしてください.
/staticpages/index.php/paradaigm_list

---------------------------------------------------------------------
[安成先生要旨]

モンスーンは森を創り、森はモンスーンを維持する 
そして人は森もモンスーンも変えていく?
-ユーラシア大陸における気候・生態系相互作用とその変化-

安成哲三
名古屋大学地球水循環研究センター
同 地球生命圏研究機構

古典的な生物地理学では、ケッペンの植生気候区分にみられるように、気候が植
生を決めるというパラダイムがあった。しかし、私たちのユーラシアやモンスー
ンアジアにおける最近の観測・調査と気候モデルによる研究は、気候と植生が強
い相互作用をもった共生系を形成していることが分かってきた。見方を変えれ
ば、地球環境の真の理解には、これまで水と油のように世界を別にしていた物理
学・化学と生物学(生態学)を止揚した新たな「地球学」が必要であることを指
摘する。この発表では、このような気候・生態系相互作用の最近の研究をまず報
告する。その上で、アジアモンスーン地域がなぜ世界でも有数の生物多様性を有
する地域として存在しているかの考察を、いくつかの異なる特性をもつ気候・生
態系の(氷期・間氷期のような)地球規模の変化に伴う時間発展(進化)という
視点から行う。さらに、このような異なる特性の気候・生態系と人間活動の相互
作用が、モンスーンアジアの風土、あるいは「世界単位」(高谷, 1993; 1997
他)の形成に対し、どのような意味をもっているかについての考察(あるいはホ
ラ話?)も試みる。

参考文献
1, 安成哲三,2007:地域・大陸スケールでの植生・気候相互作用,天気54,929-932
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006474666/
(上のリンクの本文を読む・探す CiNii PDFからダウンロードできます)
2, 高谷好一, 1993:新世界秩序を求めて 中公新書1110
3, 高谷好一, 1997:多文明世界の構図 中公新書1339

「気象気候予測の可能性と限界」 [ 特別研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2008年11月4日(火) 17:00~19:00 (その後懇親会あり)
場 所:吉田地区 総合研究2号館 AA447
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/campus/map6r_y.htm

講師:東京大学サステナビリティー学連携研究機構 住明正
講演タイトル:「気象気候予測の可能性と限界」

コメンテーター:京都大学地球環境学堂地球環境政策論分野 松下和夫
コメンテーター:京都大学人文科学研究所 田辺明生

【住明正要旨】
気象・気候予測の可能性と限界

住 明正(東大IR3S/TIGS)

(1)「かって、将来の予測は神の業であった」と昔、書いたことがあります。実際、予言や神託という言葉が、宗教には、数多く見られます。人間が知りたい未来の中で、天候が大きな位置を占めていたというのは、人間が自然環境の中で生活せざるを得ない以上、当然のことと思います。

(2)この「神の業」を、科学にしようとしたのが、Richardsonの試みです。文字通り、物理的な法則性に基づいて将来を予測しようとする、大胆な試みです。彼の書いた本を読むと、手計算で数値積分が行えるように定式化が行われています。4年間をかけて計算するなど、彼の努力のすざましさが分かります。

(3)このような予測の確からしさは、昔から、問題になっています。天気予報などでは、現実がすぐに分かるために、「当たる、当たらない」で評価されてきました。つまり、現実で検証したわけです。この「予測と観測による検証」というプロセスは、実験による検証が不可能な地球科学では、ひとつのパラダイムになっています。

(4)数値予報が天気予報の業務に導入されるについて、「予測可能性」の研究が行われました。しかし、今研究は、なかなかと進展しませんでした。なぜかといえば、その背景となる理論が存在しないからです。天気予報は、常に、日食、月食の予測と対比させられてきました。「むこうは、何年も先の予測ができるのにどうして?」というわけです。このような研究の中で、線形系に対する非線形系の振る舞いが取り上げられ、Lorentzのカオスが出てきます。ただ、カオスは、気象の世界では、大きな注目を集めなかったように思います。その理由は、やはり、「将来を当てる」ことを中心に考えているからと思います。

(5)天気予報の分野では、数値予報が完全でないことは自明ですので、それをどのように修正して応用するか?という研究が行われています。予測の限界の理論的解明ということは、あまり、行われていないのが真実です。

(6)結局のところ、予測の可能性に関しては、実際のデータに基づく経験的な議論になっていると思います。実際、予測可能性は一義的に決まるわけではなく、予測する量の定義によって変化するので注意が必要です。

(7)予測可能性を拡張する試みのひとつは、可能性を別のところに求めることです。その一例は、エルニーニョなどの大気海洋結合モデルを用いた年々変動の予測です。その予測可能性の担保は、熱帯地方の大気海洋系のダイナミクスに求められます。現実の気候システムでは、様々な時間スケールの変動が存在します。ですから、より長期の変動モードに着目すれば、微小時間という範囲でも、現実には、予測時間が延びることになります。

(8)地球温暖化に関しても、大気組成によって温度構造がどう決まるか?ということから問題が出発しています。これが、有名な、Manabeさんの1次元放射対流平衡モデルです。ですから、地球温暖化の問題は、最初は、平衡の問題として定義されていたのです。従来の数値積分による温暖化のシミュレーションも、3次元の平衡問題を解く過程と考えるのが妥当だと思います。

(9)これを、transient、時間発展の問題として考えるようになったのは、最近のことです。その背景は、温暖化問題が現実の政治プロセスとなり、具体的な時間軸が重要になってきたからです。初めて、IPCCの第4次報告書で、その可能性が提起されてきました。現在では、季節予報から、30年予測までのシームレス予測ということが言われています。

(10)結局、ここでは、外力による強制応答と、システム固有の自由モードの表現可能性によるとされています。平衡応答が可能と考えているのは、長期に時間積分することによって自由モードの寄与が小さく出来ると考えているからです。ところが、過渡応答を考えると、自由モードの表現が初期値に依存すると考えられるので、その再現可能性が問題になるわけです。

(11)モデルを用いた、もうひとつの特徴は、4次元データ同化システム(4DDA)というコンセプトを提案したことです。時空間に散在したデータを、法則性にのって解析するという手法は、自然科学の分野に新たな光を持ち込んだと思います。

「熱帯地域における緑の革命-南アジアとアフリカ-」 [ 第12回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2008年10月20日(月) 16:00-18:30 (その後懇親会あり)
場   所:京都大学吉田地区 総合研究2号館 4F 会議室 (AA447)
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/campus/map6r_y.htm

講師:藤田幸一先生(京都大学東南アジア研研究所 )
「『緑の革命』と経済的離陸:インドの経験から何を学ぶか?」

講師:若月利之先生(近畿大学農学部)
「水田農業の普及によるアフリカの緑の革命実現とアフリカ型里山集水域の創造」

アジアにおける緑の革命の成果については様々な意見が混在する。しかし、緑の革命がマルサスの人口論にみられる人口/食糧の制約を打破し、多くの人々の生存を保証したことを通して、経済発展の基盤を提供したことは疑いない。
一方、これまでの緑の革命に対する標準的な議論および批判は、土地、労働、資本といった生産要素と各要素の生産性、およびその社会的な分配の側面に偏りがちであった。特に、それが土地以外に投入された「自然資本」や、周囲の環境の持続性、そしてそれらが人々の生存に与える影響といった視点から省みられることは、未だに少ないのではないだろうか。
アジアでの「成功」を踏まえ、現実的には今後アフリカにも緑の革命を、という期待が大きいが、それが成功するためには、上記のような視点も含めてアジアの過去から学び、またアフリカ社会に適合した「革命」でなければならない。
本研究会では、各地域における緑の革命に関する話題を提供し、人々を取り巻く様々な環境要素からなる「生存圏」の発想から緑の革命を再検討することで、人々の生存と持続的経済発展の基盤を提供するための今後のグローカルな食糧生産のあり方に関して議論したい。







【活動の記録】  
今回のパラダイム研究会は「緑の革命」をテーマに二人の発表者が異なる視点・事例から発表を行った。「緑の革命」というと一般にコメにおける IRRIや小麦のCIMMYTなどの改良品種の成功として語られることが多いが、最初の発表者である藤田幸一氏(東南研)はインド(とくにパンジャブ地方)における「緑の革命」の進展において、1960年代半ばの大旱魃を背景にした農政の大転換(技術重視へ)、この地域における英国植民地期の灌漑用水路の整備と中規模農民の存在、管井戸の利用などがそれを支えていたことを指摘した。さらに、インドにおける「緑の革命」を1960年代半ばからの第1波と、 1980年代の第2波に分け、前者の時期には国家が農業に力を入れたため工業が停滞したこと、しかしポンプを使った小規模灌漑によって進められた「緑の革命」第2波において、インドの農村全体が豊かになり、工業・サービス部門にマーケットを提供することで、経済が農業生産から「離陸」し、成長していったことを指摘した。以上を見た上で、インドの事例から、農業生産拡大には水のコントロールが決定的に重要であったこと、しかしある程度の人口圧力がないと土地改良投資が行われないこと、経済成長における農村の所得増の重要性、を教訓として示した。 一方、若月氏(近畿大)は西アフリカを中心に氏が進めている実践について発表を行った。まず、アフリカにおいては品種改良が収量の増加をもたらさなかった理由として、土壌の肥沃度の低さや降雨量の不安定さを挙げ、灌漑はもちろん重要だが、適地は全面積の1%ほどしかないということを指摘した。そのうえで、適地をみきわめ、水田をつくって水量を管理し耕作するという一連の技術を移転することで収量の安定的な増加をはかろうという氏のプロジェクトについて説明した。水田は収量の違いや休閑の必要などを考慮すると畑作地の10倍程度の持続的生産性があるが、それを作り上げるためには藪になっているところを田圃に変えるような土地改良が必要になる。氏はデモンストレーションサイトで少数の農民を教育することで、そうした仕組みの普及を図ろうとしている。 質疑応答においては、二つの発表の中心的な問題に深く踏み込んだ議論が行われた。まず「緑の革命」を引き起こす土台となった農民の営み(たとえば江戸時代の農具や肥料の改良など)にも目を向けることが重要であるとの指摘があった。また、ここで取り上げられた二つの農業生産拡大の持続性についての問いかけもあった(インドが一見成功しているように見えるが、実は地下水位の低下などの問題が起きているのではないか。アジアでは大河川によって支えられている水田というシステムが環境の異なるアフリカにおいても持続的だといえるのか)。さらにインドの事例においては農村の購買力と経済成長の関わり、アフリカの事例においては土地改良のモチベーションをどう高めるか、土地改良に関する共同性と個、などの点についても意見交換がなされた。 議論を通じて、食糧生産と経済成長にかんするそれぞれの事例の成功の要因だけでなく、抱えている問題も明確になってきた。持続型の生存基盤に関する新たなパラダイムを形成するためには、この両方の側面について、さらに探究していく必要があるだろう。

