「2011年度 第3回CIAS談話会」(関連する学会・研究会)

日時:2011年10月4日 16:00-18:00
場所:京都大学地域研究統合情報センターセミナー室(稲盛財団記念館2階213号室)

 

発表者:池田有日子(京都大学地域研究統合情報センター研究員)

 

発表タイトル:
ユダヤ・ネーション形成という難問-アメリカにおけるシオニズム運動の議論と戦略-

 

要旨:

 本報告では、第二次大戦期のアメリカにおけるシオニズム運動の議論と戦略の検証を通じて、「ユダヤ・ネーション」の境界線をめぐるポリティクスについて具体的に明らかにしていきたい。
ユダヤ人国家建設を目指したシオニズム運動は、「ユダヤ・ネーション」形成という、ナショナリズムとしての根幹部分で、極めて重大な困難を抱えていた。
ユダヤ人は世界各地に離散しており、アメリカのように反ユダヤ主義が相対的に軽微でユダヤ人の社会的上昇が可能なところでは、その国家のネーションの一員であることに強い政治的帰属意識を有していた。そうしたユダヤ人にとって、シオニズムは、ユダヤ人をアメリカ人とは別の「ネ―ション」として切り離し、反ユダヤ主義を助長しかねない「忌むべき」ものですらあったのである。
シオニズムは、ユダヤ・ナショナリズムとして、アメリカ・ユダヤ人も含めたすべてのユダヤ人を「ユダヤ・ネーション」のなかに包摂しようとする指向を原理的本来的には有すものであった。他方で、「シオニスト」として活動していたユダヤ人ですら「ユダヤ・ネーション」の一員に自らがなるとは想定していなかった。しかし、シオニズム運動は、そうしたアメリカ・ユダヤ人社会の政治的支持を獲得できなければ、「一部の」「突出した」ユダヤ人の運動ということにとどまり、ユダヤ・ナショナリズムとしてのイデオロギーそのものが破綻をきたしかねないものでもあったのである。
本報告は、シオニズム運動が、アメリカにおいて、この「ユダヤ・ネーション」をめぐる葛藤にいかに対応したのかを、第二次大戦中のシオニズム運動の大きな課題であった「ユダヤ軍創設」や、初めて公に「ユダヤ人国家」という目標を掲げた1942年5月のビルトモア会議をめぐる、彼らの議論や戦略の検証を通じて具体的に明らかにしたい。


 


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