藤田素子 FUJITA, Motoko 

研究テーマ


人間の影響の強い環境下では,土地利用の違いが,多くの生物の在・不在に関わってきます.たとえば,二次林や水田の多い田園環境と,住宅地に囲まれて孤立した森林が点在する都市環境では,生息する種が異なります.私は鳥類を対象として,このような人為的な環境の違いで,生物相がどう変わるのか,そしてその結果として,どのような生態系機能の違いが出てくるのかを,特に栄養塩(窒素・リン)の運搬に着目して研究しています.
 

都市景観における鳥類による栄養塩の運搬


修士・博士課程を通じて,森林生態系の物質循環に鳥類の排泄物が果たす役割について研究してきました.調査していた都市域の分断林では,山地帯にくらべ森林性鳥類の個体数が多く,排泄物を介して山地帯の森林の2倍以上,カラス類のねぐらでは山地林の70~100倍もの窒素・リンが降下していました.

鳥類個体数が多い理由は森林内の餌資源量だけでは説明できず,森林外の餌資源,つまり住宅地などで採餌するためと考えられます.実際,排泄物の安定同位体比や炭素・窒素・リン含有量を測定した結果からも,カラス類のねぐらでは森林外の餌(ゴミなど)を採餌していることが示唆されました(Fujita&Koike 2007).

そこで,森林外からの栄養塩加入量を推定するため,トータルの栄養塩加入量から,森林内で採餌して排泄する内部循環量を引いた量を系外からの加入量としました.すると,カラス類のねぐらでは系外加入量が内部循環の68~80倍にもなりました(Fujita&Koike 2009).

鳥類排泄物による栄養塩加入量を,森林生態系に加入する様々な経路からの加入と比較し,その肥料的効果について検討してみますと,例えばリンの主な加入経路としては降水や岩石の風化が知られますが,その合計と比較すると鳥類排泄物由来のリンは都市分断林で3.6%,ねぐらでは265.4%もの降下量がありました.酸性雨などで過剰気味の窒素と比べ,リンは欠乏気味なので,鳥類の排泄物はリンの加入経路として重要な役割をもつことが明らかになりました.

 

リン制限のかかる山地性熱帯雨林における鳥類による栄養塩の運搬

現在は,土壌中のリンが極端に少ない山地性熱帯雨林であるマレーシア・キナバル山を調査地とし,リン制限のかかる生態系では鳥類による内部循環のフローが増すことで重要な働きをしているという仮説を検証中です.
 

東南アジア・アカシア大規模植林地における鳥類の多様性



熱帯地域は生物の宝庫で,なかでも東南アジアの熱帯林は生物多様性が高いことで知られます.しかし近年,東南アジア各国の熱帯地域では天然林が消え,かわりにアカシア,パラゴムノキ,アブラヤシなどの大規模な面積に植えられるプランテーションが激増しています.これらのプランテーションからの産物であるパルプ材,ゴム,油ヤシは商品価値が高く,地域社会の重要な産業基盤になっています.さらに最近では,温暖化の一因である化石燃料の使用を止め,バイオマス由来のエネルギーに切り替えるという世界的な動きにより,その需要はより高まると予想されます.

このような変革が,これまでの化石資源中心の社会に対する解決策になる可能性はありますが,一方で熱帯林の大規模プランテーション化はそこに生息する生物に甚大な影響を及ぼし,生物多様性を大きく減少させるという負の側面があります.高度バイオマス社会では,化石エネルギー社会以上に,人間による生態系への関わりかたが強くなっていくと考えられます.特に天然林を伐採して大規模プランテーションを造成する場合にはその影響は無視できず,生物多様性が脅かされる危険があります.生物多様性の減少は人類の生存基盤を脅かすものであり,持続可能な高度バイオマス社会を築くうえでは,大規模プランテーションで生物多様性をいかに維持するかという問題を避けて通ることはできません.つまりプランテーションという環境は,経済活動と環境保全とのバランスが要求される現代社会の縮図ともいえます.生物多様性保全のホットスポットなどではなく,むしろ生態系に与える負の影響が大きいプランテーションは,産業と生物多様性保全の妥協点を探るために,今後重点的に研究されるべき場所だと思います.

私は主に鳥類に着目し,大規模プランテーション化などの土地利用変化が鳥類多様性に及ぼす影響を研究しています.プランテーションの周辺や内部にもとの熱帯林を残すなどの景観レベルでの管理(ランドスケープ管理)を行うことによって,鳥類多様性の減少が抑制されることを示し,大規模プランテーションにおけるランドスケープ管理の可能性を考えたいと思っています.

参考ページ

2008年度 次世代研究イニシアティブ研究成果報告ページ
 

業績リスト

査読付き原著論文

過去の学会発表

履歴書


連絡先

京都大学 東南アジア研究所 特定研究員(グローバルCOE)
606-8501 京都市左京区吉田下阿達町46
075-753-9646 (Tel&Fax)
fujita(at)cseas.kyoto-u.ac.jp

学歴

2007年3月, 博士(環境学)
横浜国立大学大学院 環境情報学府

2003年3月, 修士(学術)
横浜国立大学大学院 環境情報学府

2001年3月, 学士(理工)
東京理科大学 理工学部

職歴

2008年4月–現在, 特定研究員(グローバルCOE)
京都大学東南アジア研究所 グローバルCOEプログラム「生存基盤持続型の発展を目指す地域研究拠点」

2007年5月-2008年3月, ミッション専攻研究員
京都大学生存圏研究所


 

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Global COE Program 京都大学:生存基盤持続型の発展を目指す地域研究拠点
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