「グローカルなエネルギー問題」 [ 第5回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

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日 時:2008年1月21日(月) 16:00~18:00
場 所:京都大学東南アジア研究所東棟2階会議室

発表者:1. 松本 紘 (京都大学副学長・理事)
             「グローカルなエネルギー問題- 持続的生存基盤の拡大に向けて -」

         2. 松岡 巌 (運輸政策研究機構国際問題研究所・調査役)
             「エネルギー・地球温暖化問題の現状」  

                                                                                    (研究会終了後、懇親会を予定)

【趣旨】
 生存基盤確保のためには、エネルギーを長期的にどのように確保していくのかはきわめて重要な課題である。それは、国際的な資源分配メカニズムや技術革新、地球環境への影響など、地球全体にかかわる問題であると同時に、価格の変動による消費生活への影響や健康被害など、ローカルな人々の暮らしに直結した課題でもある。とくに、エネルギー需給における中長期的なシナリオを描く際に、ローカルなバリエーションや短期的な変動を十分考慮し、個別の課題から積み上げていく作業が必要である。本プロジェクトが主として対象とする熱帯のアジア、アフリカ地域については、この点の認識はなお不十分なように思われる。今回の研究会では、グローバルvsローカル、あるいは、中長期的展望vs短期的展望といった二元論ではない将来展望のシナリオ作りのためにどのようなことを議論すればよいのかについて考える。

 




 

【活動の記録】
1. 「エネルギー・地球温暖化問題の現状」 松岡 巌
 地球温暖化問題は、もはや環境政策ではなく、通常の外交マターであり、ビジネスでもある。また、政府の意向は直接的には反映されない問題でもある。それは、途上国での国内政策に大きく影響され、今後排出が増えるであろう部分に十分な国際的支援を期待できないため、現在の国際的枠組みでは対応できない部分がある。

 地球温暖化問題は、オゾンホール(フロン規制)の問題と比べると、問題の困難さが理解しやすい。オゾンホールの問題は、問題が顕在化しており、原因として考えられる冷媒やガス利用の規制など、科学的見地にたった対策が可能であったが、温暖化問題は、将来の課題であり、現在のほとんどすべての人間の活動にかかわっているため、科学的問題であると同時に政治的問題である。地球温暖化問題は、原因の発生源の近くで問題が起こるわけではないため、排出権取引やCDM(Clean Development Mechanism)のような手法を世界レベルで導入することが可能となる反面、どこかの国・地域が排出を続ければ世界全体に影響を及ぼすことになる。この対策として、柔軟性措置(経済性措置)と呼ばれる京都議定書(1997年)が採択される。その特徴は数値目標があること(第1約束期間:2008~12年、附属書Ⅰ国は平均5%削減)、経済性手法(排出権取引やCDMなど)が導入された点である。

 

 交通分野におけるCDMについて見る。自動車による環境への影響はCO2のみではなく、NOxやSOxも問題になる。温暖化ガスの排出量を技術的に減少させることは、おそらく先進国では可能だが、途上国への技術の普及が問題となる。というのは、そうした技術のほとんどは政府ではなく企業が有し、無償で途上国(もしくは途上国のライバル企業)に提供することは現実的ではない。また、交通分野には、安全性の確保や渋滞の改善など、関連する課題も多い。単に温暖化ガス排出量を削減すればよいのではなく、総合的な判断が求められる。それらの総合政策として交通CDMを捉えると、先進国の経験を途上国にいかすことができるし、政策支援のための国際的なメカニズムも必要である。

 

2. 「グローカルなエネルギー問題- 持続的生存基盤の拡大に向けて -」 松本 紘
 人口増加や経済成長によって食糧需要やエネルギー・資源消費量の増大がさまざまに予測されている。50年先の将来を考えた場合、先進国の人口が現在のまま停滞し、必要なエネルギー・資源量が変化しないと仮定しても、途上国の人口が現在の50億人から90億人、エネルギー・資源量が3倍になったとすれば、現在の消費生活資源エネルギーが150億生活トンであるのに対し、50年後は370億トンにまで増大する計算になる。このエネルギーと資源を、環境問題に対応しながらどのように賄うのかが重要な課題である。逆に、途上国の人口増加のスピードが現在のままで生活レベルに変化がないとしても、先進国の生活は4割ほど縮小する必要がある。

 

 ところで、将来の主なエネルギー資源・鉱物資源の残余年数には限りがある。いくつかの貴金属は、未知の埋蔵物を発見するか再利用しない限り、今世紀中に枯渇する。石油の枯渇についてもさまざまな予測があるが、40~50年分の残余があると考えるのが妥当だろう。そうしたことを考慮した人口・エネルギー・資源の複合的な将来予測では、成長の限界は、最悪の場合2020年頃にやってくる。将来の人類の生存基盤を確保するためには、再生可能エネルギーの供給増、環境問題に配慮した食糧供給の増加、資源の再利用が必須となるであろう。

 

 とくに、グローカルな持続的生存基盤拡大の手法をエネルギーで考える場合、環境負荷が小さい、太陽光発電・風力発電、バイオエタノール、燃料電池といった新エネルギーの開発が重要である。太陽光発電・風力発電は、エネルギーソースが無限にあり、CO2発生は基本的に初期投資時のみであるというメリットがある一方、エネルギーソースが偏在し不安定であること、発電コストがかかるというデメリットがある。バイオエタノールは再生産可能なエネルギーソースであり燃焼させても地表の循環炭素量を増やさない(循環するだけ)というメリットがあるが、仮に地球上の全耕地面積でエタノール原料を栽培しエタノールを生産しても、現在消費されているガソリンに代替することができない。新エネルギーのこうした特徴と、現在の用途別の石油消費量とを考えると、石油にかわるエネルギーとして現状で考えられるシナリオは、輸送エネルギーをバイオエタノールに、発電用エネルギー(変動分)を太陽光発電・風力発電に、発電用エネルギー(ベース分)を原子力および宇宙太陽光発電に代替するというものである。

 

                                                

(文責 柳澤雅之)

 

 

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