 (文責 木村周平)

「化石資源世界経済における熱帯地域の発展戦略」 [ 第11回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2008年9月22日(月) 16:00~18:00
場 所:東南アジア研究所東棟2階セミナー室(E207)

講師 : 京都大学東南アジア研究所 杉原 薫 先生
「「化石資源世界経済」の形成と構造-エネルギー効率の改善と環境破壊の200年-」
コメンテーター: 京都大学エネルギー科学研究科 石原 慶一 先生
(エネルギーや資源の有効利用と評価システムの体系化に関する研究・ベトナムのエネルギー問題)
コメンテーター: 大阪大学大学院経済学研究科 深尾 葉子 先生
(中国の環境と社会)


【内容】
19世紀に始まる石炭の本格的な利用は、工場制度の成立と第一次交通革命によって、西ヨーロッパとアメリカの主導する「大西洋経済圏」の発展の基礎を提供した。それとともに、これらの地域におけるエネルギー消費の構造は、従来の「バイオマス資源」から「化石資源」に急速に転換し、さらに20世紀中葉以降、アメリカの資本集約的・資源集約的な技術革新が世界経済の生産力のさらなる上昇を主導していった。
 

しかし、現在この手法での成長の限界が目に見えており、新たなパラダイムシフトが叫ばれているのは周知の通りである。これに対し、東アジアの高度成長国は「資源節約型」と呼ぶにふさわしい発展径路をたどってきた。半世紀から1世紀前に同じ発展段階にあった欧米諸国と東アジアを比較すると、全体としては、一人当たりエネルギー消費においてはるかに低い水準のまま工業化を進めたことがわかる。
 

他方、熱帯地域に属するアジア・アフリカ諸国の多くは、依然として効率の低いバイオマス資源への依存を続けており、不安定なエネルギー供給によって生存基盤を脅かされている。これらの地域が「化石資源世界経済」が作りだした不均等な発展径路から脱却するためには、単に温帯の先進国の技術、制度を「借用」して後発国の利益を活かすだけでなく、もっと意識的に、熱帯地域に独自の、多様な資源・エネルギーの賦存状況を総合的に理解し、それに見合った価値観、技術、制度を構築していかなければならない。そのような視点から、本研究会では、これら熱帯地域がとりうる発展戦略、エネルギー戦略について議論したい。
 




 

【活動の記録】
杉原報告では、国レベルのエネルギー消費等の統計的データをもとに、今後の産業発展と資源利用のあり方が議論された。まず工業化の過程とエネルギー消費の変化について、西洋とアジアが対比的に説明された。20世紀半ばの西洋諸国の産業発展は、商業エネルギー(石炭、石油、天然ガス、電力を指す。なお、この時点での主要な資源は石炭)の消費量の大幅な増加および非商業エネルギーの割合の減少を引き起こしていたのに対し、アジア諸国は工業化の過程において、非商業エネルギーの割合をそれほど減らしておらず、一人あたりのエネルギー消費量も比較的少ない。  つぎに、事例として日本の工業化の過程が取り上げられ、検討された。日本においては土地は希少であったが、木材や水などは豊富であり、その意味ではけっして非資源国ではなかった。20世紀前半に石炭経済への転換において資源輸入国に転じたが、そこでは資源を集約的に利用するかたちで工業化が進められた。その発展、とくに欧米への製品輸出を支えたのが、「オイル・トライアングル」と呼ばれる、欧米・中東・日本の間の交易関係である。しかし、石油の価格が急上昇している現状において東南アジア諸国が同様のことをするのは難しい。とはいえ、バイオマス資源などの石油を代替する資源の比重がそれほど急速に上昇することも望めない。それゆえ、今後のそれらの社会の発展においては、エネルギーを集約したり使い分けたりして、効率的に利用するようなあり方が求められるのである。 つづいて石原氏は、ベトナムにおけるエネルギー生産性(杉原報告において「エネルギー効率」と呼ばれていたもの)について報告した。まず環境クズネッツカーブが示され、ついで産業連関表の分析から、工業化が進むベトナムにおいては、セメント産業および農業セクター(化学肥料を利用しており、化学工業も含む)においてとりわけエネルギー消費が大きく、エネルギー生産性が低いことが示された。 また深尾氏からは、黄土高原において自身が関わる水と緑の回復のための研究の紹介と、現地の現状について報告があった。そこでは石炭資源が豊富であったが、近年急激に価格が上昇しており、農業従事者の生計を逼迫していること、またこれまで現地の現金収入と沿海地域の工業生産を支えてきた出稼ぎ者たちのあり方について、国レベルで見直しがなされようとしていることなどが論じられた。 フロアからは、商業エネルギーの定義について確認があった。またエネルギー消費の転換がうまくいったのは日本が資源国であったことと資源節約型であったことが要因だ、という杉原報告の主張にコメントが集まり、日本の特徴がその対応力にあったことが確認される一方で、資源節約のインセンティブがない国に対して資源節約の技術を普及させるにはどうすればよいか、という疑問も提示された。また深尾氏の報告に関して、中国の経済発展と農業の持続性のジレンマについても議論がなされた。 以上、本研究会においては、経済発展の歴史的なあり方が検討され、その上でそれぞれの国が現在、経済発展の過程で直面している状況が示された。本研究会を通じて、生存基盤持続型の発展のあり方を考えるうえでの課題がより明確化したといえるだろう。

(文責者 木村周平)

「社会基盤の創世とリスクマネジメント」 [ 第10回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2008年7月14日(月) 16:00~18:00
場 所:京都大学東南アジア研究所東棟2階セミナー室(E207)

講演者:
岡田憲夫(京都大学防災研究所)
「社会基盤創生とその持続的なマネジメント: 計画論的アプローチ」

コメンテーター:
 

  1. 安藤和雄  (京都大学東南アジア研究所)
    「地域社会から見た災害」
  2. 余田成男 (京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)
    「東南アジア地域の気象災害軽減国際共同研究」
     

趣旨:
グローバル化の進展のなかで、グローバルな現象とローカルな現象が複雑に絡まり合い、その結果として諸社会が抱える不確実性も高まりつつある。災害のもたらす被害が世界規模でみた場合に年々大きくなっていることもその一例として挙げられる。
災害において被害を受ける人々は、明らかに地域社会で暮らす弱者である。しかし、彼らの生活の安全・安心を脅かしているのは異常なグローバルな自然現象、および人間の社会・システム・心理等との複合的な要因である。この複雑に入り組んだ原因と結果を解きほぐし、私たちの目の前に居る人々を助けるためには、従来の、個別の問題対応型のリスクマネジメントという枠組みで対応するのではなく、むしろ生存に関わる多様な側面を考慮に入れながら、よりよい対応を考えていくような新たな枠組みを探っていく必要があるのではないだろうか。
本研究会では災害リスク研究の最新の取り組みに対し、文理融合型のマネジメントを深化させる方向で、グローバルな自然と地域社会・在来知という両面から考察を加える。







【活動の記録】  
21世紀型リスクとは複雑化したリスクであり,新種の疫病の蔓延,ナノテクノロジーが引き起こすリスクなど不十分な知識の中で対策を練らなければいけないリスクである.そこで土木計画学で培われてきた計画システム論を元に,災害および様々なリスクマネジメントの手法を紹介する.なかでも災害は一定の閾値を超えた現象であり,大地震などは人間のライフサイクルを超えた周期で起こるLow frequency and High impactな減少である.多様な不確実性やリスクの下での持続的なマネジメントという視点から,防災を成長と合わせて都市地域を考える必要がある.例えば東南アジアでは災害が多いことから,生き残るためだけの目的でなく災害をopportunityとして捉えるIntegrate disaster risk managementが必要であるといえる.  社会を構成する多層的なシステムは,見えない時空間(意識,習慣など)から見える時空間(建築構造物,法整備など)まで入れ籠構造を持っている.例えば質の高い社会整備を行うためには,近接分野であるエンジニアリングと法整備を理解する必要がある.特に旧来は災害がローカルだけに起こりマネジメントするだけであったが,現在では社会が様々な広がりを持つようになり複雑性を増しつつある.より安定している社会を目指すには,ローカル,コミュニテイー,エージェントの重要性を認識し,多様な人材を同じ土俵に上げる必要がある.そして現実社会の証明・予測を行うためには,少しやり始めてようすをみる Implementation scienceが重要であり,さらにはやりながら社会的になりたつ社会的成立解を目指すAdaptive management も重要であるといえる.

