ねらい -G COE : 生存基盤持続型の発展を目指す地域研究拠点-

本拠点形成の目的は、自然生態、政治経済、社会文化を包摂した総合的地域研究に人類の生存基盤を左右する先端的科学技術研究を融合させて、持続型生存基盤パラダイム研究を創成し、それを担う人材を育成することである。
近年のアジア・アフリカにおける総合的地域研究の成果から、人間の活動範囲が政治経済のグローバリゼーションによって地理的・空間的に拡大しつつあることに加え、地域はグローバリゼーションの単なる受け手ではなく、地域間交流などを通じて、グローバリゼーションそのものに影響を与える能動的な主体であることが明らかになった。一方、現代社会の要請に応え、地球環境問題、エネルギー問題を視野に入れた21世紀世界を展望するには、資本主義が前提としてきた私的所有権からの発想を相対化し、地表から宇宙までの空間的広がりをもった「生存圏」の物質・エネルギー循環に関わる研究を取り込み、ローカルにもグローバルにも持続可能で、かつ、科学技術・社会制度・価値観の考察を包摂した、新たな生存基盤持続型発展径路を構築するためのパラダイムを創出する必要がある。
本拠点では、過去数世紀にわたる地域の歴史やグローバル化の進展をふまえた上で、総合的地域研究の手法を駆使して、今後100年間の未来を視野に入れた先端的科学技術を、技術開発を先導する国にのみ目を向けたものではなく、固有の潜在力を持つ熱帯域の地域社会の特質を長期の時間軸を考慮しつつ方向付け、人類社会が共有できる新しい持続型生存基盤パラダイムを提示する。そして、従来の画一的な先端的科学技術を地域社会密着型・還元型の方向に修正し、地域の多様性と潜在力を引き出す環境・エネルギー技術の開発によって持続型径路の構築を目指す教育研究拠点を形成する。

本拠点における人材育成・研究プログラムの特徴は、21世紀COEプログラム「世界を先導する総合的地域研究拠点の形成」によってアジア・アフリカ地域に設置した14ヶ所のフィールド・ステーションを継承・発展させ、フィールドワークから国際ワークショップにいたるまで、研究パラダイム形成の現場に博士後期課程の大学院生・ポスドク研究員・助教からなる若手研究者を主体的に参加させることによって、人材育成と研究を融合させるところにある。そのために、「生存基盤地域研究人材育成センター」を設置して、グローバルな人材発掘からはじめ、研究・教育を経て、国際キャリア支援にいたる、文理融合型の国際的人材育成システムを構築する。
具体的には以下の4つの研究イニシアティブを通じて持続型生存基盤パラダイムを創出し、世界最先端の研究現場において人材育成を推進する。基幹研究1「環境・技術・制度の長期ダイナミクス」は、人類が「生存基盤の確保」を主たる課題としてきた社会から、生活水準の向上や人口の増加、国力の増大を目指す「開発」型の社会に変化してきた過程を歴史的に解明し、先端科学の知見とつきあわせることによって、現代のアジア・アフリカ地域の環境、技術、制度にかかわる問題群を再検討する。基幹研究2「人と自然の共生研究」は、従来の地域に根ざした資源利用システム研究と、物質・エネルギー循環の危機を背景にした新しい研究・知見を融合させて、社会文化的に実現可能な資源利用システムを提言する。基幹研究3「地域生存基盤の再生研究」では、より大きな一地域(スマトラ・パレンバン)をとりあげ、森林の再生、第一次産品輸出経済の発展と周囲の植生、制度、雇用、地方政治との絡み合いを総合的に考察し、持続型発展のモデルを追究する。基幹研究4「地域の知的潜在力研究」は、人類の多様性を保証してきた文化、価値観のなかに、生存基盤の持続的発展の要因を探る。
また、海外の地域研究拠点(コーネル大学・ロンドン大学・ライデン大学・オーストラリア国立大学等)と連携し、アカデミック・ディベートを通じて地域研究や専門分野を超えたパラダイム形成能力を養成する。国際的発信能力強化のために、国際学術雑誌への論文掲載や単行本出版のための支援を行うとともに、コミュニケーション能力の向上や研究会・プロジェクトの企画運営能力の向上を目的とした人材育成プログラムを推進する。
これらのプログラムによって、これまでの実績以上の博士修了者を、世界の学術界を先導する大学・研究機関そして世界で活躍する民間企業に送り込む。また、国連、世界銀行、世界自然保護連合などの国際機関、政府行政機関、世界各地で活動を展開しているNGOにもアジア・アフリカ研究の専門家を輩出し、持続型生存基盤の構築に向けた国際的な公論形成に貢献する人材や、地域に根ざした技術開発をリードできる人材を供給する。
生存基盤地域研究人材育成センターは、本プログラム終了後、京都大学の将来構想と連動させ、持続型生存基盤パラダイムによる科学技術研究融合型地域研究の展開と戦略的な人材育成を目的とする京都大学地域研究グローバルユニット(仮称)として再編する。本ユニットは、アジア・アフリカ地域だけでなく欧米を含む世界の関連教育研究ネットワークの中心となる。将来的には学内の新たな教育研究組織として発展・改組を構想している。
持続型生存基盤パラダイムの創出により、地域研究が国際的に活性化され、世界の学術イニシアティブにおける地域研究の地位が向上し、さらにこれらを通じて日本の総合的学術研究の国際的プレゼンスが強化される。また国際機関などにおける環境・エネルギー研究をアジア・アフリカ地域の実態を踏まえたものにし、アジア・アフリカの地域社会における価値観や政策を持続型発展へと方向づけ、それらの転換における日本の発信力の向上に貢献する。



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