inspectionFY2009
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1 1. はじめに 本プログラムは、アジア・アフリカ地域の持続的発展に関する学際的研究を、グローバルで長期的な視野から、多面的に行うために創出された。われわれは、アジア・アフリカの地域研究に携わる研究者と、先端技術の開発に関わる科学者との学問的対話を促進するために、「持続型生存基盤パラダイム」という新しい考え方を提案し、地球温暖化のアジア・アフリカの地域社会への影響といった緊急の課題に対応しつつ、ローカルな、あるいはリージョナルな持続的発展径路を追究したいと考える。 本プログラムの主幹部局である東南アジア研究所は、強い学際的な志向を持った京都大学の地域研究の伝統のなかで発展してきた。本プログラムは、アジア・アフリカ地域研究研究科が東南アジア研究所と協力して行った21世紀COEプログラム(2002-2007年)の成果を受け継ぎ、フィールドワークと臨地教育にもとづく大学院教育を継続するとともに、「持続型生存基盤コース」を新設し、若手研究者の養成を図る。さらに、生存圏研究所などから森林科学・木質科学、気象学・大気圏科学、物質循環論、エネルギー科学など「サステイナビリティ学」に関連するハードサイエンスの領域を加えて、地域研究における科学的研究の幅を広げる。それによって、先端科学技術の知識を、伝統的な地域研究を支えてきた生態学、政治学・経済学、社会学・人類学、歴史学、医学の知識と融合させ、これまでの体制よりもはるかに幅広い人文科学、社会科学、自然科学の諸分野につうじた地域研究の専門家や科学者を養成する。 3年目にあたる平成21年度の第一の目標は、7月に実施された中間評価ヒアリングの準備と並行して、中間的な成果をまとめることだった。なかでもパラダイム形成を現段階で総括した論文集『地球圏・生命圏・人間圏‐持続的な生存基盤を求めて』(杉原薫・川井秀一・河野泰之・田辺明生編著、京都大学学術出版会、2010年3月)の刊行に大きな力を割き、その編集過程でメンバーの知的協働を深めることができた。他方、引き続き、広い学際性を維持しつつ共通の枠組を発展させるために、パラダイム研究会を11回、国際シンポジウム・セミナーを13回、その他、イニシアティブ研究会・ワークショップを多数主催・共催した。さらに、その成果を速報として公開するワーキングペーパー14冊を刊行した。 教育面では、本プログラムの開始を契機として、大学院アジア・アフリカ地域研究研究科において、平成21年4月に「グローバル地域研究専攻」が設置され、そのなかに「持続型生存基盤論講座」が設置されて、学生定員8名(新専攻全体)でスタートした。持続型生存基盤論講座に準備された講義には、他講座、他専攻からも多くの院生が参加した。 このように、本プログラムは、パラダイム形成と人材育成を両輪として、着実に進展している。幸い中間評価でも、「とくに優れた拠点」との評価をいただいた。次年度においては、最終成果に向けて、数巻の持続型生存基盤論講座と英文論文集の刊行の準備を始めたい。東南アジアにおける森林プロジェクトの具体化も進める予定である。 平成22年5月31日 拠点リーダー 杉原 薫

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