(文責 甲山治)

「遺伝子組み換え作物の可能性と危険性」 [ 第9回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日 時:2008年6月16日(月) 16:00~18:00
場 所:生存圏研究所HW407(データベース解析室)
http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/access.html
キャンパス内地図 (3)宇治総合研究実験棟の図中右建物4F

講師:大阪府立大学 小泉 望  (遺伝子組み換え)
コメンテーター:京都大学農学研究科 神崎 護  (環境生態学)


【趣旨】
人類がマルサスの人口論を乗り越えられたのは「耕作面積」×「単位面積あたりの収穫量」=「人間を養える限界」という図式に対し、農業技術で「単位面積あたりの収穫量」を飛躍的に増加させたためである。その結果、人口論を超える60億もの人間を地球は養うことができるようになった。
その一方で、人類による自然の収奪は、60年代の公害問題などの様々な環境問題を引き起こし、それまで人類社会の外部とされてきた自然環境をも含みこんだ倫理というものに人々の目を向けさせることになった。
とはいえ、このジレンマは解決したわけではない。これからも伸び行くアジア・アフリカから飢餓・貧困をなくすためにはさらに食糧の増産を図らなければ再び「成長の限界」に直面することは目に見えており、それに対して遺伝子組み換えなどの先端技術で解決しようという取り組みが進められている。こうした新たな技術は、人類と自然環境との長期的な関係に対してどのような影響をもたらしうるのか。
生物多様性に代表される現在の環境倫理とどうかかわるのか。本研究会では、新たなパラダイム創成を目指して、こうした問題を具体的な技術のあり方を通じて考えたい。




 

【活動の記録】
小泉報告では、組み換え作物に関する研究、生産、消費の現状が論じられた。まず、世界における組み換え作物の栽培状況を概説し、この10年で北米、南米を中心に組み換え作物栽培が急増したことを指摘した。次に、実用化の代表例として、除草剤抵抗性、害虫抵抗性作物の効果と栽培状況を解説し、これらの作物の導入が、栽培コストの低減や環境負荷の軽減への貢献に寄与することを指摘した。また、今後期待される研究として、ゴールデンライスとデカフェ・コーヒーの例を紹介した。最後に、日本における組み換え作物の消費の現状を、世界の動向と比較しながら解説し、生産も消費も原則として許されていない日本であるが、輸入原料からの植物油や醤油の消費を通じて、組み換え作物を事実上消費しているという矛盾を指摘した。神崎報告では、生態学の立場から、組み換え作物のもつリスクについて議論された。まず、遺伝子組み換え技術が、種の枠組みを超えるという従来の育種技術とは異なる革新性を有し、生命倫理にまで踏み込む技術であることを強調した。次に、組み換え作物の導入への危惧として、除草剤や農薬への耐性が低い既存農業を攪乱する可能性と、花粉などの完全な制御が困難であるため作物の遺伝子汚染が拡がる可能性の2点を指摘した。最後に、これらの問題はリスク・マネジメントで対処すべきだが、リスクの想定ができていないことが本質的な問題であり、そのために環境倫理、企業倫理に頼る部分が大きいことを指摘した。

議論
・組み換え技術を過大評価しているのではないか。メガヒット商品は、現在のところ除草剤抵抗性と害虫抵抗性作物のみである。食品安全性に関しては、組み換え作物の場合非常にチェックの基準が厳しい。組み換え作物の管理の有効性は確かに疑わしいが、多くの問題は、そもそも組み換え作物に特有の問題ではない。組み換え作物の場合、急に問題が大きくなる。
・遺伝子漏出の問題は重要である。特に樹木等の場合は、食品とは異なり人間への直接的な影響は低いものの、生態系の中での影響は大きい。また、別の問題として、モンサントなどの多国籍企業による技術の独占的な開発・使用という問題も含めて、このような新技術が途上国の貧困層の生活改善にどれくらい寄与するのか疑問である。
・予想できないリスクには、対処することができない。森林は田畑より管理が難しいので、遺伝子漏出のリスクはより高い。しかし、これらの問題は、基本的にはこれまでの帰化植物の問題とほとんど変わらない。途上国開発の問題に関しては、ハワイでのパパイヤ開発の例にみられるように、多国籍企業を介さない開発もある。しかしこの種の実用的普及が例えばタイで進まない背景には、日本が遺伝子組換え作物を購入しないということがある。このように、先進国のエゴによって、途上国への技術移転の道が塞がれるということもあるのではないか。
・日本の組み換え作物に対する態度が建前と実際の消費とで全く一貫していないことに関して、市場の倫理はどうなっているのか。農水省はもっとこの実態を説明するべきではないのか。

(文責 生方史数)

 

「生存の意味:現代社会におけるその変容をどう理解するか」 [ 第8回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2008年5月19日(月) 17:00~19:00
場 所:京都大学東南アジア研究所 東棟2階会議室

テーマ:生存の意味:現代社会におけるその変容をどう理解するか

【研究会の趣旨】
 現代の医療技術の発展が一つの契機となって、労働力・生産力の増大=社会の発展という従来の図式の見直しが求められつつある。生存が確保されればよいのではなく、その意味が問われていると言ってもよい。とりわけ発展途上国を含む、世界各地で進展しつつある少子高齢化のなかで、社会の発展と個人の生の豊かさの追求とをどのように具体的に結びつけていくかが大きな課題となってきている。本パラダイム研究会では、脳科学からの発題を基礎に、現代社会における個人と社会の生の豊かさをめぐる新たなパラダイムの形成を議論したい。

報告者: 松林公蔵 「脳科学から見た高齢化社会 -生存の意味をめぐるパラダイム転換」

【報告要旨】
 人間の生存レベルには、「生命維持」、「生活」、「社会・文化」、「幸福感」など、いくつかの階層性が考えられるが、その主要な担い手は脳である。3層の脳構造のうち、最も基本的な生命維持を担うのは延髄・橋・中脳などの脳幹部といわれるところで、呼吸、循環、代謝、睡眠などを司る。この脳幹部の機能は、宇宙のリズムと深く同期し調和的である。脳幹部の上層には、大脳辺縁系という構造があり、主として、食欲、性欲、非言語的記憶、情動と関連し、人類の欲望のプロモーターであり、無意識の「こころ」の領域を担っている。人間で高度に発達した最外層の大脳皮質は、大脳辺縁系の要請に応じて、行動を企画し、結果を予想し、遂行する。人類のみにみられる高度な文化と文明構築の最大の寄与者は、もちろん大脳皮質ではあるが、その要請は大脳辺縁系から発せられる。19世紀以前、人類の大脳辺縁系が要請し大脳皮質が実行してきた自然界に対する働きかけは、地球環境の余裕もあって成功したが、前世紀後半ころからさまざまな破綻がみえ始めてきた。人類進化が予想もしていなかった著しい高齢化と人口の増加、それに伴う地球環境の限界である。社会の超高齢化はまた、大脳皮質ならびに辺縁系の社会との調和不全であるアルツハイマー病を生み出した。その頻度は、本邦の85歳以上の高齢者の約3割をしめるようになっている。脳科学の文脈でいえば、「人の幸福」とは、文明の発展や不老不死の追求ではなく、脳と脳が作り出した社会の調和にあるともいえる。どんなに先端医療技術が進歩しても、ヒトが120歳を超えて生存できる可能性は少ないだろう。本講演では、「生存の意味」を実感できる社会について、主として脳科学の立場から考えてみたい。

討論者: 落合恵美子(京都大学文学部) 「アジアの少子高齢化と家族」(仮)
           杉原 薫 「生存の経済的基盤と人間的基盤」






 

【活動の記録】
 ゲノム医学が完全に解きあかされ、オーダーメード医療にもとづく再生医療が多くの交換可能な臓器をつくりだすことに成功しても、「脳を交換する」ことに人類が同意するとは思えない。その場合、人間が120歳を超えて生存し続けることは、おそらく困難であろう。人間の脳はこれまで、生命維持機能を担う脳幹部、限りなき欲望の根源となる大脳辺縁系、そして大脳辺縁系の要請を実行してときに制御する大脳皮質との3者の調和のもとに社会を構築し、「生存の意味」をみいだしてきた。「感謝」、「犠牲」、「捨身」、「信仰」といった人間に固有の概念は、大脳皮質が、自己の大脳辺縁系の限りなき欲望をあたかも“制御“するように措定した智慧のようにも思われる。もしも、21世紀の人類の叡智が、生物、生態系、人間の技術•文化の調和の重要性を真に自覚して、「生存基盤の維持」、「生存の素晴らしさ」、「生存の意味」を調和的に実感できる社会をめざすことを決意すれば、パラダイム転換となるかもしれない。

議論

落合先生のコメント

  • アルツハイマー病が激増し、高齢者に多く発症したのはなぜか。高齢者に対する社会的な認識が変化したことが、症例を増やしたのではないか。
  • だとすれば、社会が高齢者をどう受け入れるのかという問いが、重要になってくる。
  • 出生率が低下した後、安定的に推移した期間がある。この期間は、欧米では半世紀、日本では20年ほど存在した。これが、安定した近代に対応すると考えられる。他のアジア諸国では、この期間は存在せず、安定した近代を持たない。
  • 子供や高齢者のケアを巡るネットワークをアジア諸国間で比較してみると、中国やシンガポールには、「社区」や親族の活動、家事労働者の導入などにより、厚いネットワークが存在するのに対して、日本はネットワークが薄い。

 

杉原先生のコメント

  • 生存とは何か?という問いに対して、人間開発、生活保障、政治的な側面から様々に定義できるが、尊厳を持って生きるという文化的な定義も重要である。
  • アジアから学ぶという方向で議論が行われたが、逆にアジア・アフリカの途上国からみると、幸福云々の話より、生存賃金の確保が重要である。両者で生存の意味に関するギャップが大きくなっているのではないか?

