イニシアティブ3~最終成果公表に向けて~ 水野広祐

 

  今日、アブラヤシ生産とその消費などの形で、地球的規模の熱帯バイオマス生産への依存が一層増している。この熱帯バイオマス生産は、人類社会にとって持続的生存基盤の確立へ向けた限りない可能性をもっている。それは、化石燃料依存型社会から再生可能なエネルギー源依存社会への転換の一環としてのバイオマス依存型社会への転換が可能になるのである。さらに、クリーンエネルギーの利用を意味するバイオマス生産の促進とその生産物の利用は、二酸化炭素の固定化を通じて大気中の二酸化炭素の削減に貢献する。そして、このバイオマス生産にもっとも適した地域が熱帯地方なのであった。

  第3イニシアティブは、この熱帯バイオマス生産に関し、その意義と問題点を明らかにし、さらに熱帯バイオマス社会の形成史研究に大きく踏み込んだ。まず「森林」、特に、大規模造林に注目した。大規模造林は、化石燃料依存型社会からバイオマス依存型社会への形成のためには避けて通ることができない。持続的・循環的な木材資源の生産基盤として地元住民の経済活動にも貢献しうる。一方、土壌の劣化などに関する「生産の課題」、生物多様性の減少などの「生態系の課題」、土地紛争など地域社会との軋轢などの「社会・経済の課題」、そしてバイオリファイナリーなどの新たな加工技術に関する「利用の課題」が解決すべき課題として存在していることを明らかにした。また、豊かなバイオマスが東南アジア社会の中でどのように利用され社会を作ってきたのかを、海域社会のネットワーク、工業化、そしてアブラヤシ生産の爆発的伸びにおける、社会関係、労働組織などの社会編成の転換という視点から明らかにした。

  第3イニシアティブは、今後、このバイオマス依存型社会形成の道筋を、歴史的、社会的、技術的観点から実証的に明らかにしてゆく。第3イニシアティブが力を入れようとしている研究の一つは、インドネシア・リアウ、ギアム・シア・クチル・バイオリザーブ自然保護区における泥炭地バイオスフィア研究である。泥炭地は、地球規模の炭素貯蔵庫でありながら、近年、バイオマス生産の進展からその利用が進み、その大規模な森林消失・劣化そして炭素排出が進んでいる。この劣化を抑え、地域住民の福祉の向上をどう図るのか。

  私達は、この泥炭地バイオスフィア研究を3つのチームの学際共同研究として実施する。すなわち、バイオマス研究チーム、生物多様性研究チーム、および社会経済研究チームである。バイオマスチームは、泥炭地および調査地域の非泥炭地の様々な利用形態ごとのバイオマス生産と炭素固定、および泥炭地劣化阻止のための水管理について研究する。生物多様性チームは、生物多様性保持による生態系の持続性改善と、泥炭森林の回復や泥炭地の保全のために適した生物種の選択およびその多様性について研究する。生物多様性チームは、これらのテーマについて、野鳥、動物、そして樹木など植物を対象とする。そして社会経済チームは、泥炭地利用負荷の軽減と泥炭森林回復のための、本研究プログラムのバイオマスチームや、生物多様性チームの推奨する方策を、どのような組織と制度のもとで住民が集団行動によって実行してゆくのかを研究する。そのような組織と制度を明らかにするためには、土地制度や土地利用および農業・林業・漁業などの生産と雇用、さらに村落自治を含む、村落社会の様々な組織を研究する必要がある。

  そして、これらのチームが同一の調査村・調査地域において多角的視点から共同研究を実施する。それにより、地元民ムラユの民と、移民バタック・ジャワ人の泥炭地への向かい方の相違の意味合いも明らかになろう。また、会社による泥炭地保全の行動を促進する方策も明らかになろう。この研究は、途上国の森林減少・劣化に由来する排出量の削減活動(REDD)のための方法論確立への一助とすることも意図している。

  この研究は、国際共同研究として推進する。すなわち、インドネシア科学院(LIPI)の「人とバイオスフィア研究プログラム(MAB)」、リアウ大学、林業省リアウ自然環境保全センター、およびシナール・マスなど数社の地元企業と共に実施する。私達G-COEは、すでに2009年12月にLIPIの「人とバイオスフィア研究プログラム(MAB)」、リアウ大学と共同研究のための覚え書き(LOI)を結んでいる。このLOIに基づき、本共同研究チームは、インドネシア政府調査技術担当国務大臣府(Menristek)からの調査許可を得て、本年8月より約1年間、調査を断続的に実施する。

  研究成果は、国際ジャーナルに掲載し、また本研究プロジェクト叢書第3巻『熱帯バイオマスの生存基盤価値』に表してゆく。また、2011年3月の研究途中の段階から、リアウにおいて開催する国際会議において公開してゆく予定である。この国際会議は、この研究成果が、プロジェクト参加機関のみならず、地元の人々や、NGOを含むリアウ州、またインドネシア社会の人々に還元されることを意図して、広くリアウ社会に公開する予定である。

  第3イニシアティブがめざすバイオマス依存型社会形成のためのバイオリファイナリー研究は、技術研究のみならず、エネルギー供給の地域化・分権化をも視野にいれている。第3イニシアティブは、このような歴史、社会、技術の共同研究という文字通りの文理融合研究より、地域の顔が見える『熱帯バイオマスの生存基盤価値』を明らかにしてゆく。そして、このような内容により、第3巻『熱帯バイオマスの生存基盤価値』の出版、さらにリアウ・バイオリザーブのモノグラフの出版にむけた活動を進めていく予定である。



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