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「人間圏を解き明かす―人間の生存、人びとのつながり」 [ 若手研究者養成・研究部会 合同研究会 ] (イニシアティブ4 研究会)

活動の記録>>


日 時:2010年3月14日(日)〜16日(火)
場 所:KKRホテルびわこ http://www.kkrbiwako.com/index.htm


【趣旨】
エネルギー問題や大規模な環境問題が顕在化しつつある現在、必要なのは何を「持続可能性」の核とすべきか、という問いである。本グローバルCOEは、それを「生存基盤」だと考え、地球圏・生命圏・人間圏の相互作用のなかで、生存基盤の持続をもたらすような発展はどのようになされうるのかを考えてきた。

こうした背景に基づきながら、本シンポジウムは、人間の多様な社会、またそこにある知識や価値、制度や歴史を包摂する広い概念としての「人間圏」に焦点を当て、生を支える社会関係や環境がいかに形づくられているかについて議論したい。植民地主義や近年のグローバル化の大きな流れの中で、都市や地域社会ではどのような問題が現われ、どのように対処されているのか。生存を支える信仰や思想は、今どのようなあり方をしているのか。多様な社会状況についての事例を通じて、こうした問題を明らかにしたい。

【プログラム】
3月14日(日)

15:00-15:20 シンポジウムの趣旨説明
◇セッション1 環境思想と地域社会の生存基盤  座長 中川理(大阪大学)
15:20-16:00 石坂晋哉(京大東南研)「『たたかいの政治』から『つながりの政治』へ―現代インドの環境運動」
16:00-16:40 安田章人(京大ASAFAS)「『持続可能な』野生動物管理の政治と倫理―カメルーン・ベヌエ国立公園地域におけるスポーツハンティングと地域住民の関係を事例に」
16:40-16:50 休憩
16:50-17:50 コメント・討論1
コメンテーター 松村圭一郎(京大人環) 吉田早悠里(名古屋大学)

19:30-22:30 参加者の研究紹介1

3月15日(月)

8:30-9:00 GCOEプログラムの紹介1
◇セッション2 環境の在来知、つながりの在来知  座長 内藤直樹(国立民族学博物館)
9:00-9:40 中川千草(関西学院大学)「トウヤ制度の変更と社会文節の再編プロセス―三重県熊野灘沿岸部・相賀浦 地区を例に」
9:40-10:20 富田敬大(立命館大学)「ポスト社会主義期の地方社会と牧畜経営―モンゴル北部・オルホン郡の事例から」
10:20-10:30 休憩
10:30-11:30 コメント・討論2
コメンテーター 加藤裕美(京大ASAFAS) 平井將公(京大ASAFAS)
◇セッション3 民衆の宗教・民衆の政治  座長 藤本透子(京大人環)
13:00-13:40 二宮健一(神戸大学)「ジャマイカの『ダンスホール・ゴスペル』―パフォーマティヴに構築されるキリスト教徒の『男らしさ』の考察」
13:40-14:20 八木百合子(総合研究大学院大学)「アンデス高地農村における聖人信仰と祭礼をめぐる社会関係」
14:20-15:20 コメント・討論3
コメンテーター 野上恵美(神戸大学) 和崎聖日(京大ASAFAS)
15:20-15:40    休憩
◇セッション4 都市の形成史と社会  座長 久保忠行(神戸大学)
15:40-16:20 松原康介(東京外国語大学)「中東における都市保全計画の変遷―フランス植民地主義から世界遺産保全へ」
16:20-17:00 山田協太(京大ASAFAS)「近代都市あるいは都市の近代―南アジアのオランダ植民都市、コロンボ、コーチン、ナーガパッティナムの経験をつうじて」
17:00-18:00 コメント・討論4
コメンテーター 永田貴聖(立命館大学) 西垣有(大阪大学)
19:30-22:30 参加者の研究紹介2

3月16日(火)

8:30-9:00 GCOEプログラムの紹介2
◇セッション5 都市下層民にとっての生存とつながり  座長 山崎吾郎(大阪大学)
9:00-9:40 清水貴夫(名古屋大学)「少年の移動『ストリート・チルドレン』―ワガドゥグの事例を中心に」
9:40-10:20 日下渉(京大人文研)「『買票』か『福祉サービス』か?―マニラ首都圏の地方選挙におけるモラリティ」
10:20-10:30 休憩
10:30-11:30 コメント・討論5
コメンテーター 稲津秀樹(関西学院大学) 白波瀬達也(関西学院大学)
13:00-15:00 総合討論 片岡樹(京大ASAFAS)白石壮一郎(関西学院大学)

