TFSメンバー紹介神田靖範:(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 アフリカ地域研究専攻(博士課程))

研究の概要

テーマ:「 農村研究と開発実践 」

≪半乾燥地における自然と生業の相互関係≫

 調査地はルクワ湖の南東に広がる湖畔平原に位置し、アカシア林とシンクシ科樹林がモザイク状に混在するウッドランドです。シクンシ科樹林帯では主食作物であるソルガムを中心とした畑作がおこなわれ、アカシア林帯で水田稲作が展開しています。植生の違いにより作目がはっきりと分かれている原因に土壌がありました。この地域のアカシア林には、土壌表層にクワンクワと呼ばれる不透水層が存在し、畑作には適さないが、水田の貯水には都合がよく、これが半乾燥地での水稲栽培を可能にしたものと考えています。外部から持ち込まれた畦畔技術によって、不透水層というアカシア林の生態学的ポテンシャルが顕在化され、ここを居住域とするワンダは、植生と土壌の関係、表流水と植生の関係、牛耕といった在来の知識と技術をうまく活用することによって、水田稲作を地域に普及し、内在化させました。

 現在は水田環境の養分循環に関心を持ち、ミミズの調査を進めています。

 

≪アカシア・ウッドランドでの農耕民ワンダと農耕牧畜民スクマの共生関係

 農耕牧畜民スクマはワンダが農耕に利用してこなかったアカシア林帯への移住を認められ、ワンダとは農地を競合することなく居を構えていきました。この地で、スクマは畦畔を造成した水田稲作を開始し、その可能性を実証します。コメの換金作物としての価値が高まるにつれて、スクマは多数保有するウシを原動力として、水田を拡大していきます。水田から得た収入はウシ、ヤギなどの家畜に換え、飼養頭数も増加させていきます。この結果、スクマとワンダの間には大きな経済格差が顕在化するとともに、スクマのウシによる農作物の食害などが頻発して、両者の間に緊張が高まっていきます。ワンダはスクマとの経済格差を容認しながら、スクマに雇われ、水田で働きながら新しい稲作技術を習得していきます。そして、ワンダ社会の中で不足する耕耘用のウシを、スクマ社会で育まれたウシ預託の慣習(クビリサ)を活用しながら、ウシの絶対数を増加させ、牛耕への多様なアクセス方法を創出することで、水田稲作を在来の生業システムに取り入れました。民族の枠を超えたウシの貸し借りが、ワンダとスクマの共生関係の一端を担っていることが明らかになりました。タンザニアでは牧畜民の多頭飼育と移動により、農耕民との間で衝突が頻発しています。そこでは、多頭飼育によるネガティブな一面だけが強調されていますが、厳しい環境下での再生産機能としての大規模牛群の重要性は伝えられていません。

 今後は、ワンダ・スクマの関係を多頭飼育の持つ意義といった視点から深めていきます。

 

≪フィールドワークと実践活動を通じた、地域発展プロセスの探究と農村開発手法の構築≫

 地域が抱える問題群のより深い理解とその解決を視野に入れた研究アプローチを模索しています。それは、問題解決に向けた実践活動を住民とともに実施しながら、そのモニタリングを継続することで、地域発展の普遍性を見出し、農村における問題解決手法を構築する試みでもあります。

 私たちは、フィールドワークによって学んだ、地域の内発的な発展事例の一つである、住民自らが、水田稲作を生業に組み込み、地域に内在化させたプロセスに焦点をあて、科学的な分析データを交えながら調査結果を報告しました。そして、このような生業システムの変容は所得の向上をもたらしましたが、一方で、稲作に適したアカシア林の開墾を助長し、放牧地が減少するという問題が生じ始めたことを参加者と共有しました。この問題は、その後に開催された村民会議でも議題として取り上げられ、問題解決に向けた活動の構想と実践を担う住民グループが結成されました。調査結果の報告会は、調査から実践へと移行するうえでの、ターニング・ポイントとして機能し、私たちと住民とローカルな知識を共有する有効な場となりました。また、外部者の視点から見えてきた問題点を提示する機会にもなり、私たちが地域の発展に向けた外部情報も提供しうる「内部者」と認知される契機になりました。農村開発における実態把握の意義は、地域が抱える問題の抽出と原因の解明のみならず、地域住民との信頼関係を築く根幹になるものと考えます。



調査地: タンザニア連合共和国ムベヤ州ボジ県カムサンバ郡ウソチェ村

 

調査・渡航歴:

2004年7月~05年7月(12ヵ月間):フィールドワーク

2006年8月~9月(35日間):調査報告会と住民グループの結成

2007年2月~3月(44日間):実践活動の支援とモニタリング、フィールド調査

2007年5月~6月(26日間):実践活動の支援とモニタリング

2007年7月~8月(27日間):実践活動のモニタリング、広域調査

2007年11月~12月(24日間):実践活動の支援とモニタリング

2008年5月~7月(59日間):実践活動の支援とモニタリング


業績

学位論文:

 

口頭発表:


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