 

その他

  • 生命維持の根幹にかかわる「脳幹」、情動を司る「辺縁系」、文化と文明の構築を可能にした「大脳皮質」の3層構造とその調和が人間の生存に必須である。このことは本プログラムの扱うgeosphere, biosphere, humanosphere(狭義)の3層構造と、その調和が生存基盤の持続的発展にとって重要であるということと相通じる。
  • 近代以前、近代の安定期、そしてグローバル化による安定の崩壊という3つのステージを考えたとき、3番目のステージにおいて生存の意味がどのように構想できるのか、新たな立場を考えることができれば、面白いのではないか。

 

(文責 生方史数 和田泰三)

 

「生存基盤持続型発展を目指した研究 活動報告」 [ 第7回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日 時:2008年4月21日(月) 16:00~18:00
場 所:京都大学東南アジア研究所東棟2階セミナー室(E207)

発表者:
1. 杉原薫(拠点リーダー、東南アジア研究所)
「生存圏研究におけるズームイン・ズームアウト」

2. 河野泰之(東南アジア研究所)
「熱帯の自然とは、その潜在力を生かす技術とは」

3. 石川登(東南アジア研究所)
「時空間のなかのバイオマス資源社会」

4. 田辺明生(人文科学研究所)
「持続型生存基盤と地域の潜在力」

司会:篠原真毅(生存圏研究所)

【発表趣旨】
第7回パラダイム研究会は、各イニシアティブのこれまでの研究活動を報告し、イニシアティブ全体で討論することを趣旨として開催された。「生存圏研究におけるズームイン・ズームアウト」では、Geosphere/Biosphere/Humanosphereの定義、研究アプローチ、それぞれの研究課題を概観したのち、自然資源の持つ潜在力に調和しつつ生産性も高めてゆくような径路、すなわちHumanosphere-sustainable pathの必要性を論じた。「熱帯の自然とは、その潜在力を生かす技術とは」では、Demand-basedの温帯型でもなく、Environment-inspiredな熱帯型でもない、新たなNature-inspiredな技術と制度の発達が必要であることが議論された。「地域生存基盤の再生研究」では、インドネシアに具体的な研究の場を設定し、他のイニシアティブと有機的連関を推進しつつ、地域社会に支えられた「持続的森林圏」の創生を考えることについて議論された。「持続型生存基盤と地域の潜在力」では、「生の形式」を高めるために、自然の理解を、従来のような「自然」(the nature)から、私たちの生きる環境のなかの主体としての<自然>(natures)へとパラダイムシフトする必要のあることが論じられた。

 




 

【活動の記録】

「生存圏研究におけるズームイン・ズームアウト」
杉原薫(拠点リーダー、東南アジア研究所

1. 歴史から見た3つの圏域(Geosphere /Biosphere /Humanosphere) とその定義

  • 地球の歴史を圏域(Sphere)発達の歴史としてとらえると、(1)Geosphere (2)Biosphere(3)Humanosphereの3つに大きく分けることができる。3つの圏域にはそれぞれ固有の論理が存在しており、また、相互作用しながら存在している。今後は、これら3つの圏域の関係性について、研究を進めてゆくべきである。
  • 46億年前、地球誕生とともにはじまったGeosphereの歴史はlithosphere(岩圏、地殻)、pedosphere(土壌圏)、atmosphere(気圏)、hydrosphere(水圏)の4つから構成されており、これらの生成によって生命が誕生する条件が整った(John McNeill, Something new under the sun)。40億年前、生命誕生からはじまったBiosphereはBiota(生物相)と同義のものととらえることができるが、高等動物にいたる生物の進化の歴史でもある。20万年前の人類誕生以降発達してきたHumanosphereについては英語と日本語の間に混乱が認められるが、(1)広義のHumanosphereとして「生存圏」、(2)狭義のHumanosphereとして「人間圏」という訳を提案したい。生存圏と生存基盤の関係性については、今後の課題としたい。

2. 3つの圏域(sphere)と研究アプローチ
 

近代の社会科学は自然を、Geosphereの論理で理解し、Biosphere の論理を考えないことがおおい。たとえば経済学において土地に集約してものごとを考えたり、エネルギーを石炭や石油に還元して考えたり、人間も再生産の部分は考えずに、生産の局面における労働力としてとらえて考えることなどである。しかし、GeosphereはHumanosphereとBiosphere からのインパクトできまるといえる。Operationalに(研究戦略上)3つに圏域をわけて、下記のような関係性について考えることが必要である。

  • 3つの圏域に分けたうえで、これまでの研究アプローチを整理すると、
    (1)Natural Science Perspective(GeosphereとBiosphereとの関係性に着目)
    (2)Social Science Perspective(Geosphereと狭義のHumanosphereの関係性に着目)
    (3)Bio-Moral Perspective(Biosphereと狭義のHumanosphereの関係性に着目)
    となる。これらを統合したHumansphic perspective とはどのようなものであるべきかについても議論が進められてゆくべきである。

3. 3つの圏域(sphere)における最重要課題とは?
 

(1) Geosphere: Ecological destabilization
     Geosphereの変化に対する人類の対応はどうあるべきか。
     E.g.エルニーニョ
(2) Biosphere: Loss of the bio-diversity
     人間圏からの介入による生物多様性の低下にどう対応するべきか。
     (Biosphereも権利をもっているという思想がある)
(3)Humanosphere: Shortage of clean energy
     人口増加のもとでBiosphere,Geosphereへの影響を抑えつつ、エネルギーをどのよう に確保するか。
 

4. Humanosphere-sustainable pathとは?

  • 国際シンポジウムにおけるイニシアティブ2の河野教授のプレゼンを踏まえ、3つの径路を資源利用と生産性を軸とした2次元の上で提示。

1. Productivity-driven path :
    選択的資源利用のもとで生産性を高めてゆく径路これまでの温帯を中心とした発展径路
2. Environmentally sustainable Path:
    自然資源のもつ潜在力に調和することを第1義とし、生産性向上に重点を置かない径路。環境決定論的
3. Humanosphere-sustainable path:
    自然資源の持つ潜在力に調和しつつ、生産性も高めてゆくような径路

(文責 佐藤孝宏 和田泰三)
 

 

「熱帯の自然とは、その潜在力を生かす技術とは」
河野泰之(東南アジア研究所)

イニシアチブ1が時間軸を追うとしたら,2では空間的な分布を俯瞰したい.なかでも東南アジアをはじめとした熱帯の自然は他の地域とはどのような違いがあり,その潜在力を生かすための技術を議論していきたい.
 

 例えば農業を例にとるとdemand-basedでは生産・市場・流通を基にするので,生産の安定性とか価格を重視される.その結果として環境を人為的に作り出す環境形成技術,すなわち標準化された技術体系の整備が進められた.これらは温帯型,市場依存型の農業と呼ぶことが出来るだろう.一方,熱帯に適した農業として今後構築していくべきなのはenvironment-inspiredされた環境に適応した技術ではないか.例えば安定的ではない農業生産物を,効率的に配給するシステムなどがそれに該当する.すなわち熱帯型,自給型の農業である.この前の研究会では理系の方々から,地域研究の研究者の主張が地産地消にしか聞こえないという話が出たが,技術の裏づけおよび発達があれば新しい農業体系を構築することが出来るだろう.過去にも緑の革命が起こったときには在来農業から,収量が高いが水資源と肥料が必須の品種へとの転換が行われたという経緯がある.
 

 他の分野にも目を向けると,例えば東アフリカの牧畜だと過去に在来牧畜から土地所有・囲い込み牧畜へと変わって行った時期があったが悉く失敗した.この地域の牧畜は自然の変動が激しいため,広域かつ長期間の変動を活かす方向でないと駄目である.その他にも東南アジアの造林の場合は,天然林の伐採・更新から単一樹種の大規模造林へと変化したが,広い方向性の幅を持った変化ではないといえる.以上のような視点から我々の技術がどこに向かっているのかを評価したい.
 

 研究を進めるにあたって,まずは自然科学の視点から熱帯の自然に関して評価したい.例えばケッペンの気候区分は1923年発案され,その後改良を重ねた.植生分布を気温と降水量から経験的に説明しているが,とりわけデータの少ないアジア・アフリカ地域では不的確である.一方Budykoは1963年に世界の熱収支図を発表し,また蒸発散時の潜熱を介することで熱収支と水収支を同時に表現することで,地球物理から見て意味のある状態量を用いて潜在植生の分布を議論した.このような世界の自然・植生を分類する手法は,単純であり大雑把ではあるが,熱帯という地域を他の地域と比較する際には重要である.
 

 また東アフリカの牧畜では,外的条件が静的平衡しているとして計画を立てたところ失敗した.自然の経年変動が予想以上に大きかったことから,単純な計画では通用しなかったといえる.大きな変動に対して時間に回復を待つ,また空間的に移動して対応するなど,動的な平衡を理解する必要がある.
 

 すなわち空間を限定するのでなく,広域をつなぐ方向へ.時間は単年度・季節から,長期平衡・循環へ.発展メカニ ズムは技術・制度の分離から融合へ.発展の推進力人口増加・市場経済から水・熱資源の効率的な利用・生活活性へ.というのが今後議論する方向性であると考える.

