inspectionFY2008
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68 12. おわりに-今後の展望- これまでの自己点検を総括し、評価と展望を加える。 アジア・アフリカの地域研究に携わる研究者と、先端技術の開発に関わる科学者との学問的対話を促進するために、「持続型生存基盤パラダイム」という新しい考え方を提案し、地球温暖化のアジア・アフリカの地域社会への影響といった緊急の課題に答える、ローカルな、あるいはリージョナルな持続的発展径路を追究することを目標として発足した本プログラムの20年度の活動を点検し、若干の評価と今後の課題について記す。 第一は研究分野横断型の研究推進についてである。平成 20 年度には20回の国際シンポジウム・セミナーを主催・共催し、研究成果の国際的な発信を積極的に推進した。とりわけ、平成21年3月に開催した "Biosphere as a Global Force of Change: The Second International Conference" (参加者95名、うち外国人30人)では、国際的に第一線で活躍する研究者やアジア・アフリカ諸国の開発の現場に関与する現地研究者等に参加していただき、社会と環境という21世紀の人類社会が共通して取り組むべき課題に対する独創的、総合的アプローチであると高い評価を得た。同時に、4つの研究イニシアティブとそれらを総括するパラダイム研究会の活動も活発に展開することができた。これらを通じて見出された知見は次の二点にまとめられる。その第一は、人間と自然環境の関係を、これまでのように人間(開発)の側からだけ、あるいは自然環境の維持の立場だけから考えるのではなく、両者の相互関係を考慮した上で、人類の「生存基盤」をどのように持続させていくかという視点が重要だということである。われわれは、そうした視点を確立するために、グローバル・ヒストリーを書き直したり、人間開発指数に代わる「生存基盤指数」の開発を試みたり、生命を連鎖体として見る在来の「生存基盤の思想」を読み解いたりした。第二は、人間と自然環境との関係を二項対立的に捉えるのではなく、「地球圏」、「生命圏」、「人間圏」という、長い歴史と固有の運動の論理をもった三つの圏が交錯して成立する「生存圏」として捉えることによって、これまで注目されていなかったさまざまな領域の問題を可視化し、総合化することができるのではないかということである。具体的には、大気の動きと降雨、植生の関係を学際的に研究することによって「熱帯生存圏」の諸相を理論的に解明するとともに、東南アジアの大規模植林をとりあげて、そこにおける生態系と生物多様性の維持、地域社会との関係、バイオエネルギーの開発などのテーマを総合的、体系的に解明しようとした。これらの作業の中間的な成果は、近く刊行される『地球圏・生命圏・人間圏-持続型生存基盤とは何か-』(京都大学学術出版会、印刷中)にまとめられている。今後は、これらの知見をさらに練り上げ、国際学術誌への発表を活発化するとともに、英文図書としてとりまとめ世界の公論形成への貢献を目指す。 第二は大学院教育の制度整備についてである。大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(ASAFAS)に持続型生存基盤研究講座を設置する方向で制度改革の努力を進めてきた。ASAFAS と人材育成センターの緊密な連携のもとに、協力部局の全面的なサポートを得て、当初の計画だった「持続型生存基盤コース」の新設よりもさらに本格的な講座の設置を進めたのである。その結果、平成21年4月に大学院アジア・アフリカ地域

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