「自然によりそう技術、ケアとともにある制度」 [ イニシアティブ4 合同研究会 ](若手研究者養成・研究部会 研究会)

日 時:2011年2月11日(土)〜12日(日)
場 所:KKRホテルびわこ http://www.kkrbiwako.com/index.htm

 

【趣旨】

 大規模な環境変動やエネルギーの枯渇が抜差しならない問題となりつつある現在、私たちはいかなる価値観をもち、いかなる方向を目指すべきかを再考する必要性が高まっている。本GCOEプログラム「生存基盤持続型の発展を目指す地域研究拠点」では、持続的に人々の「生存」を支える社会を構築するためには、人間社会のあり方と同時に、環境――地球圏geosphereと生命圏biosphere――の仕組みを理解したうえで、それらの圏と人間社会の共存を目指すべきだとし、多分野の研究者が連携しながら議論を進めてきた。

 

 GCOEプログラムは4つの研究班(イニシアティブ)に分かれるが、そのなかで人類学・地域研究を中心とし、人間社会のあり方について考えてきた「イニシアティブ4」では、(1)資本の蓄積と生産性の向上を核とする既存の政治経済的なパラダイムを見直すこと、また(2)公共的な政策と自由競争市場による問題解決の限界を認識し、親密圏的なつながりを再構築していくことが重要であるとの認識のもと研究を進め、またプログラム内外の若手研究者を招いてこれまで3度の合宿シンポジウムを開催してきた。各シンポジウムのタイトルは「生存を支える『地域/研究』の再編成」(2008年度)、「人間圏を解き明かす」(2009年度)、「人間圏の再構築に向けて―親密圏・レジリエンス・知の接合」であるが、そこに含まれるキーワードには研究の深化も示されている。

 

 第4回となる本シンポジウムでは、持続的な人間圏の構築に向けたキー・イシューとして、人格間の相互依存性を承認しケアの実践を指向する制度 (care-oriented institutions) と、生命圏の論理によりそう技術 (nature-inspired technologies) と、に焦点をあてた議論をおこないたい。
「ケアを指向する制度」は、人間開発に関する主流の議論は、人格の自立性と人的資本としての個人のエンパワーメントにのみ焦点をあててきたことに対して、生存へのオルタナティブなアプローチを示そうとする試みである。過去の議論では、個々人の生存を保障する制度(例えば国家の福祉制度)と、人格的なケアの営み(例えば地域住民や家族によるケア・介護)とを、互いに対立するものとして捉えてきた。しかし人格間の相互依存性を承認し、具体的な他者へのケアの実践を生存の基礎におく考え方をとるならば、人格間のケアの実践とともにある制度こそが、持続的な人間圏への鍵となる。

 

 また「生命圏の論理によりそう技術」は、一方的に自然資源を収奪・消費することで生産を拡大していく従来の技術に対するアンチテーゼであり、人間の都合でなく、地球圏や生命圏のあり方に即した技術(およびそれを取り巻く実践)を作り上げていこうということである。その視野にはマクロレベルの科学技術からミクロレベルの環境技術までが含まれる。そこでは、生産中心パラダイムと結びついた現代的な科学技術及び科学知と、オルタナティブとしての在来知や在来技術とをどう関係づけていくか、ということが重要な問題となるはずである。

 

 最終回となる本シンポジウムの目的は、以上のような問題について、具体的な事例の検討を通じて分野横断的な議論を行うことで、持続的な生存基盤に向けた人間圏の再構築の方向性を見定めることである。

 

 

 

【プログラム】

 

2月11日(土)

 

10:00 シンポジウムの趣旨説明

 

セッション1 ケアの実践と倫理

 

座長: 西真如
コメンテーター: 岩佐光広、山本晃輔

 

10:20 吉村千恵「報告」

 

11:00 白波瀬達也:釜ヶ崎に暮らす人々への支援 ―世俗的アプローチと宗教的アプローチ

 

11:40 休憩

 

11:50 コメント・討論1

 

12:50 昼食

 

セッション2   支え合いの社会と制度

 

座長: 久保忠行

コメンテーター: 河上幸子

 

14:00 久保忠行 :趣旨説明
:移民・難民とともに生きる社会にむけて

 

14:40 永田貴聖:人類学者がみる、そして、係る在日フィリピン人の社会関係―「支援」以前の問題として

 

15:20 休憩

 

15:30 瀬戸徐映里奈:「食の確保戦略」からみるベトナム難民の定着過程と現状‐兵庫県姫路市を事例として‐

 

16:10 コメント・討論2

 

 

2月12日(日)

 

セッション3  

 

座長: 木村周平

コメンテーター: 生方史数、佐藤史郎

 

9:00 木村周平:趣旨説明「技術・制度・知の接合に向けて」
:SPSはどれほど大きいのか:新たな科学技術をめぐるポリティクス

 

9:40 中空萌:並列的分類と「ポストコロニアル」な知識の生成?:インド・ウッタラーカンド州「人々の生物多様性登録」プロジェクトにおける民俗的知識
の「所有化」

 

10:20 休憩

 

10:30 河合洋尚:植民地期香港における都市開発と風水言説――景観人類学の視点から

 

11:10 コメント・討論3 

 

12:10 昼食

 

セッション4 総合討論:ポスト3・11の技術と制度

 

14:00 総合討論 


Global COE Program 京都大学:生存基盤持続型の発展を目指す地域研究拠点
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