(文責  甲山治)

 


「時空間の中のバイオマス資源社会」
石川登(東南アジア研究所)

 

 第3イニシアティブでは、生存圏研究所と東南アジア研究所のこれまでの研究の蓄積を踏まえ、「持続的森林圏」をキーワードとして同じフィールドで共同研究を進め、実践的な分離融合を行うべく活動している。
 

 近年、森林破壊の著しいインドネシアにおいて、産業植林は森林再生や関連産業の発展のために重要な役割を持っているといわれる。しかし、これらの拡大に伴い、近隣住民との紛争を引き起こしたり、逆に森林破壊を助長したりすることもあり、地域社会との共存と持続的な森林管理を両立するような「持続的森林圏」の構築が望まれてきている。
 

 これまでの研究会では、産業植林に関連する自然科学・社会科学の様々なテーマ、例えば植林地の土壌養分・炭素循環、泥炭湿地の生態系機能、プランテーション化と小農のコンフリクト、GISを用いた時空間データベースシステム等に関して発表が行われた。また、2008年3月に行われた国際シンポジウムでは、Forest metabolism: Changing Nature of Biomass in Humanosphereというタイトルで、過去400年間のヒトと森林被覆の関係、サラワクのある「バイオマス資源社会」における140年の変遷、Biosphere reserveの重要性、アカシアマンギウム植林による炭素固定・持続的森林管理への可能性と課題について発表が行われた。
 

 具体的に1つの場所を設定し、共同研究を行っていく本イニシアティブは、他のイニシアティブのアプローチを包括的に検証する場としての意義を持っている。例えば、Humanosphereとbiosphereのインターフェースとして産業林を捉えることによって、バイオマス資源社会における技術・自然像――自然物と人工物との間の曖昧な境界線がどう創られていくのか――を考察することができる。また、森林生活圏の変容に伴う在来知の変容、科学技術と在来知との関係を分析することもできる。このような具体的な検証作業によって、他のイニシアティブとの有機的連関を推進し、分析単位や思考枠組みの再組み立てへとフィードバックしていくことができる。
 

(文責  生方史数)

 

 

「持続型生存基盤と地域の潜在力」
田辺明生(人文科学研究所)

 

 イニシアティブ4で考える生存基盤とは、人間が生きる社会・生態的環境のことであり、「生の形式」の質を高めていくことが、目指されるべき目的である。
 

 そのためには、自然と社会の関係を捉え直す必要があると考える。これまでの近代科学観においては、自然は所与のもの、社会とは切り離された別のものとして、操作介入する客体として扱われてきた。しかし、現代の科学技術の発展により身体や環境に対する介入可能性の拡大を見ても、この自然と社会とを分断されたものとして捉えるような理解枠組みのままに論じていくことは難しい。自然を資源とみなし一方的に搾取するような大量消費社会は今後存続し得ないだろうし、生存基盤を持続させる新たな技術を、人間全体の生の質を向上させる新たな制度と実践に結びつけていくための枠組みが必要となってくるのである。
 

 それゆえむしろ自然は、我々人間を含んだ全体的な生命の営みのなかで、人間との相互作用しながらつくりあげられていくものとして捉えられるべきである。本発表ではこれを、従来のような所与のものであり認識され利用される客体としての「自然」(the nature)から、私たちの生きるローカルかつグローバルな環境のなかの主体としての<自然>(natures)へ、という自然理解のパラダイムシフトとして論じた。こうした考え方は、自然と社会を含みこんだひとつのまとまり、ネットワークに対する総合科学を要請する。それは従来のような近代/伝統、グローバル/ローカル、客観科学/固有の世界観の二者択一を避け、近代知と在来知とを共に基盤としながら、両者を架橋し、自然が有する潜在的な可能性を生かす、まさに生存基盤持続型の総合科学である。アジア・アフリカ地域にはそういった持続型生存基盤のための潜在力がある。この地域の地域に根ざした固有の生態・制度・技術・価値・実践(主体性)に注目して地域研究を進めることで、「人―社会―生態」のネットワークのあり方を具体的な場において理解していくことが今後の研究で求められる。
 

(文責  加瀬澤雅人  木村周平)

「アフリカの生存基盤を考える-環境・国家・村」 [ 第6回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日 時:2008年2月18日(月) 16:00~18:00
場 所:京都大学宇治キャンパス・総合研究実験棟 5F 生存研セミナー室1(HW525)
http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/access.html

「アフリカの生存基盤を考える-環境・国家・村」

発表者:島田周平(大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 アフリカ地域専攻)

タイトル:「アフリカ農村社会の脆弱性(Vulnerability)とレジリエンス(Resilience)」



【活動の記録】
 生態システムのレジリエンスと社会システムのレジリエンスには大きな違いがある1 。生態システムの変化は、ある均衡点を中心として回帰可能な閾値内で起きている限りレジリエンス(回復力・弾性力)を示す。しかしシステムの変化がその閾値を越えると、システムは別の均衡点を持つ相に転移する。生態学者は生態システムのレジリエンスを考えるときに、回帰可能な均衡点を措定することが多い。それに対し社会システムは変化を前提としているので、回帰すべき均衡点をもつものとは措定されない。そればかりか、レジリエンスを規定する閾値も社会システムの変化に合わせ変動するものと考えられる。したがって、生態システムでは、システムの均衡点を指標として変化を科学的に管理できるとする考え方が出てくるのに対し、社会システムではそのような管理を想定することはできず、不確定要素が重視される。

 また、社会システムと生態システムの相互関係性は非対称である。一方のシステムの変化が他方の変化に与える影響を見た場合それは明らかである。たとえば、生態システムの変化に対し、社会システムは適応力、学習力、自立的組織再編能力などで対応する。これに対し、社会システムの変化に対する生態システムの変化は、自然的プロセスとして展開し、それは多くの場合均衡点への回帰であるが、閾値を越えて位相の転移を遂げる場合もある。すなわち、生態システムと社会システムの間のレジリエンスのあり方のプロセスや時間スケールは、両者の間で非対称的であるといえる。

 アフリカの農村の場合、生態システムが脆弱化していると同時に、社会システムも閾値を越えた変化(発展)の径路を取っている地域があるのではなかろうか。森林のサバンナ化や、サバンナの砂漠化、白人の入植や換金作物生産による土地利用の荒廃は生態システムの脆弱化を示し、植民地支配や欧米諸国に対する経済的従属性、開発援助や構造調整計画(1980年代以降)、政治的民主化の要求(1990年代以降)は、社会システムの脆弱化を示す場合がある。これらの脆弱性が一地域において重層化してみられる場合がある。しかし、人口増加が森林を破壊するのではなく、人為的な森林利用がむしろ森林を形成していることを示した例もあり(Fairhead, J., and Leach, M. 1996. “Misreading the African landscape: Society and ecology in a forest-savannna mosaic”, Cambridge University Press.)、生態的脆弱性の認識は簡単ではない。

 アフリカの農村社会を考える場合、社会システムが脆弱性を示すとはどのようなことを指すのであろうか。またそのような脆弱性を防御し、またそこから回復するレジリエンスのプロセスやメカニズムにはどのようなものなのであろうか。

 ここでは脆弱性はリスクに晒される危険性とリスクに対する対処能力の欠如がもたらすものと考える。したがって、農民や農村社会の脆弱性増大は、農民や農村社会全体が資源へのアクセスに関して、リスクに晒さらされる危険性を増大させ、起きたリスクに対して対処能力を欠如させていることにより起こるといえる。ここでいうリスクには生態システムからのリスク(自然的リスク)もあれば、社会システム内で起きるリスクもある。それらを模式的に示したのが下図である。

 

自然的リスク

社会的リスク

リスクに晒さらされる危険性

旱魃、多雨、暴風雨、地力低下、疫病、虫害、病気、死亡などに対する無防備

政治的疎外、経済的周辺化

リスクに対する対処能力の欠如

在来技術や在来知の無効化、制度(伝統、新導入)の機能不全、近代技術や援助の不適合

諸制度の機能不全、政治的疎外

 アフリカにおける脆弱性研究は、1. 不確実性(uncertainty, risk)社会の認識、2. 生計戦略(livelihood strategy)研究の成果、3. 地域研究の成果、の3つにより発展してきた。

1. 不確実性(uncertainty, risk)社会の認識
 アフリカ大陸の乾燥サバナ地帯に属するザンビアは、降水量の変動が大きい。トウモロコシ生産量の変動が、降水量の変動に対応して大きく上下することが良くある。また、補助金の突然の廃止といった社会的不確実性もトウモロコシ生産の激減につながった事例が見られる。このようなアフリカ社会における不確実性の大きさを理解した上で、農業生産や生業活動を総合的に理解する必要性が認識されてきた。

2. 生計戦略(livelihood strategy)研究の成果
 不確実性の理解が進むと、それに対応した生計戦略の研究も盛んになってきた。たとえばザンビアの農村では、不確実な降水量に対応した生業戦略が見られる。農村にありながら農業以外の仕事をいくるもこなす多生業が一般的であり、また降水量の少ない年には出稼ぎに積極に出かけるなど、農村部にとどまらない活動を見せることが明らかになってきた。こうして、危険分散と関係があると思われる多様な生計戦略に関する研究が進んできた。

3. 地域研究の成果
 地域研究の成果も脆弱性研究に貢献してきた。あるザンビアの村の森林破壊の原因は、生態的な要因ではなく、政治的変化に由来するものであった。専門分野に特化した視点では決して見えない要因の発見は、地域研究の重要な成果である。

 以上のように、脆弱性に関する研究が進展してきた結果、アフリカの農村社会における脆弱性増大を緩和するためのさまざまな伝統的方法が見えてきた。異常気象や政治経済変動に対して脆弱性が増大するとき、在来の知識や技術、組織、制度を駆使して対処してきたことが明らかになっている。

 そしてそれらの制度や組織、さらには知識や技術の動員や利用にあたって、ブリコラージュ性や、平準化志向、共同性、互恵性、休みなき交渉・請求などが発揮されることが明らかになってきた。これらは脆弱性の増大対策に有効であると考えられるが、一方で、技術の蓄積が困難で資源へのアクセスが保障されず社会関係資本の蓄積ともならない、さらにネポティズムの危険性やジェンダー問題の等閑視をもたらすといった批判がなされている。

 資源管理のオーナーシップについて言えば、脆弱性研究は、既存の政治組織や権力構造の活用の可能性に一石を投じ、新しい概念による民主化の推進や地方分権化、国際的NGOを含む援助の再考を促している。