【要旨】
◇セッション1 環境思想と地域社会の生存基盤
「『たたかいの政治』から『つながりの政治』へ―現代インドの環境運動」
石坂晋哉(京都大学東南アジア研究所) 

本発表では、現代インドの環境運動を分析する視角・枠組として、従来の社会運動論の中心的概念であった「たたかいの政治(contentious politics)」に代えて、「つながりの政治(connective politics)」という新たな概念を用いるのが有効であることを示したい。
そのために、インド環境運動史を概観したうえで、(1)70年代のチプコー運動(森林保護運動)、(2)80~90年代のテーリー・ダム反対運動、(3)2000年代の西ガーツを救え運動の事例をピックアップして検討するが、特に、2010年2月18~20日に南インド・タミル・ナードゥ州コタギリ(西ガーツ山脈南端部)で開催される西ガーツを救え運動の集会の分析が中心となるであろう。

「『持続可能な』野生動物管理の政治と倫理―カメルーン・ベヌエ国立公園地域におけるスポーツハンティングと地域住民の関係を事例に」
安田章人(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

スポーツハンティング(以下、SH)、いわゆる娯楽のための狩猟は、近年アフリカにおいて、大きな経済的利益を生み出す「持続可能な」野生動物管理の手段として注目されている。そのきっかけとは、東・南アフリカ諸国において、80年代末期に開始されたSHを基盤とした住民参加型保護政策が成功をおさめたことにある。その成功の鍵とされたのは、地域住民への経済的便益の分配と、住民の主体性の重視であった。そして、近年、成功例とされた政策モデルは、西・中央アフリカ諸国へと伝播しつつある。しかし、「持続可能性」を掲げたSHを基盤とした政策モデルに対するアプローチには、社会的・政治的コンテクストからの考察が欠如しており、地域社会に与える社会的影響は十分に明らかにされていない。
本発表では、SHを基盤とした住民参加型保護政策モデルが導入・実現されようとしている地域として、カメルーン・ベヌエ国立公園地域をとりあげる。そして、経済的便益の分配と住民の主体性に注目し、地域住民の生活実践の観点から、SHにおける「持続可能性」および政策モデルへの再検討を試みる。

◇セッション2 環境の在来知、つながりの在来知
「トウヤ制度の変更と社会分節の再編プロセス―三重県熊野灘沿岸部・相賀浦地区を例に」
中川千草(関西学院大学大学院社会学研究科) 

三重県の熊野灘沿岸部を歩いていると、「うちは浦方」「あそこは竃方」といった会話を耳にすることがある。「浦方(ウラ)」とは漁業で生計を立てるむらであり、「竃方(カマ)」とは漁業権をもたないむらを指す。同沿岸部のむらはこのどちらかに区分されるが、本研究の対象地は、両者が1875年に行政合併を果たしたうえで誕生したウラ・カマ混成のむらである。とはいえ、今日に至るまで、居住地や組織、祭祀など、生活の根幹部分において、お互いを区分する生活を営んできた。
2004年、その区分の象徴といえるトウヤ制度に変化がおとずれる。ウラ世帯のみで担われてきた氏神の守り役「トウヤ」がカマにも回されることになったのである。一見「おおごと」のようにもみえるこのできごとを、住民は実に粛々と受け入れ、実行していった。
本研究では、このトウヤ制度の変更を取り上げ、ウラ・カマという社会分節の意味を現地の文脈から問いたい。

「ポスト社会主義期の地方社会と牧畜経営―モンゴル北部・オルホン郡の事例から」
冨田敬大(立命館大学大学院先端総合学術研究科) 

世界で二番目の社会主義国となったモンゴルは、1990年代初頭に市場経済へと移行した。いうまでもなく、市場経済化の波は、地方社会にも押し寄せた。なかでも、1991年に始まった協同組合の民営化は、社会主義時代の国内分業を支えた定住地(商業・貿易の拠点)と草原(畜産物の生産地)の関係に大きな変化をもたらしている。本発表では、このような定住地と草原の関係を中心に、モンゴルの地方に暮らす人びとが、彼らをとりまく厳しい経済状況のなかで、家畜飼育を通していかに生き抜いてきたのかを検討する。まず、地方の人びとが、市場経済化後の経済的な困難に対処するために、各地域のもつ特性を最大限に活かしながら家畜飼育と居住地の選択を行ってきたことを示す。その上で、草原と定住地がひとつの連続した生活空間として人びとに認識されており、両地域における牧畜経営の多様なあり方が複数の家族の協力関係によって支えられてきたことを明らかにしたい。

