jikotenken_2012naito
5/180

- 2 - 2.プログラムの目標と進捗 パラダイムの形成 本拠点形成の第一の目的は、自然生態、政治経済、社会文化を包摂した総合的地域研究に人類の生存基盤を左右する先端的科学技術研究を融合させて、「持続型生存基盤パラダイム」研究を創成することである。 近年のアジア・アフリカにおける総合的地域研究の成果から、人間の活動範囲が政治経済のグローバリゼーションによって地理的・空間的に拡大しつつあることに加え、地域はグローバリゼーションの単なる受け手ではなく、地域間交流などを通じて、グローバリゼーションそのものに影響を与える能動的な主体であることが明らかになった。一方、現代社会の要請に応え、地球環境問題、エネルギー問題を視野に入れた21世紀世界を展望するには、資本主義が前提としてきた私的所有権からの発想を相対化し、地表から宇宙までの空間的広がりをもった「生存圏」の物質・エネルギー循環に関わる研究を取り込み、ローカルにもグローバルにも持続可能で、かつ、科学技術・社会制度・価値観の考察を包摂した、新たな生存基盤持続型発展径路を構築するためのパラダイムを創出する必要がある。 具体的には以下の4つの研究イニシアティブを通じてパラダイム研究を推進する。イニシアティブ1「環境・技術・制度の長期ダイナミクス」は、人類が「生存基盤の確保」を主たる課題としてきた社会から、生活水準の向上や人口の増加、国力の増大を目指す「開発」型の社会に変化してきた過程を歴史的に解明し、先端科学の知見とつきあわせることによって、現代のアジア・アフリカ地域の環境、技術、制度にかかわる問題群を再検討する。イニシアティブ2「人と自然の共生研究」は、従来の地域に根ざした資源利用システム研究と、物質・エネルギー循環の危機を背景にした新しい研究・知見を融合させて、社会文化的に実現可能な資源利用システムを提言する。イニシアティブ3「地域生存基盤の再生研究」では、より大きな一地域(スマトラ・リアウなど)をとりあげ、森林の再生、第一次産品輸出経済の発展と周囲の植生、制度、雇用、地方政治との絡み合いを総合的に考察し、持続型発展のモデルを追究する。イニシアティブ4「地域の知的潜在力研究」は、人類の多様性を保証してきた文化、価値観のなかに、生存基盤の持続的発展の要因を探る。 これら4つの研究イニシアティブにおける取り組みの成果として、これまでに明らかになった知見は、次の三点にまとめられる。その第一は、人間と自然環境の関係を、これまでのように人間(開発)の側からだけ、あるいは自然環境の維持の立場だけから考えるのではなく、両者の相互関係を考慮した上で、人類の「生存基盤」をどのように持続させていくかという視点が重要だということである。われわれは、そうした視点を確立するために、グローバル・ヒストリーを書き直したり、生命を連鎖体として見る在来の「生存基盤の思想」を読み解いたりした。 第二は、人間と自然環境との関係を二項対立的に捉えるのではなく、「地球圏」、「生命圏」、「人間圏」という、長い歴史と固有の運動の論理をもった三つの圏が交錯して成立する「生存圏」として捉えることによって、これまで注目されていなかったさまざまな領域の問題を可視化し、総合化することができるのではないかということである。具体的には、大気の動きと降雨、植生の関係を学際的に研究することによって「熱帯生存圏」の諸相を理論的に解明するとともに、東南アジアの大規模植林をとりあげて、そこにおける生態系と生

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です