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G-COEプログラムにおける研究課題:孫暁剛

■現在までの研究内容
  東アフリカの乾燥・半乾燥地域では農作物の生産性が低く、専業牧畜や半農半牧、あるいは商業牧畜といったかたちで、多くの人びとが家畜につよく依存して生活している。そしてこの人びとは現在、干魃の頻度が高くなるといった自然環境の変化だけではなく、政治的・経済的なグローバル化にともなう社会環境の激動にも直面している。私は、現代アフリカにおける遊牧という生業の持続性とその動態を、生態と社会の両面から明らかにすることを目的として、主としてケニアのレンディーレ社会を対象とする研究に従事してきた。
  レンディーレ・ランドの自然環境は、降水量が少なく、その地域的・季節的な変動が大きくて、不定期に旱魃が発生するという「非平衡生態系」の特徴をもつ。1970年代の研究によると、人びとは降雨と牧草分布の季節的な変動とそれにともなう畜産物の供給量の変動に応じて、集落と放牧キャンプの離合集散を繰り返しつつ、高い移動性を維持してきた。けれども現在では、開発援助の実施とともにこの地域に町場が急速に拡大・発展したことにともない、集落の大半が町場の近くに定着し、人びとは町につよく依存する生計を営むようになった。しかしながら町や定住集落の周辺だけでは多くの家畜を維持することができない。レンディーレは、集落と放牧キャンプのセットからなる居住形態を維持しつつ、定住集落には既婚者を主体とするメンバーを配置し、放牧キャンプは未婚者を中心に運営することによって、家畜群の高い移動性を維持していた。このように、集落と放牧キャンプのあいだの分業を徹底化することが可能になった背景には、放牧地や水場といった自然資源を共同利用する慣習が維持されていることや、年齢体系にもとづく分業体制や出自に依拠した協力関係が機能していることが重要な役割を果たしていることが明らかになった。
   レンディーレはまた、定住化にともなう現金経済の浸透に対しては、町の商店と「つけ買い」の信用関係を結び、一時的な現金不足に対処しつつ必需品を購入していた。さらにまた、開発援助組織が導入した技術を応用して新しい井戸をつくったり、市場価値の高いウシを増やしたり、あるいは都市部に出稼ぎにいく現象も増加している。しかし人びとは、現金経済に対処する手段としてウシを評価する一方で、生計の基盤をあくまでも自然環境の変動につよいラクダに置き続け、それに高い価値評価を与えていた。また、個人が新しい井戸をつくった場合にも、それを広い社会関係のなかで利用することによって共同体的な資源利用を貫徹していた。さらに、出稼ぎによる収入の一部で家畜を購入している事例にもあらわれているように、人びとは新しい経済活動に積極的に参加しながらも、家畜を高く評価し温存しようとしていた。このようにレンディーレは、外的な影響に柔軟に対応しつつ、家畜とともに築いたライフスタイルを維持し、そのうえで新しい経済活動を模索していることを明らかにした。

■今後の研究について
  私はレンディーレの研究において、生態と社会・経済との関連や、生業経済と地域経済システムの相互関係、そして通時的な変動という視点から総合的に分析することを試みた。その結果、人びとが不確実性を特徴とする自然環境と急激な社会環境の変化に対処しながら遊牧生活を維持できたのは、自然資源の共同利用と社会的な協力関係に支えられた高い「移動性」と、新しい経済活動を模索し生業の多角化を試みつつ、生業経済の中心に家畜を置く「柔軟性」であることが明らかになった。
  今後はアフリカやアジアの遊牧諸社会に視野を広げ、遊牧民をとりまく生態環境と経済・政治・社会・歴史のあいだの複合的な相互作用の動態を包括的に把握しつつ、資源の所有・利用・管理・分配のあり方や、自然災害に対する互酬的なセーフティネットとその変化に焦点をあてた比較研究を展開し、遊牧民の生存基盤である持続可能な資源利用のあり方について検討したい。また、生業の多角化を切り口として、グローバリゼーションや市場経済が浸透するなかで人びとが生業としての遊牧を維持しながら経済的・社会的な変動に能動的に対処する「知的潜在力」を明らかにしたい。これは遊牧社会における持続型の発展の要となる。


定住か遊牧か、遊牧民はその両方から新たな可能性をこころみている。


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