 脆弱性研究によって見えてきたブリコラージュ性や平準化志向、請求などの行為が、可塑性、適応性、ゆるやかな規範、交渉の重視によって特徴付けられ、その評価は定性的なものであるべきなのに対し、新しい概念の導入による民主化や開発は、明確な目的をもち、明文化された規範を持ち効率性を重視するものが主体で、そこでは定量的評価が一般化している。いずれかが良い・悪いと判断するのではなく、必要に応じて両者を組み合わせることが必要である。持続的生存基盤の研究を進めるために、脆弱性の十分な研究蓄積が重要である。

 以上の報告に対しフロアとの質疑応答で議論された主な点は次のよう。

  • 不安定な生態システムに対応した「アフリカ的近代化」システムが存在するのか。
  • 雨を最大限利用する場合、降水量の年変動の中で、毎年安定的に確保できる降水量のみを利用するだけでなく、確保できるかどうかは年による不安定な降水量も利用することになる。自然資源を十全に利用するような生態・社会システムがありうるのでは。
  • 技術が変える制度だけでなく、制度が技術を変えることもある。
  • ザンビアの農民は「伝統」と「近代」の両方を取り込んでいるのか。
  • 社会システムと生態システムで変化の速度は同じではない。急速に変化する生態システムに社会システムは対応可能か。また、特にグローバル社会の中でローカルな変化の速度は大きく、2000年前後の変化はきわめて激しい。グローバルとローカルをいかに対応させるのか。
  • 脆弱性の中身を生存圏科学から考えるべき。特に理系のほうから、生態システムの向かう方向を示し、社会システムの変化のシナリオを構想するときに使えるようにすることが必要。
  • 生態システムの変化が社会システムの変化の対応として語られるが、両者をつなぐ技術の形成・発達についても議論されるべき。

(文責 柳澤雅之)


1 生態システムと社会システムは、「生態‐社会システム」という統合的なシステムとして理解されるべきであり別々のシステムが存在すると理解すべきではないが、両者を分けて考えることも分析には有効な側面もある。

参考文献
Berkes, F., Colding, J. and Folke, C. eds. 2003. “Navigating social-ecological systems: Building resilience for complexity and chnage”, Cambridge University Press.
Osbahr, H., Boyd, E. and Martin, J. 2007. “Resilience, realities, and research in African environment (Report of Workshop 18 June 2007, Univ. of Oxford), Oxford.

PDF>>

 

 

「グローカルなエネルギー問題」 [ 第5回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日 時:2008年1月21日(月) 16:00~18:00
場 所:京都大学東南アジア研究所東棟2階会議室

発表者:1. 松本 紘 (京都大学副学長・理事)
             「グローカルなエネルギー問題- 持続的生存基盤の拡大に向けて -」

         2. 松岡 巌 (運輸政策研究機構国際問題研究所・調査役)
             「エネルギー・地球温暖化問題の現状」  

                                                                                    (研究会終了後、懇親会を予定)

【趣旨】
 生存基盤確保のためには、エネルギーを長期的にどのように確保していくのかはきわめて重要な課題である。それは、国際的な資源分配メカニズムや技術革新、地球環境への影響など、地球全体にかかわる問題であると同時に、価格の変動による消費生活への影響や健康被害など、ローカルな人々の暮らしに直結した課題でもある。とくに、エネルギー需給における中長期的なシナリオを描く際に、ローカルなバリエーションや短期的な変動を十分考慮し、個別の課題から積み上げていく作業が必要である。本プロジェクトが主として対象とする熱帯のアジア、アフリカ地域については、この点の認識はなお不十分なように思われる。今回の研究会では、グローバルvsローカル、あるいは、中長期的展望vs短期的展望といった二元論ではない将来展望のシナリオ作りのためにどのようなことを議論すればよいのかについて考える。

 




 

【活動の記録】
1. 「エネルギー・地球温暖化問題の現状」 松岡 巌
 地球温暖化問題は、もはや環境政策ではなく、通常の外交マターであり、ビジネスでもある。また、政府の意向は直接的には反映されない問題でもある。それは、途上国での国内政策に大きく影響され、今後排出が増えるであろう部分に十分な国際的支援を期待できないため、現在の国際的枠組みでは対応できない部分がある。

 地球温暖化問題は、オゾンホール(フロン規制)の問題と比べると、問題の困難さが理解しやすい。オゾンホールの問題は、問題が顕在化しており、原因として考えられる冷媒やガス利用の規制など、科学的見地にたった対策が可能であったが、温暖化問題は、将来の課題であり、現在のほとんどすべての人間の活動にかかわっているため、科学的問題であると同時に政治的問題である。地球温暖化問題は、原因の発生源の近くで問題が起こるわけではないため、排出権取引やCDM(Clean Development Mechanism)のような手法を世界レベルで導入することが可能となる反面、どこかの国・地域が排出を続ければ世界全体に影響を及ぼすことになる。この対策として、柔軟性措置(経済性措置)と呼ばれる京都議定書(1997年)が採択される。その特徴は数値目標があること(第1約束期間:2008~12年、附属書Ⅰ国は平均5%削減)、経済性手法(排出権取引やCDMなど)が導入された点である。

 

 交通分野におけるCDMについて見る。自動車による環境への影響はCO2のみではなく、NOxやSOxも問題になる。温暖化ガスの排出量を技術的に減少させることは、おそらく先進国では可能だが、途上国への技術の普及が問題となる。というのは、そうした技術のほとんどは政府ではなく企業が有し、無償で途上国(もしくは途上国のライバル企業)に提供することは現実的ではない。また、交通分野には、安全性の確保や渋滞の改善など、関連する課題も多い。単に温暖化ガス排出量を削減すればよいのではなく、総合的な判断が求められる。それらの総合政策として交通CDMを捉えると、先進国の経験を途上国にいかすことができるし、政策支援のための国際的なメカニズムも必要である。

 

2. 「グローカルなエネルギー問題- 持続的生存基盤の拡大に向けて -」 松本 紘
 人口増加や経済成長によって食糧需要やエネルギー・資源消費量の増大がさまざまに予測されている。50年先の将来を考えた場合、先進国の人口が現在のまま停滞し、必要なエネルギー・資源量が変化しないと仮定しても、途上国の人口が現在の50億人から90億人、エネルギー・資源量が3倍になったとすれば、現在の消費生活資源エネルギーが150億生活トンであるのに対し、50年後は370億トンにまで増大する計算になる。このエネルギーと資源を、環境問題に対応しながらどのように賄うのかが重要な課題である。逆に、途上国の人口増加のスピードが現在のままで生活レベルに変化がないとしても、先進国の生活は4割ほど縮小する必要がある。

 

 ところで、将来の主なエネルギー資源・鉱物資源の残余年数には限りがある。いくつかの貴金属は、未知の埋蔵物を発見するか再利用しない限り、今世紀中に枯渇する。石油の枯渇についてもさまざまな予測があるが、40~50年分の残余があると考えるのが妥当だろう。そうしたことを考慮した人口・エネルギー・資源の複合的な将来予測では、成長の限界は、最悪の場合2020年頃にやってくる。将来の人類の生存基盤を確保するためには、再生可能エネルギーの供給増、環境問題に配慮した食糧供給の増加、資源の再利用が必須となるであろう。

 

 とくに、グローカルな持続的生存基盤拡大の手法をエネルギーで考える場合、環境負荷が小さい、太陽光発電・風力発電、バイオエタノール、燃料電池といった新エネルギーの開発が重要である。太陽光発電・風力発電は、エネルギーソースが無限にあり、CO2発生は基本的に初期投資時のみであるというメリットがある一方、エネルギーソースが偏在し不安定であること、発電コストがかかるというデメリットがある。バイオエタノールは再生産可能なエネルギーソースであり燃焼させても地表の循環炭素量を増やさない(循環するだけ)というメリットがあるが、仮に地球上の全耕地面積でエタノール原料を栽培しエタノールを生産しても、現在消費されているガソリンに代替することができない。新エネルギーのこうした特徴と、現在の用途別の石油消費量とを考えると、石油にかわるエネルギーとして現状で考えられるシナリオは、輸送エネルギーをバイオエタノールに、発電用エネルギー(変動分)を太陽光発電・風力発電に、発電用エネルギー(ベース分)を原子力および宇宙太陽光発電に代替するというものである。

 

                                                

(文責 柳澤雅之)

 

「農業発展径路の地域間比較に向けて」 [ 第4回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

日 時:2007年12月17日(月) 16:00~18:00
場 所:京都大学東南アジア研究所東棟2階会議室

「農業発展径路の地域間比較に向けて」

発表者:田中耕司(京都大学地域研究統合情報センター教授)
         「フロンティア社会と農業集約化-アジアの農業発展径路-」

 農業発展径路に焦点をあてます。農耕の開始により人類は、人口支持力の増大、さまざまな技術の発達、定着型社会の展開、社会階層の分化、都市・国家の形成等を成し遂げてきました。農耕はまた地球環境に影響をおよぼし、地球環境の変化がさらに農耕に影響をおよぼすという循環を繰り返し、そのことが技術や制度にも少なからぬ影響をおよぼしたと考えられます。ある特定地域の農業発展径路を他地域との比較の視点を持ちながら理解することは、人類が生存圏を歴史的にいかに利用してきたかを理解することにつながり、今後の新しいパラダイムを構想するにあたって重要なトピックになります。みなさまの積極的なご参加をお待ちしております。


■プログラム
4:00~4:45 田中耕司(地域研究統合情報センター)
  「フロンティア社会と農業集約化-アジアの農業発展径路-」
4:45~5:00 コメント
5:00~5:10 休 憩
5:10~6:00 総合討論
 
