inspectionFY2009
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70 12. おわりに-今後の展望- アジア・アフリカの地域研究に携わる研究者と、先端技術の開発に関わる科学者との学問的対話を促進するために、「持続型生存基盤パラダイム」という新しい考え方を提案し、地球温暖化のアジア・アフリカの地域社会への影響といった緊急の課題に答えるべく、ローカルな、あるいはリージョナルな持続的発展径路を追究することを目標として発足した本プログラムの21年度の活動を点検し、若干の評価と今後の展望について記す。 第一は研究分野横断型の研究推進についてである。平成 21 年度にはパラダイム研究会を11回、国際シンポジウム・セミナーを13回、その他、イニシアティブ研究会・ワークショップを多数主催・共催し、研究成果の国際的な発信を積極的に推進した。また、その成果を速報として公開するワーキングペーパー14冊を刊行した。上記国際シンポジウム”The Third International Conference "Biosphere as a Global Force of Change" 開催時のアドバイザリーミーティングにおいて、G-COE全体の目指すパラダイム形成、「生産から再生産へ」というパラダイムシフト、ならびに自然科学と社会科学の統合手法に高い評価が与えられた。 同時に、4つの研究イニシアティブとそれらを総括するパラダイム研究会の活動も活発に展開することができた。これらを通じて見出された知見は次の二点にまとめられる。その第一は、人間と(自然・生態)環境の関係を、これまでのように人間(開発)の側からだけ、あるいは自然環境の維持の立場だけから考えるのではなく、両者の相互関係を考慮した上で、人類の「生存基盤」をどのように持続させていくかという視点が重要だということである。われわれは、そうした視点を確立するために、グローバル・ヒストリーを書き直したり、人間開発指数に代わる「生存基盤指数」の開発を試みたり、生命を連鎖体として見る在来の「生存基盤の思想」を読み解いたりした。第二は、人間と環境との関係を二項対立的に捉えるのではなく、「地球圏」、「生命圏」、「人間圏」という、長い歴史と固有の運動の論理をもった三つの圏が交錯して成立する「生存圏」として捉えることによって、これまで注目されていなかったさまざまな領域の問題を可視化し、総合化する試みである。 これら作業の中間的な成果を、「生産から生存へ」、「地表から生存圏へ」、そして「温帯から熱帯へ」の3つの視点を柱としてとりまとめ、単行本『地球圏・生命圏・人間圏‐持続的な生存基盤を求めて』(京都大学学術出版会)を刊行した。次年度は、これらの知見をさらに練り上げ、国際学術誌への発表を活発化するとともに、英文図書としてとりまとめ世界の公論形成への貢献を目指す。その他の成果出版物として既存のKyoto Working Paper Series on Area Studiesに、G-COE Seriesを設け、年度内に10号出版した。既刊のものと合わせて出版号数は87号となった。 第二は大学院教育の制度整備についてである。大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(ASAFAS)に持続型生存基盤研究講座を設置する方向で制度改革の努力を進めてきた。新しいパラダイムのもとでの人材育成を制度化するため、ASAFAS と人材育成センターの緊密な連携のもとに、協力部局の全面的なサポートを得て、当初計画の

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