G-COEプログラムにおける研究課題:佐藤史郎

本研究の目的は、国際関係論の方法論と認識論を再考することにある。国際関係論は、主として、西洋の価値、倫理、思想、法、歴史などを基盤としているため、アジア・アフリカといった非西洋地域の出来事・現象をうまく説明できないケースがある。たとえば、西洋にとってナショナリズムとは、その排他性ゆえに2つの世界大戦を引き起こした要因の1つである以上、平和を実現するためには克服すべき重要課題であった。他方で、アジアに目を転じれば、インドのケースが示しているように、ナショナリズムがあったからこそ、植民地からの独立を果たすことができたのである。すなわち、ナショナリズムは、西洋にとって悪であるものの、アジアにとっては必ずしも悪ではない。本研究では、「生存基盤」の意味を「主権国家」として狭義に定義づけている。ここでの「パラダイム」とは、西洋的国際関係論に、非西洋的国際関係論という視座を加えたものである。このパラダイムなくして、主権国家間の出来事・現象を多角的かつ的確に捉えることはできない。この「生存基盤」の新たな「パラダイム」は、「人間圏」を中心とする(しかも国家に重点を置いた)見方に過ぎないため、「生命圏」や「地球圏」を射程に入れているとはいいがたい。しかし、「人間圏」の社会的構成物の1つである主権国家群が、「生命圏」と「地球圏」に与えている影響を踏まえれば、主権国家関係を多角的かつ的確に捉えるための枠組みを提示する本研究は、「生存基盤持続型パラダイム」の創生に欠かすことのできない研究と思われる。


Global COE Program 京都大学:生存基盤持続型の発展を目指す地域研究拠点
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