inspectionFY2008
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32いて議論を深めることができた。鹿児島に見られる制度は、タイなど東南アジアとの類似性がある。また第2日目には、鹿児島県南さつま市の旧加世田に行き、そこで古老の方2人を囲んで、鹿児島地方の特異な家族・村落制度について座談会を開催した。座談会では、「門」(かど)と呼ばれる(擬似)親族集団が今でも生きていることが明らかになった。また男子の末子相続が基本であることも明らかになった。座談会の後、実際に古老の家と「門」、および「門」の墓地を実地見学した。以上のように、本年度は、日本のムラおよびそれとはやや異なる形態を見せる鹿児島の村落について研究を深めた。 「東南アジアの工業化と資源」研究会(代表 杉原薫) 戦後の東南アジアにおける急速な工業化の背景には、一方ではこの地域が西洋列強の植民地支配やアメリカ主導のグローバリゼーションの影響を受けると同時に、明治の日本に始まる東アジア型工業化の影響を受けたという歴史的事情がある。本グループでは、西洋の資本集約型・資源集約型工業化とは異なる労働集約型・資源節約型の工業化が東南アジアでどの程度実現したのかについての理解を深めたい。 本年度は、2008年12月20~21日に、基盤研究B「インドにおける労働集約型経済発展と労働・生活の質に関する研究」および拠点大学事業・プロジェクト9「アジアの国際経済秩序」(2006-2008年度)との共催で、「東南・南アジアの労働集約型工業化」を比較経済史的に検討するための国際ワークショップを開催した。インド研究からは、招待したTirthankar Roy氏(ロンドン大学)と主要メンバー6名が成果を発表し、東南アジア・プロジェクトからは、タイと日本からそれぞれ二人のメンバーが成果を報告した。また、グローバルCOEで進めている比較史的視点と融合させるべく、外部からインド(石井一也)、中国(リンダ・グローブ)、日本(谷本雅之)の専門家を呼んで、労働集約型工業化と環境制約の地域差との関係について議論した。これらの試みの一部は、2009年8月にユトレヒトで開催される世界経済史会議のセッションでも続けられる。 プロシーディングズのほか、バンコクの工業化に関するPorphant Ouyyanont氏の報告の改稿版がワーキングペーパーとして、急逝されたSomboon Siriprachai氏の報告が、遺稿集の一部として、それぞれ刊行される予定である。 6.3 研究イニシアティブ2 研究イニシアティブ2では、人間の生存圏(humanosphere)がsustainableであるためには、地球圏(geosphere)や生命圏(biosphere)に蓄積された資源を切り取って利用するのではなく、地球圏における水・熱・大気の循環する力と、生命圏における動植物の再生する力を利用した新しい人と自然の関係について考えることを1年目の課題としてかかげた。人間側の論理を前提にするのではなく、地球圏や生命圏の成立の歴史を理解し、その論理を十分にふまえた未来型の技術開発や制度構築を考えるために、我々の活動方針をNature-Inspired Technology and Institutionsとして議論を進めた。 2年目である2008年度においては、地球圏・生命圏・人間圏の関係性に焦点をあてた研究活動をおこなった。それぞれの圏の形成と維持に他の圏がどのように関わっているのか、また、地球圏・生命圏の論理と、人間圏の論理とはどの程度整合的なのかについても検証した。そうした課題を、国内研究会、海外連携フィールドワーク、国際シンポジウム

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