◇セッション3 民衆の宗教・民衆の政治

「ジャマイカの『ダンスホール・ゴスペル』―パフォーマティヴに構築されるキリスト教徒の『男らしさ』の考察」
二宮健一(神戸大学大学院国際文化学研究科)

本発表は、ジャマイカで近年盛んになっている「ダンスホール・ゴスペル」と呼ばれる音楽形態を扱う。これはキリスト教徒の男性が世俗の音楽である「ダンスホール音楽」の表現様式を用いてキリスト教的なメッセージを歌うものである。そもそもジャマイカの教会は「ダンスホール音楽」とその生産・消費の場である「ダンスホール」を強く批判しているという背景があるため、「ダンスホール・ゴスペル」には教会コミュニティでも賛否両論が聞かれる。
本発表はこの「ダンスホール・ゴスペル」の「男らしさ/男性性」に注目しながら、この音楽の歌い手であるゴスペルDeejayのパフォーマンスを通じたアイデンティティ構築や、それが教会コミュニティに及ぼす影響をフィールド資料から描き出す。
その考察のために、ジェンダー研究において大きな影響力を持ったJ. バトラーのパフォーマティビティの概念と、それを文化人類学的なアイデンティティ/コミュニティ研究のために援用した田辺繁治らによる概念枠組みを試用する。

「アンデス高地農村における聖人信仰と祭礼をめぐる社会関係」
八木百合子(総合研究大学院大学文化科学研究科)

アンデス農村で催される聖人祭礼では、主催者となった人物は多大な労力と出費を負担しなければならない。そのため、多くの場合、主催者は親族関係や「アイニ」と呼ばれる村落における互酬的関係など、個人がもつ様々な関係を通じて、祭礼の費用や物資の調達を可能にしてきた。しかし1960年代以降は、アンデス高地の農村地域からも都市への移住者が増大したことで、村落の祭礼を支える人びとのつながりはしだいに都市移住者の間にまで拡大していった。近年では、村落基盤の社会関係を利用する一方で、移住者を巻き込んだ資金調達のための数々の取り組みが行われている。
本発表では、そうした祭礼をめぐって展開される主催者たちの営みに焦点をあて、彼らがいかなる社会関係を駆使し、祭礼の維持や発展に努めているのか、その仕組みを明らかにすることで「人間圏」を解き明かす一助としたい。

◇セッション4 都市の形成史と社会

「中東における都市保全計画の変遷―フランス植民地主義から世界遺産保全へ」
松原康介(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

中東・北アフリカ地域の歴史都市には、多彩な交流の中で成熟してきた独自の空間原理が見出される。20世紀に入ると様々な都市問題が顕在化するとともに、歴史都市の保全が試みられるようになる。嚆矢となったのはフランスによる植民都市計画であり、旧市街を手付かずのまま保全し、バロック型の新市街をその外殻に建設するという分離政策によって保全を実現しようとした。しかし、凍結的な保全は実際に人が住んでいる都市にはそぐわない。結果として加速した老朽化や過密化への対応として、ユネスコが世界遺産登録を推進する一方、独立後の都市計画には、必要な範囲での旧市街への介入、活性化が織り込まれるようになる。保全と近代化をいかに調和的に実現するかが課題となったのである。
本発表では、こうした都市保全計画の変遷と都市空間の変容を、モロッコのフェス、シリアのダマスカス、アレッポを事例に報告する。更にその背景にあった番匠谷尭二ら日本の都市計画家の業績も紹介し、都市保全を通じたわが国と中東・北アフリカ地域との交流のゆくえを展望する。

「近代都市あるいは都市の近代―南アジアのオランダ植民都市、コロンボ、コーチン、ナーガパッティナムの経験をつうじて」
山田協太(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

本研究では南アジアにおいて、近代世界の起点とみなされる、17世紀にオランダが建設した3つの植民都市、コロンボ、コーチン、ナーガパッティナムを対象として、その形成と現代に至るまでの変容を論じる。植民都市はヨーロッパと南アジアの海域世界、地域社会が交錯する焦点である。物理的空間と人々、制度・組織を手がかりに、各要素の相互作用の連鎖として都市の描出を試みる。主要な局面において3都市を相互に参照することで、海域、地域の動態を浮かび上がらせたい。
I.ウォーラーステインは『近代世界システム』(1974年)において16-17世紀のオランダを、現代世界を覆うまでに成長した資本主義の草創期の主導者と位置付ける。本研究はこれを出発点としつつ、植民都市という定点からの観察をつうじて、近代世界の担い手であるオランダと現地社会との邂逅の構図を再考する。

