inspectionFY2007
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29 イム形成と個別研究との関係をどのようにつけるのか、とくにすでに特定の研究に携わっている院生や若手研究者とどのように協力して、5年という時間の枠のなかで成果を出していくのかといった問題が出されたり、報告者が使ったいくつかの概念がわかりにくく、特定のディシプリンのなかでは流通していても幅広い文理融合のための作業概念になりうるのかという点に強い懸念が表明されるなど、率直な意見交換が行われた。理系(主として生存圏研究所、農学研究科など)の研究者と、これまで地域研究のなかで文理融合的な研究をしてきた者とのあいだの知的インフラのギャップを埋めることの重要性も認識された。終了後G-COE開始式典を開催し、松本紘理事、参加部局の長などから祝辞をいただくとともに、懇親会を開いて親睦を深めた。 これらの課題をふまえて、続く5回の研究会では、文理のバランスをとりつつ、相互理解と問題点の共有が可能なテーマを選んで議論が進められた。若干の例を紹介すると、生存研でバイオマスエネルギー利用のための技術開発に携わっている渡辺氏、宇宙太陽光発電の研究に従事してきた松本氏、大村氏の報告では、21世紀における化石燃料からクリーンエネルギーへの転換の趨勢と、それが東南アジアなどの熱帯地域に持つ意味が議論された。バイオマスエネルギーの生産は、環境面でも経済面でも未解決の問題が多いが、成功した場合は中東での原油の採掘よりも、現地社会の労働集約的産業や雇用にはるかに大きな影響をもたらすであろう。地球温暖化に促されたエネルギー転換は、人類にとっての熱帯資源の意味を変える可能性を持っている。 これに対し、歴史学・地域研究の側からは、熱帯の資源・環境が経済・社会の発展径路を規定してきたこと、逆にそうした発展径路が資源利用の型を決めてきた側面もあること、技術開発はそうした径路依存性を十分考慮して行われるべきことが指摘された。温帯に属する東アジアと熱帯に属する東南アジアの農業発展径路を比較すると、異なった環境の下で異なった「生命体複合」が成立してきたことがわかる。そのような均衡を無視して新しい技術や制度を持ち込むと、環境、技術、制度のダイナミクスが十分に働かなくなる可能性がある。歴史的には植民地期における制度の温帯から熱帯への直接的移植、現代のアフリカではグローバリゼーションによる社会・生態システムの急激な変化がその実例である。 パラダイム研究会は、柳澤、河野、杉原を中心に、研究会ごとに結果を議論し、プログラムの進行状況にあわせて次の研究会を設定するかたちで組織された。具体的には、他のイニシアティブの研究会、国際ワークショップ、若手養成研究部会の研究会などでの議論の動きを見ながら全体の方向を探ることを課題として運営された。必要に応じて、外部からも報告者、コメンテーター、参加者を招待した。 第1回国際シンポジウム パラダイム研究会の成果をふまえて、第1回国際シンポジウムが、2008年3月12-14日に京大会館で開催された。石川登氏を実行委員会委員長とし、パラダイム研究会に配分された予算のほとんどを使って、文字通りプログラムの総力をあげた事業であった。会議では、パラダイム形成と、歴史、生態、森林・バイオマス社会、ローカルノレッジに焦点をあてた5つのセッションと総括セッションが準備され、中心メンバーによる7本を含む合計16本の報告をめぐって活発な討論が行われた。当初は実質的な討論のための少人数

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