(終了後、懇親会を予定)

【趣旨】
 農耕の開始により人類は、人口支持力の増大、さまざまな技術の発達、定着型社会の展開、社会階層の分化、都市・国家の形成等を成し遂げてきた。農耕はまた地球環境に影響をおよぼし、地球環境の変化がさらに農耕に影響をおよぼすという循環を繰り返し、そのことが技術や制度にも少なからぬ影響をおよぼしたと考えられる。ある特定地域の農業発展径路を他地域との比較の視点を持ちながら理解することは、人類が生存圏を歴史的にいかに利用してきたかを理解することにつながり、今後の新しいパラダイムを構想するにあたって重要なトピックになる。アジアの農業発展径路を、フロンティア社会と農業集約化をキーワードとして考える。

 


 

【活動の記録】
 東アジア(温帯)と東南アジア(熱帯)における農業は異なる径路を辿って現在に至っている。小農的経営が農業の中心である東アジアでは、早くに土地利用と労働利用の集約化が進んだ。これに対し、東南アジアでは、東アジアと同様に小農経営による農業が近年に至って集約化への道を歩んでいるものの、一方でプランテーション農業と、それと同じ作物を商品作物として栽培する小農経営の加わっているところが異なっている。

 発表者はかつて、アメリカ合衆国のフロンティア論をモデルに、東南アジア社会をフロンティア社会として位置づけ、その特徴を考察したことがある。利に敏く投機的な東南アジアの人々は常にフロンティアを追い求めてきた。東南アジアのフロンティアは、時代とともに移り変わる「多方向」・「永続的」なフロンティアであり、フロンティアを追い求めることは、それぞれの時代に最も利益の大きい生業形態を追求することでもあった。しかし、常にフロンティアを追い求める資源獲得型の東南アジアの径路モデルが、資源・環境的限界が顕在化してきた現在、もはや通用しなくなることが予想される。以上の理解から、どのような持続的発展のパラダイムを考えることができるだろうか。

 まずひとつは、東・東南アジアが、このところ喧伝されている「東アジア共同体」としての方向を模索するのなら、その「共有財」として農業を定位することができないかという点である。農業分野での競争はもちろんあって良いが、自然に依存する度合いが高い農業は、経済的な競争だけに委ねられない側面をもっている。農業がまっとうに行われているのが大切だという域内の共通認識のもとに、「地域の共有財としての農業」というパラダイムを立てることも可能ではないか。各国の農業を最適規模で維持していこうという意識が共有知であり、その生産基盤を共有財として維持しようとするのが、東・東南アジア共同体の持続的発展パラダイムの骨格となろう。

 また、前回11月のパラダイム研究会で杉原薫教授から提示のあった「物産複合」と「生命体複合」を敷衍することが可能である。東アジア農業は作物としての組み合わせ(「複合」)が精緻で、生命体としての複合の度合いが高い。一方、状況に応じて可変的な東南アジア農業は、物産としての「複合」ネットワークを有している。東南アジアの農業を、何世紀にもわたって存在した物産複合を可能にした生態的均衡系、すなわち「生命体複合」として捉えることもできる。

【主な質問】
・生命体複合を物質エネルギーに還元してしまってはいけない。Embedded-knowledgeを捉える必要がある。
・アメリカではフロンティア消滅後に「フロンティアスピリット」が残った。東南アジアではフロンティアがなくなったときに、そのスピリットはどこにどのように乗り移っていくのか。
・技術革新をどう位置づけるか。100年、200年先の技術革新を見込んで組み込んでいかなくてはならないのではないか。

                                                                                

(文責 星川圭介)

「経済史から見た生存基盤持続型径路の展開-環境と制度の関わり-」 [ 第3回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

「経済史から見た生存基盤持続型径路の展開-環境と制度の関わり-」

日 時:2007年11月19日(月) 16:00~18:00
場 所:京都大学宇治キャンパス・総合研究実験棟 5F 生存研セミナー室1(HW525)

■プログラム  
4:00 4:30 杉原薫(東南アジア研究所) 
「資本主義の論理と環境の持続性-欧米、東アジア、熱帯の比較史から-」
4:30 5:00 脇村孝平(大阪市立大学大学院経済学研究科)
「19世紀南アジア災害論-飢饉・マラリア・コレラ」
5:00 5:10 休 憩
5:10 6:00 コメント・総合討論

 

発表者:1. 杉原薫(京大東南アジア研究所教授)
             『資本主義の論理と環境の持続性-欧米、東アジア、熱帯の比較史から』

         2. 脇村孝平(大阪市立大経済学研究科教授)
             『19世紀南アジア災害論-飢饉・マラリア・コレラ』  

【趣旨】
社会経済史からみた生存基盤持続型発展径路の展開について取り上げる。開発の中で環境がどのような変化を受け、それが地域の社会経済にどのような影響を与えたのかを歴史的に明らかにし、生存基盤持続型発展径路の今後の展開について考える。

 

【活動の記録】
1. 『資本主義の論理と環境の持続性-欧米、東アジア、熱帯の比較史から』 杉原薫

 人口増加と経済発展を成し遂げてきた歴史のなかで、地域の生存基盤はどのように確保されてきたか?そしてそこで生まれた知恵は、今後どのように生かせるか?本発表では、アジア経済史、グローバルヒストリーの研究を踏まえながら、上記のような問いを設定することでこれを持続型生存基盤研究へと繋げ、生存基盤のグローバルな普遍性、多様性を理解するための提案がなされた。

 まず世界経済の発展径路をヨーロッパ型(石炭や新大陸の資源に支えられた資本集約的・資源集約的な技術の発展径路への「偏向」)と東アジア型(「勤勉革命径路」)に分け、「資源の制約」における対照的な対応が論じられた。その上で、資本主義の論理と環境の持続性の問題がどう接合されるべきかが、経済発展径路の地域性を生む文化としての「物産複合」、地域の生命体の体系として維持されるべき「生命体複合」、そして生存圏として前者2つを規定する「物質・エネルギー循環」の3つの観点から考察された。そして、熱エネルギーや生物多様性において地球環境の中心的な位置にある熱帯地域を第3の考察地域として導入することの重要性が指摘された。

2. 『19世紀南アジア災害論-飢饉・マラリア・コレラ』 脇村孝平

 19世紀の南アジアでは、飢饉や疫病といった災害が頻発したが、これは必ずしもこの時代が「貧困」と「停滞」のみによって特徴付けられていたことを意味しない。本発表では、19世紀後半から20世紀前半の英領インド連合州における食糧生産、人口動態等の統計から、この時代が「停滞」の時代というよりは、むしろ一次産品の輸出を通じて経済が活発化した時代であったこと、しかし食糧生産の変動は大きく、旱魃時に下層カーストが雇用を喪失し、飢饉の被害者となっていったこと、また、マラリアやコレラといった疫病が同時に蔓延することで、死亡率がさらに高まったことが示された。そして、一次産品輸出による成長が、限界地の耕作などによる生態的な負荷や人の移動、都市化、環境改変などによる疾病環境の悪化を通じて下層階層に不安定性を突きつけ、その結果飢饉や疫病を惹起したという仮説が論じられ、その基層としてインドの生態的条件とそれに規定される社会構造の存在が指摘された。

(文責  生方史数)

参考文献:
・杉原薫 「東アジアにおける勤勉革命径路の成立」『大阪大学経済学』54巻3号、2004年12月、336-61頁.
・Sugihara, K., "Japan, China and the Growth of the Asian, International Economy, 1850-1949", Oxford University Press, Oxford, 2005. (OUP Scholarship Online に収録) href="http://www.oxfordscholarship.com/oso/public/index.html">http://www.oxfordscholarship.com/oso/public/index.html).
・Sugihara, K., "The Second Noel Butlin Lecture: Labour-Intensive, Industrialisation in Global History", Australian Economic History Review, Vol.47, No.2, July 2007, pp.121-54.
・杉原薫 『アジア間貿易の形成と構造』 ミネルヴァ書房、1996年.
・杉原薫 『アジア太平洋経済圏の興隆』 大阪大学出版会、2003年.
・脇村孝平 『飢饉・疫病・植民地統治-開発の中の英領インド』 名古屋大学出版会、2002年.
・脇村孝平 「健康の経済史とは何か-英領インドの飢饉・疫病と植民地開発(1871-1920)」『経済史研究』第7号、2003年.
・脇村孝平 「熱帯医学とマラリア研究-20世紀前半の英領インド」『歴史学研究』第781号、2003年.
・Pomeranz, Kenneth, The Great Divergence; China, Europe, and the Making of the Modern World Economy, Princeton University Press, Princeton, 2000.
・ケネス・ポメランツ 「比較経済史の再検討―東アジア型発展径路の歴史的、概念的、政策的含意―」(杉原薫・西村雄志訳)、『社会経済史学』68巻6号、2003年3月、13-27頁.
・Lewis, W. Arthur ed., Tropical Development 1880-1913, George Allen &Unwin, London, 1970.
・Maddison, Angus, Contours of the World Economy, 1-2030 AD: Essays in MacroEconomic History, Oxford University Press, Oxford, 2007.
・エリック・ジョーンズ 『ヨーロッパの奇跡―環境・経済・地政の比較史』(安元稔・脇村孝平訳)、名古屋大学出版会、2000年.