◇セッション5 都市下層民にとっての生存とつながり
「少年の移動と『ストリート・チルドレン』―ワガドゥグの事例を中心に」
清水貴夫(日本学術振興会/名古屋大学大学院文学研究科) 

ブルキナファソの首都、ワガドゥグ市は推定150万人ほどの人口を擁するブルキナファソの政治経済の中心都市である。ワガドゥグ市には、アフリカの多くの大都市と同様に、路頭で生活する「ストリート・チルドレン」が存在する。
「ストリート・チルドレン」は都市の社会問題と同義で用いられることが多い。だが、本発表では、こうした少年たちのストリートへの出奔を、「社会問題」として扱う以前の、都市への「移動」の現象レベルに引き戻して捉え直すことを目的とする。
人々の都市への「移動」については、都市人類学を中心に多くの研究の蓄積がある。例えば、ガーナ北部から都市部への若年貧困男性の移動を扱ったHartの研究は、経済的な動機付けを持つ人々の「移動」が機能的な意味を持つことを指摘している。だが、本発表の事例に挙げる少年の「移動」は、機能主義的観点から説明することが困難な、目的の明らかでない移動である。

「『買票』か『福祉サービス』か?―マニラ首都圏の地方選挙におけるモラリティ」
日下渉(京都大学大学院人文科学研究所) 

一般に、フィリピンの選挙ではエリートが貧困層の票を買う「買票」が蔓延しているとされる。これに対して、カトリック教会やNGOは「有権者教育」を行い、貧困層が金に操作されず、「正しく」投票できるようしようとしてきた。
もっとも、エリートも貧困層も、直接的な金銭と票の交換はモラル的に否定する。そこで、選挙直前に公的に行われるのは、エリートによる葬式・結婚式・祭りへの参加と金銭の提供、医療ミッション、無料法律相談といった貧困層への「福祉サービス」の提供である。
こうした相互関係は、クライエンタリズム論によって説明されてきた。エリートが提供する資源に、恩義を抱いた貧困層が票を提供しているというのである。しかし、それでは、「買票」を否定しつつ「福祉サービス」を正当化するようなモラルの動態を捉えられない。
本報告では、マニラ首都圏の地方選挙において、エリート(市議)、貧困層、NGOの間で、「買票」と「福祉サービス」をめぐるモラルがいかに争われているのかを明らかにしたい。

【活動の記録】
第2回合宿シンポジウムは、関西を中心に8つの大学に所属する、人類学・地域研究・社会学・建築史・都市計画などを専門にする40人近くの若手研究者が参加した。そこでは3日間にわたって5つのセッションで10の研究報告が行われ、今回のテーマである「人間圏」や「つながり」ということをテーマに積極的な議論が交わされた(その成果は今後ワーキングペーパー等として公刊される予定である)。加えて、大学・分野を越えた研究者同士の交流を通じ、将来につながるネットワークが形成されたことも、本シンポジウムの重要な意義であった。
個々の研究発表については要旨があるので要約を避けるが、3日間を通じて研究関心や手法は多様であっても、次のような同時代的に共有する方向性があることが参加者の間で確認された。それは、(1)問題を設定するうえで、自/他、民衆/権力、社会/環境のような明確な二項対立を前提とするのではなく、両者の間には分かちがたく複雑な関係性(あるいは「つながり」)が形成されていることを認めること、そして(2)人と人との間のみならず、死者や事物も含めた、物質的・精神的なつながりの存在を指摘するだけにとどまらず、つながりがいかなるものであるのか、それぞれの関係性がどのような意味や価値を持つのか、あるいはどのように変容しつつあるのかを明確にしようとすること、この2点である。そのような関係性の探求は、一方で参加者の一人が述べたように、いかに複雑になろうと現地での徹底した調査によって裏打ちされるべきものである。しかし他方で、研究すること自体が当事者と調査者の間の制度的・倫理的あるいは日常的な関係によって大きく制約を受けてしまいうることもまた事実である。総合討論では、不確実性やリスクが日常化する現状のなかで、いかに問題を切り取り、それに向けて研究を行い、またそこから言葉を発していくかについて、個々の研究者がより深く考えていく必要がある、という意識が共有された。

(文責:木村周平)