要旨:
1980年代以降、マレーシアでは「イスラーム化」と名付けることができるようなイスラームへの指向性が高まっている。本報告では、イスラームをめぐる制度に着目することによってマレーシアの「イスラーム化」について考えてみたい。制度に着目するのは、次のような点で「イスラーム化」という文化的社会的変化のある局面をとらえることができると思われるからである。
ひとつは「イスラーム化」の強制力をともなった拡大という点である。文化それ自体に人々の行動を拘束する力が内在されていることは言うまでもないが、ひとたびそれが制度化されると、その力は社会的強制力として具体化される。それがさらに文化的実践に影響することで、文化がそれ以前のものからは微妙にずれた形へと変化する。「イスラーム化」とは、文化とその制度化との連続的な累積的変化としてとらえることができるのではないだろうか。
ふたつ目は、イスラームが制度化されるさいに現れる相対化という点である。制度化とは個別、具体的な場において形をなすものであることから、制度化の過程においてイスラームはイスラーム以外の何ものかと対峙せざるをえない。それゆえに「イスラーム化」が制度を通して実現されるものであるかぎりにおいて、それは常に相対化されながら展開されていくはずである。
本報告は、できるかぎり具体的な事例のなかに「イスラーム化」のこのような局面を読み取ろうとする試みである。
コメント (0件)