「熱帯におけるバイオマス資源:生存基盤持続型技術開発への視点」 [ 第2回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

「熱帯におけるバイオマス資源:生存基盤持続型技術開発への視点」
日 時: 10月15日(月)午後4:00-6:00
場 所: 京都大学東南アジア研究所東棟2階会議室

【趣旨】
石油にかわる新しい資源としてのバイオマスエネルギーに焦点をあて、その技術的な可能性、技術と社会制度との接点の持ち方、石油とは異なる資源利用の新しい形態等について話題提供いただく予定です。新エネルギーへのシフトが地域社会にどのようなインパクトを持つのか、その時にどのような新しいパラダイムが必要とされるのか等についても議論できればと考えています。みなさまの積極的なご参加をお待ちしております。

 

■プログラム  
4:00 4:30 「熱帯におけるバイオマスエネルギー利用の展望」
渡辺隆司(生存圏研究所) 
4:30 5:00 「バイオマスエネルギー技術と社会制度の接点
―データベース構築からのアプローチ―」
大村善治(生存圏研究所)・佐藤孝宏(G-COE研究員)
5:00 5:10 休 憩
5:10 5:25 ディスカッサントのコメント
5:25 6:00 総合討論

 



 

【活動の記録】
 バイオマスとは、「再生可能な生物由来の有機性資源で、石油、石炭、天然ガスなど化石資源を除いたもの」と定義される。これをエネルギーの観点から 見ると、デンプン系、リグノセルロース系、オイル系に分けられる。渡辺さんは、リグノセルロースはエネルギー効率が高く、燃料生産の鍵をにぎるという持論 を展開された。
バイオマスをベースにしたバイオリファイナリーという考え方が紹介された。次世代科学産業の主役となり、エネルギー燃料だけではなく、多面的な材料(化学 品)を生産するシステムを再構築するものである。工業地帯のみが発展してきた20世紀型の石油リファイナリーに対して、21世紀型のバイオリファイナリー は、地域に投資されることで地方経済が振興し、産業構造に変化がもたらされる。
 スマトラ島やボルネオ島のプランンテーションでは、モラスやキャッサバを原料としてバイオエタノールが、オイルパームからバイオディーゼルが生産されてい る。その生産性は他国と比較すると低い。オイルパームプランンテーションが発展すると、森林破壊、生物多様性の減少、廃液による河川の汚染など様々なマイ ナス面があり、バイオマスを利用していく上で、様々な問題点が生じることも指摘された。

 大村さんは、持続型社会を築く上で問題となる事項について、基礎データを収集する研究を進めている。50年後には発展途上国の人口が倍増し、地球上 の総人口は100億人となる。必要とされるエネルギーは現在の2.5倍になり、現状維持はありえない。我々が考えていかなくてはならないことは、食糧とバ イオマスエネルギーをバランス良く生産するシステムを地球規模で確立することである。生きる人間にとっての生存基盤として、生存圏がどのような意味と価値 をもつのか、地域研究を通して理解したい。特に地域におけるエネルギーの多様性、資源の多様性や社会学的なデータベースをつくる。具体的な研究内容として は、熱帯地域におけるバイオマスエネルギーに的を絞ってデータ収集を行い、社会制度と対応しつつエネルギーを普及するシナリオを考える。最後に大村さん は、50年100年先を展望し、宇宙に眼を向けた太陽光発電受電所を赤道域(赤道域は最も利用しやすい)に設置する持論を展開した。

 佐藤さんは、インドのタミルナドゥ州において、貧困緩和を目的とした州政府によるエネルギー作物(Prosopis juliflora DC.)の導入が、農業生産を後退させた例を紹介した。エネルギー作物を導入する際には、農業生産とのバランスを十分考慮する必要がある。各地域に適した エネルギー生産技術・制度を検討するために、まず、気象データなどから地域の潜在的農業生産力を明らかにすべきではないか、と持論を述べた。

 エネルギー史におけるバイオマスについて杉原リーダーが、1.エネルギー資源としてのバイオマスの相対的重要性、2.非産油発展途上国においては、 現在でもバイオマスエネルギーが主流であること、3.インドにおけるバイオマス消費の構造を紹介した。天然林を破壊せず、人工林によるenergy plantationsをつくり、既存の技術を利用するなど、地域の実情に合わせた rural bioenergy生産の重要性を述べた。また、水野さんは、インドネシアで盛んになりつつある、ジャトロファ(Jatropha curcas)を紹介した。各コミュニティの持つ土地に植えれば、ファミリーのレベルでエネルギーを確保できる。これを集めて販売すれば、大企業人工林に 依らないエネルギー生産システムが確立できる。

(文責 海田るみ)

「持続型生存基盤パラダイムの創出に向けて」 [ 第1回研究会 ] (GCOEパラダイム研究会)

  • 印刷用ページ

活動の記録>>

日 時: 2007年9月10日(月) 午後2:30~5:00
場 所: 京大会館101大講義室
■プログラム  
2:30 2:50 パラダイム研究会趣旨説明
2:50 3:10 イニシアティブ1(環境・技術・制度の長期ダイナミクス研究)
3:10 3:30 イニシアティブ2(人と自然の共生研究)
3:30 3:50 イニシアティブ3(地域生存基盤の再生研究)
3:50 4:10 イニシアティブ4(地域の知的潜在力研究)
4:10 4:25 休憩
4:25 5:00 総合討論

■G-COE開始式典
日 時: 2007年9月10日(月)午後5:30~6:30
場 所: 京大会館101大講義室

■懇親会
日 時: 2007年9月10日(月)午後6:30~
場 所: 京大会館SR室(会費制)

なお、今回の研究会および開始式典は日本語で行います。

タイトル:「持続型生存基盤パラダイムの創出に向けて」




【活動の記録】

イニシアティブ1「環境・技術・制度の長期ダイナミクス」
 本プログラムは、新しいパラダイムの形成という目標を持っている。すなわち既存の知が抱える問題を指摘し、オルターナティブを構想し、それに基づいた先端的な研究成果を出し、構想、実証、研究成果により、公論を形成するというものである。
 今日我々を取り巻く技術や制度は、私的所有権制度に見られるように、地表・温帯中心のものの見方に偏っている。地表から生存圏へ、また温帯から熱帯へ視点 を移すことによって、アジア・アフリカ社会の歴史や文化を熱帯生存圏への対応として捉えてみる。熱帯では環境リスクの軽減を含む生存基盤(人間社会から見 た生存圏)全体の確保を目指してきたため、温帯のように生存基盤を固定することで、稀少な資源の効率的利用に関心を集中させるような発展径路にはならな かった。しかし、地球環境問題や将来の熱帯での人口増加を考えれば、熱帯の発展径路こそ重要であり、これを取り入れた「生存基盤持続型」の発展径路を考え ていく必要がある。イニシアティブ1では、具体的には自然環境、紛争管理、防災、政治経済、文化・健康の各分野における研究から「地域サステイナビリ ティー指数」を作成することを考えている。

イニシアティブ2「人と自然の共生研究」
 グローバルな自然環境問題の存在によって、人と自然の共生が、地域レベルだけでなく地球レベルでも求められている。本研究では生存圏の視点から自然環境 を捉え、従来の文理融合を生存圏研究に拡大し、地球レベルの循環の中での共生を可能にする新しいしくみについて考える。そのためには、自然環境観を人為的 な自然環境を前提としたものに変更しつつ、例えば森林とは何か?自然とは何か?といった問いを考えることが重要である。また私的所有権を前提とするのでな く、過去から未来を含む人類の共有財として自然資源利用を捉える必要がある。さらに、科学的に確実な情報だけでなく、未確定の情報を確からしさに応じて集 約し、絶えず修正しながら未来を推定するような「科学的」判断が求められる。このようなパラダイムの転換を基礎として、「変動」と「多様性」に焦点を当て つつ、地球環境問題とローカルな生活とのリンクや、自然資源の利用、災害(と共にくらす)、医療・健康を具体的なテーマとして研究を行っていく。

イニシアティブ3「地域生存基盤の再生研究」
 本研究は、生存研と東南研のこれまでの研究の蓄積を踏まえて、同じフィールドで共同研究を行う試みである。インドネシア・スマトラ島のパレンバンにおけ るアカシアマンギウム大規模植林地が対象地である。これまで生存研では、育苗育種、組織培養、成長促進、材の利用といったアカシアの持続的経営に向けての 研究や、アカシアの炭素固定・サイクルといった生存圏における重要性を位置付ける研究が行われてきた。一方、地域研究の視点から見れば、このような大規模 植林地には地域社会との軋轢という大きなリスクが伴うため、社会的な持続性の低さが懸念される。対立を乗り越え、どのようにして持続的なものにしていくか が求められている。「複合化」をキーワードにしつつ、従来生存研が行ってきた「モニタリング・診断、開発・治療、適用・再生・自立」の方法論にガバナンス の視点を加えることで、「持続的森林圏」の創生を考えていく。

イニシアティブ4「地域の知的潜在力研究」
 本研究では、在来の知やシステムに先端技術の新たな可能性を接合し、生存基盤持続型の発展を支えるような地域の知的潜在力を発見・理解しようと試みる。 従来の地域研究は地域の固有性を強調しすぎ、地域を調和的なものとして描く傾向があった。しかし、気象条件変動への対応、セーフティーネット優先の人と 人、人と自然の関係を考慮すれば、地域を調和ではなく、多重的なリダンダンシー(重複性)を含む生態社会システムとして捉える必要がある。そして近代は、 このようなリダンダントな豊かさをもつ生存基盤を破壊したというネガティブな面に加えて、新たな科学技術・制度が導入されることで人々の行動選択の可能性 が広がるというポジティブな可能性からも評価されるべきである。さらには、近代資本主義が前提としてきた主体から客体への所有関係ではなく、関係性の質に 着目し、どういう風に他者や自然とつきあい、自己と他者をどう変えていくかといった多様な主体間の重層的交渉関係の動態を捉える必要がある。このようなパ ラダイムシフトを前提に、環境変化、戦争、高齢化と疾病、貧困等の分野の研究から生のあり方の再構築を行い、人類の多様性を保証してきた文化・価値観の中 に、持続的生存基盤を構築する能動的な契機を探っていく。

(文責 生方史数)