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「エコ・コモンズの可能性―持続と破綻のはざま」 [ 第16回研究会 ] (G-COEパラダイム研究会)

活動の記録>>

日 時:2009年2月16日(月)  16:30~18:30(その後懇親会あり)
場 所:京都大学 東南アジア研究所 稲盛記念館3F中会議室
http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/about/access_ja.html

講師:秋道智彌 (総合地球環境学研究所)
エコ・コモンズの可能性―持続と破綻のはざま
Exploring the Plausibility of the Eco-commons: Continuity andDisruption of the Human Ecosystem
コメンテーター:池谷和信(国立民族学博物館)
河野泰之(京大東南アジア研究所)


[講演要旨]
地域の生態資源を適切に管理し、利用していくための方策や制度を考えていく場合、人間社会の統合、公正性、安定性の維持などとともに、環境条件の時間的な変化・変動、生態系サービスの多様度などを苦慮した共有的な慣行ないし共有制度をエコ・コモンズ(eco-commons)と呼ぼう。 この方策の有効性を検証するため、まず環境要因に注目して、(1)モンスーン気候下における水位変動、(2)マングローブ沼沢地の干満差、(3)焼畑における休閑地の遷移、(4)高度回遊性の資源(渡り鳥、鯨類)の移動と人間の利用上の問題点について検討する。 つぎに、生態資源へのアクセス権の類型を、オープン・アクセス、リミテッド・エントリー、サンクチュアリに分け、それぞれの類型における資源の利用と分配が公正性、社会的な相克と統合などの点で果たす役割について考察する。これには、東南アジア、中国、ソロモン諸島などの例を挙げて検討したい。 最後にエコ・コモンズの実現を促進ないし抑制する要因を吟味するさいに、人間-環境間の相互作用環を時間的な動態として分析する生態史(eco-history)のアプローチの重要性を指摘したい。

 


 

【活動の記録】

発表者の秋道智彌氏からは、エコ・コモンズという概念を軸に、多岐にわたるトピックが提示された。エコ・コモンズとは、通常のコモンズから視野を広げ、人間社会の利用や管理に関する制度的な問題と生態環境の両方を同じ土俵で考えるものである。その視点からは、ある空間あるいは地域において存在するモノや動植物を取り巻いて展開する、きわめて複雑な関係性やフローのネットワーク、およびその歴史的変遷が捉えられる。

事例において取り上げられたものの一つが、ラオスの南部における洪水である。分析にはその問題に合わせたスコープ、解像度が必要になるが、ここでは20年ほどの時間におけるローカルおよびグローバルな政策変化とその水系における動植物の生態をめぐる複雑な因果関係(ダムからの放水と川べりの野菜栽培、メコンオオナマズと水草、河川の水量の関係…)と、それにかかわる現地の民俗知識(例えば「水が減るとアリが魚を食べる。水位が上がると、魚がアリを食べる」)が論じられた。

続いてコモンズとしての魚類の管理が議論された。そこではアクセス権の類型を、オープン・アクセス、リミテッド・エントリー、サンクチュアリの三つに分け、その間の変遷がメコン川における魚類保全区の事例を通じて論じられた(上からの保全による管理の失敗から、村落の公益事業や弱者救済のためのみ一時的に開放する動きへ)。

発表は、秋道氏のこれまでの研究を通じて得られた現地についての深い理解にもとづくものであり、個々の事例の背景となる全体像を把握することは容易ではなかったが、そこには資源の利用の持続性と枯渇のあいだ、あるいは世界的な趨勢とローカルのやり方のあいだで生きる現地の人びとの具体的な実践から考える、という姿勢が貫かれていたといえる。

これに対して、コメンテーターの池谷和信氏は、『「秋道学」を越えられるか?』と題して、秋道氏の研究の意義を、個別の民族誌から地域を比較する枠組みの提示、人類学を越えた近隣分野の共通の論点の提示、国際的な論議との連動、国内の研究との往復運動、というように整理しつつ、そのうえで問題点として、21世紀の情勢に対応するためにコモンズ論に必要なことは何かについて論じた。そこで問いとして示されたのは、自然保全区をめぐる自然生態から政治の議論へというフレームワークの変化をどう捉えるか、都市の問題(特にゴミなど)や移動民のコモンズをどう組み込むか、ということである。

もうひとりのコメンテーターである河野泰行氏は、東南アジア研究所が目指そうとしている地球共生パラダイムと秋道氏の構想するエコ・コモンズ論の近接性について触れ、その上で2つの問いを示した。ひとつは、エコ・コモンズを支える構造とは何か(ローカルなのかグローバルなのか、あるいはどちらでもないのか)ということであり、もうひとつは、渡り鳥の感染症などのように、従来の意味での「地域」を越える問題に注目することで、エコ・コモンズの概念をもっと拡大できるか、ということである。

またフロアからは、杉原薫氏から「所有」や「交易」の定義をめぐる質問に加え、エコ・コモンズの枠組みからはGeosphereとBiosphereの違いはどのように見えるのか、という問いが出された。荒木茂氏からは、ここで問題にしているのが地球規模のことなのか地域なのか、どう考えるべきか、という問いと、魚類の資源管理の3つのモデルの遷移が時間的なものか空間的なものか、という問いが出た。また清水展氏からは、エコ・コモンズを生存基盤として捉えることから見える展望の可能性についての意見が出た。

今回はやや議論の時間に制限があったため、議論を十分に尽くすことはできなかったが、地域研究の向かう先として、ローカルとグローバル、また社会と生態の両方を視野に入れた研究のあり方が明確になった。秋道氏の研究はそうした方向に向けたひとつの具体的なあり方を示している。こうした議論をどのようにしてそれぞれが積み重ねてきた研究に生かすことができるかを考えていくことで、G-COEが目指す新たなパラダイムがより具体的なものになってくるはずである。

(木村周平)

 

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