jikotenken_2012naito
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- 3 - 物多様性の維持、地域社会との関係、バイオエネルギーの開発などのテーマを総合的、体系的に解明しようとした。 第三に、人間圏の理解を、従来の公共圏中心のものから、家族などの親密圏を基礎とし、それに支えられ、そこから展開していくものとして公共圏を捉える見方に転換する方向で、見直しを図った。公共圏の価値を自由、平等、博愛、そこでの活動の特徴を生産、労働で捉えるとすれば、親密圏の価値は愛情、尊重、尊厳であり、そこでの活動の特徴は生存、ケアだとも言えよう。現在われわれが行っている地域研究の成果も、このような視点から位置付けることによって日本を含む先進国の社会の問題点と切り結ぶことができるように思われる。 第四に、人間開発指数に代わる「生存基盤指数」の開発を試みた。従来の指数が一人当たりGDP、教育、健康など人間圏、それも比較的経済・社会の発展にかかわる指標のみを対象としていたのに対し、われわれは地球圏(災害への対応力、エネルギーの確保など)、生命圏(生物多様性、バイオキャパシティーなど)にかかわる指標を人間圏と同等に重要なものとして扱い、さらに人間圏の指標のなかにも生存にかかわるものを重点的に取り入れることによって、地域社会の生存基盤の実態に迫ろうとした。 成果の発信 われわれは、持続的生存基盤パラダイム形成の中間的成果としてとりまとめた単行本『地球圏・生命圏・人間圏―持続的な生存基盤を求めて』(京都大学学術出版会)を2010年3月に刊行し、書評(『アジア・アフリカ地域研究』など)や合評会をつうじて多くの建設的な反応を得ることができた。そして、それらを踏まえて、英語版を準備する(翻訳を終え、出版社と交渉中)とともに、最終成果である『持続型生存基盤論講座』(全6巻)の刊行に向けた共同研究の体制を構築した。すなわち、イニシアティブ1を基礎とした「第1巻 環境・技術・制度の長期ダイナミクス」、イニシアティブ2を基礎とした「第2巻 生命圏の再構築」、イニシアティブ4を基礎とした「第3巻 人間圏の再構築」、イニシアティブ3を基礎とした「第4巻 熱帯バイオマス社会における生存圏と生存基盤」、2010年度に始めた第二パラダイム研究会の成果を基礎とした「第5巻 生存基盤指数」、さらに大学院での教育と図書・資料ユニットでの検討を基礎とした「第6巻 持続型生存基盤論ハンドブック」の6巻を2011年度中に執筆し、刊行準備を完了する方向で作業を進めた。 また平成22年度においては、本プログラムメンバーに加えて、国内外から関連研究者を招へいして、パラダイム研究会を10回、国際シンポジウム・セミナーを13回、その他、イニシアティブ研究会・ワークショップを多数主催・共催した。また、その成果を速報として公開するワーキングペーパー12冊を刊行した。国際会議での招待講演も、Annual Meeting for the 109th American Anthropological Association(New Orleans)におけるNoboru Ishikawa, ‘Searching Radically Different Southeast Asia: From Non-State Centred Perspective’, Asia-Pacific Economic and Business History Conference (Berkeley) におけるKaoru Sugihara, ‘Patterns and Development of Intra-Asian Trade, c.1950-1980’など、積極的に実施した。さらに本プログラムによるこうした刊行物に加えて、『東南アジア研究』、『アジア・アフリカ地域研究』、Kyoto Review of Southeast Asia, African Study Monographsなどにおいても、本プログラムに関係する論考が現れている。

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