カバーする分野

本拠点がカバーする学問分野は、自然生態、政治経済、社会文化歴史を包摂した総合的地域研究に、人類の生存基盤を左右する先端的科学技術を融合させた『生存基盤持続型の発展を目指す地域研究』である。この新しい学問分野創成の基盤となる領域は、農学・生態学・人類学・医学などに基づいたフィールドワーク主体の文理融合型地域研究、政治学・経済学・歴史学に立脚したグローバル地域研究、アジア・アフリカ地域に立脚して先端科学技術を駆使する生存圏研究である。京都大学の得意とするフィールド科学を共通の方法として、新しい4つの生存基盤研究イニシアティブ(「環境・技術・制度の長期ダイナミクス研究」、「人と自然の共生研究」、「地域生存基盤の再生研究」、「地域の知的潜在力研究」)を総合的に推進する。従来の地域研究と比較すると、地球科学・社会基盤工学の本格的協力によって、研究対象の空間的な広がりを確保し、それによって地域研究の生存基盤理解にグローバルな視点を浸透させることに新規性がある。  次に、本拠点と直接関わる近年の研究成果の一部を紹介する。第一に、フィールドワークにもとづくオーソドックスな地域研究では、フィールド医学、開発経済学、資源管理論、農業経済学、人類学などの分野で顕著な成果が上がった。例えばフィールド医学では、アジアの発展途上国で所得が上昇する前に高齢化が進み、高齢者医療の必要性が高まっていることが明らかにされるとともに、現地の社会ではさまざまな伝統医療やコミュニティー・ケアが機能しており、先進国の参考になるような事例も少なくないことが示された。ここで重要なことは、この場合の「病気」や「ケア」の概念を理解するには、現地社会の価値観、制度、環境上の制約などの理解が不可欠だということである。一つの問題の理解に地域研究の総合力が要求されるという認識を事業推進担当者全員が実感として共有しているのが、本拠点の最大の強みである。  第二に、地域と世界のあいだを結ぶ、「アジア」、「東南アジア」などの概念を歴史的、社会科学的、政策的に吟味する研究でも注目される成果が見られた。例えば白石は、東アジア地域秩序の形成と変容を分析し、国民国家システムにもとづく西洋型国際秩序だけでは捉えきれないアジアの政治の「かたち」を分析した。また杉原は、ウェスタン・インパクト以前に起源を持つ東アジアの経済発展径路が20世紀後半の「東アジアの奇跡」に重要な役割を果たしたと論じた。アジア、アフリカ地域に重層的に存在する歴史的な径路依存性の理解は、今後の技術、制度の発展の方向を見極めるために不可欠であるとともに、ミクロな現象をグローバルな傾向と結びつける際の鍵を提供する。こうした文献研究、歴史研究との共同作業をしてきたメンバーが多いことも本拠点の強みである。  第三に、生存圏研究所では、主として森林圏に関係する木質科学の専門家、レーダーや衛星写真などを用いて大気圏を観測し、気候の変動を解明する研究者、宇宙圏のエネルギーを地上に送りこむ技術の開発に取り組む人たちなどが、それぞれの分野で成果をあげてきた。ここでの文脈にとっては、かれらの関心が、さまざまの学問的理由で日本からアジア、アフリカ地域に広がっており、すでにかれらが本拠点が対象とする地域で実験、観測、調査の経験を持っていること、その経験をつうじて地域の理解の重要性を十分認識していることが重要である。  最後に、東南アジア研究所などの地域研究所部局と生存圏研究所など自然科学系部局の協力関係が近年ますます密接になってきたことを強調しておこう。インドネシアを例にあげると、東南アジア研究所と生存圏研究所(およびその前身)は、下に示したように、それぞれの関心から長年にわたって現地との関わりを持ってきたが、現地の研究者と協力して持続型生存圏の構築を考えるには、地域研究と生存圏研究の融合が必要であると判断し、昨年共同で国際会議を開催した。これが本拠点を構想するきっかけの一つとなったのである。



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