「遺伝子組み換え作物の可能性と危険性」 [ 第9回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

活動の記録>>

日 時:2008年6月16日(月) 16:00~18:00
場 所:生存圏研究所HW407(データベース解析室)
http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/access.html
キャンパス内地図 (3)宇治総合研究実験棟の図中右建物4F

講師:大阪府立大学 小泉 望  (遺伝子組み換え)
コメンテーター:京都大学農学研究科 神崎 護  (環境生態学)


【趣旨】
人類がマルサスの人口論を乗り越えられたのは「耕作面積」×「単位面積あたりの収穫量」=「人間を養える限界」という図式に対し、農業技術で「単位面積あたりの収穫量」を飛躍的に増加させたためである。その結果、人口論を超える60億もの人間を地球は養うことができるようになった。
その一方で、人類による自然の収奪は、60年代の公害問題などの様々な環境問題を引き起こし、それまで人類社会の外部とされてきた自然環境をも含みこんだ倫理というものに人々の目を向けさせることになった。
とはいえ、このジレンマは解決したわけではない。これからも伸び行くアジア・アフリカから飢餓・貧困をなくすためにはさらに食糧の増産を図らなければ再び「成長の限界」に直面することは目に見えており、それに対して遺伝子組み換えなどの先端技術で解決しようという取り組みが進められている。こうした新たな技術は、人類と自然環境との長期的な関係に対してどのような影響をもたらしうるのか。
生物多様性に代表される現在の環境倫理とどうかかわるのか。本研究会では、新たなパラダイム創成を目指して、こうした問題を具体的な技術のあり方を通じて考えたい。




 

【活動の記録】
小泉報告では、組み換え作物に関する研究、生産、消費の現状が論じられた。まず、世界における組み換え作物の栽培状況を概説し、この10年で北米、南米を中心に組み換え作物栽培が急増したことを指摘した。次に、実用化の代表例として、除草剤抵抗性、害虫抵抗性作物の効果と栽培状況を解説し、これらの作物の導入が、栽培コストの低減や環境負荷の軽減への貢献に寄与することを指摘した。また、今後期待される研究として、ゴールデンライスとデカフェ・コーヒーの例を紹介した。最後に、日本における組み換え作物の消費の現状を、世界の動向と比較しながら解説し、生産も消費も原則として許されていない日本であるが、輸入原料からの植物油や醤油の消費を通じて、組み換え作物を事実上消費しているという矛盾を指摘した。神崎報告では、生態学の立場から、組み換え作物のもつリスクについて議論された。まず、遺伝子組み換え技術が、種の枠組みを超えるという従来の育種技術とは異なる革新性を有し、生命倫理にまで踏み込む技術であることを強調した。次に、組み換え作物の導入への危惧として、除草剤や農薬への耐性が低い既存農業を攪乱する可能性と、花粉などの完全な制御が困難であるため作物の遺伝子汚染が拡がる可能性の2点を指摘した。最後に、これらの問題はリスク・マネジメントで対処すべきだが、リスクの想定ができていないことが本質的な問題であり、そのために環境倫理、企業倫理に頼る部分が大きいことを指摘した。

議論
・組み換え技術を過大評価しているのではないか。メガヒット商品は、現在のところ除草剤抵抗性と害虫抵抗性作物のみである。食品安全性に関しては、組み換え作物の場合非常にチェックの基準が厳しい。組み換え作物の管理の有効性は確かに疑わしいが、多くの問題は、そもそも組み換え作物に特有の問題ではない。組み換え作物の場合、急に問題が大きくなる。
・遺伝子漏出の問題は重要である。特に樹木等の場合は、食品とは異なり人間への直接的な影響は低いものの、生態系の中での影響は大きい。また、別の問題として、モンサントなどの多国籍企業による技術の独占的な開発・使用という問題も含めて、このような新技術が途上国の貧困層の生活改善にどれくらい寄与するのか疑問である。
・予想できないリスクには、対処することができない。森林は田畑より管理が難しいので、遺伝子漏出のリスクはより高い。しかし、これらの問題は、基本的にはこれまでの帰化植物の問題とほとんど変わらない。途上国開発の問題に関しては、ハワイでのパパイヤ開発の例にみられるように、多国籍企業を介さない開発もある。しかしこの種の実用的普及が例えばタイで進まない背景には、日本が遺伝子組換え作物を購入しないということがある。このように、先進国のエゴによって、途上国への技術移転の道が塞がれるということもあるのではないか。
・日本の組み換え作物に対する態度が建前と実際の消費とで全く一貫していないことに関して、市場の倫理はどうなっているのか。農水省はもっとこの実態を説明するべきではないのか。

(文責 生方史数)

 

 

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